味噌煮込みうどん
金シャチ横丁に戻ると、ちょうど人が入り始めるところだったみたい。ぞろぞろと人が歩いてる。すごく多い人だね。大人気な場所なのかな?
『いや、さすがにいつもより多い気がする』
『リタちゃんがそこに行くって決まって一時間以上経ってるからなあ』
『リタちゃん目当ての人も多いってことか』
それは、ちょっとだめだと思う。他の人に迷惑だよ。
でも今更言っても遅いかな。せめて早めに帰るようにしよう。
「味噌煮込みうどんとひまつぶし食べたい。ある?」
『両方あるよ』
『ちなみにひまつぶしじゃなくて、ひつまぶしな』
「ん……。ひつまぶし」
『そうそう』
日本語は難しいと思う。
まずは、どっちにしよう。見つけたものを先に食べるでいいかな?
そう考えてのんびり歩く。視聴者さんが言ってたように、私が目的っていう人も少なからずいるみたい。料理屋さんを見ずに私の写真を撮ってる人が何人かいるから。
「朝見かけた時はなんだか不思議な雰囲気の場所だなって思ったんだけど……」
日本の古い家って独特だから、ちょっと楽しみだったりしたんだよね。でも。
「人が多すぎて、いつもとあまり変わらない」
『なんか、すまん』
『いつもみたいに転移すぐに回るならともかく、なんだけどな』
『今回は行くって決まってからの時間が長すぎたからなあ』
そういうもの、なのかな?
少し歩いて、最初に見つけたのはおうどん屋さん。視聴者さんが言うには、ここで味噌煮込みうどんが食べられるみたい。お店に近づくと、店員さんらしき人が私を見てにっこりと笑った。
「いらっしゃいませ。お待ちしておりました」
「ん?」
「配信を見ていたので、そろそろいらっしゃるかなと」
「おー……」
『あんまりないパターン』
『そっか、一般の人と同じように店の人も準備する時間があるってことか』
『そういう利点もあるのか』
お店の人に案内されて、店内へ。
お店はちょっと落ち着いた雰囲気だ。テーブル席も多いけど、日本の家らしい座布団に座る席もあるみたい。
お店の人に案内されたのは、テーブル席が並ぶ部屋の隅。仕切りが置かれていて、周りからは見えないようにしてくれてる。わざわざ用意してくれたらしい。
「これなら周りの視線も気にならないでしょう」
「ん……。ありがと」
「いえいえ。ご注文は味噌煮込みうどんでよろしいですか?」
「ん」
私が頷くと、店員さんは笑顔で頷いて奥へと歩いて行った。
『これはとても有能なお店』
『なんで地味に上から目線なんだよw』
『いやでも時間があるからって仕切りを用意してくれるって、マジでいいお店やな』
そうだね。気を遣わせてしまってちょっと申し訳ないけど、私としてはとても助かる。
椅子に座って、のんびり待つ。お料理、楽しみだ。
少ししてお盆が運ばれてきた。店員さんがテーブルに置いたお盆には、おうどん。
なんだか、今まで食べたうどんと全然違う。土鍋っていうのかな? それに入っていて、今もぐつぐつしてる。器がすごく熱そう。
ちょっと茶色のスープにはおうどんの他に、ネギやお肉とかの具材も入ってる。お味噌の独特な香りが食欲をそそる。美味しそうだ。
「こちら、味噌煮込みうどんになります。器は大変熱くなっておりますのでお気をつけください」
「うん」
見た目は今まで食べたうどんと一番違う気がする。こんなに濃い色のスープはなかったから。
それにしても。
「おうどん、種類がたくさんあるね。きつねうどんだったり天ぷらうどんだったり」
『そういうのわりと多いよ』
『ラーメンとかもスープの違いで塩味噌醤油シーフードいろいろあるし』
『お好み焼きだって豚玉とかモダン焼きとかたくさんあるよ』
みんなの料理の研究の成果、みたいなものかな?
それじゃ、そろそろ食べよう。
お箸を持って、早速麺をすする。今までのうどんと違って、ちょっと平べったい気がする。もちろん悪いわけじゃない。
ずるずると。んー……。食感がちょっと特徴的だね。コシっていうのかな? すごく強い。あと、麺そのものに味がしっかりしみこんでる気がする。
味は見た目通りにお味噌の味。すごく濃厚だけど、これがおうどんにとても合ってる。
「美味しい」
『素直にうまそう』
『ちょっと味噌煮込みうどんを出前で頼んでくるわ』
『こっちの地区に味噌煮込みうどんの出前ないんだけど』
『まだだ……まだ後にはひまつぶしも控えてるぞ……』
『ひつまぶしだってば』
お野菜やお肉にも味噌の味が感じられて、なんだか不思議なおうどんだった。
それじゃ、次に行こうかな。そう思ってそっと仕切りの横から店内をのぞいてみると、すごく人が多かった。いっぱいだ。お店の前にもたくさんいるみたい。
『なんかすごいことになってる』
『店内にいる常連客のワイ、いつもと違いすぎて笑えてきたw』
とりあえず、お会計。カウンターに行くと、すぐに対応してもらえた。
「ありがとう。美味しかった」
「いえ。こちらこそ、ありがとうございました。その……」
「写真?」
「はい」
このお店でも写真を一枚。忙しそうだったのにいいのかな、と思ったけど、その場に居合わせたお客さんも含めてお店の前でみんなで撮った。
『やったー! リタちゃんと写真に写れた!』
『は? 羨ましすぎるんだけど』
『いいなーいいなー!』
店員さんたちに手を振って、次に移動だ。ひつまぶしのお店は道を挟んで向かい側、らしい。すぐだね。
たくさんの視線を無視して、向かい側のお店に向かった。
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