喫茶店

『愛知と言えば喫茶店のモーニングだと思う』

『何故に』

『発祥だって言われてるよ』


 モーニングって何だろう。えっと……。確か、英語ってやつだよね。でもどうしていきなり英語が出てくるの?

 んー……。真美がいるならすぐ教えてくれるのに。もうちょっと待ってから出発すればよかった。


「モーニングってなに?」


『朝だけ提供する安いメニュー、みたいなイメージ』

『ドリンクとあとちょっとお金を払うと追加でいろいろついてくる、みたいな?』

『ぶっちゃけ今ならどこでも頼めるから、無理して行かなくてもいいと思う』


 せっかくだから行ってみるよ。美味しいものがあるかもしれないし。

 歩いて移動、という気にはならないから、ちょっと上空を移動する。ぷかぷかと。


『お、リタちゃん発見。手を振ってみる』

『見れたのか。いいなあ』

『振り返してくれた! めっちゃ嬉しい!』

『羨ましすぎるんだが!?』


 手を振ってくる人には何度か振り返して、まっすぐ商店街へ。近かったからすぐに着いた。


「おー……。アーケード、だっけ。ある。大きい」


『まだ朝だから人通りは少ない方、かな?』

『え。うちの地元の商店街よりすでに人通りが多いんですがそれは』

『お、おう』

『商店街はどうしても寂れていく傾向にあるからなあ』


 結構人が多いよね。賑やかで楽しそう。とりあえず入り口の方に下りてみる。喫茶店、あるかな?


「え、あれってリタちゃん!?」

「は? 何言って……、マジだリタちゃんだ写真撮ろう写真」

「ちっちゃくてかわいい!」


『ちっちゃくてかわいいwww』

『ある意味端的に表してるw』


 かわいいかはともかく、ちっちゃいは言われ慣れてるけど……。いや、いいけど。

 手を振ってくる人に手を振り返しながら歩いて行く。何故か私のあとをついてくる人が多いけど、これもいつものこと、だね。暇なのかな?

 んー……。お店、多すぎて分からない。せっかくだし、近くの人に聞こう。

 その場で立ち止まって振り返る。私の後を歩いてる人たちも立ち止まった。目の前のお姉さんに聞いてみよう。


「ねえ」

「え? え、あたし!?」

「ん。モーニングっていうのが頼める喫茶店、知ってる? 教えてほしい」

「えええ!? えっと、えっと、喫茶店ならどこでも頼めるけど、あたしのオススメなら……」

「案内してほしい」

「えええええ……」


『羨ましいような、かわいそうなような……』

『いきなり話しかけられて案内して、なんて想像してないだろうからなあw』

『がんばれお姉さん! でも羨ましすぎて嫉妬してます!』

『お前らw』


 スーツ姿のお姉さんはちょっと戸惑いながら、前を歩き始めてくれた。

 そのまま少し歩いて、案内してもらったのはなんだかとても落ち着いてる雰囲気のお店。ちょっとかっこいい。


「ここがオススメ、かな?」

「ん」

「それじゃ、あたしはここで……」

「食べていかないの?」

「う……。じゃあ、同席させていただきます……」

「ん」


『羨ましすぎて吐きそう』

『俺もリタちゃんと一緒にご飯食べたい』

『リタちゃんにあーんってしたい』


「あーんってなに?」


『よりにもよってなんでそのコメント拾ったんですかねえ!?』

『草』


 恥ずかしいこと、なのかな? 気になるけど、無視しておこう。

 お姉さんと一緒にお店に入る。小さいお店みたいで、入って左側にカウンター席、右側にテーブル席が三つだけ並んでる。カウンター席も六つしかないみたい。

 テーブル席が三つと手前のカウンター席にはすでに他のお客さんが座ってるみたいだった。


「おや、おかえりサヤちゃん。忘れ物かい?」

「えっと……あはは……」


 カウンター席の内側にいた初老の男の人がそう言うと、お姉さんは何とも言えない笑顔で頬をかいていた。おかえりっていうことはここが家なのかな。もしくは。


「もしかして、今日はもう食べた後?」

「実はそうです……」


『微妙に気まずいやつ』

『顔も名前も覚えられてるって常連さんなんだな』

『なんだろう、喫茶店の常連、憧れる……』

『新聞片手に店に入って、お気に入りの席に座って、マスターいつもの、みたいな!?』

『現実は?』

『コンビニ』

『草』


 何を食べられるのかはよく分からないけど、毎日お店に通うっていいなって思う。美味しいものが食べられるって幸せだから。私は真美が作ってくれるけど。


「そこの子は、サヤちゃんの知り合いかな?」

「ん……?」


『お?』

『マジで? リタちゃんを知らない人?』

『いやまあ、知らない人がいても不思議ではないけど』

『でも大きいニュース番組でも流れたぐらいだから、かなりレアでは』


 逆にちょっと新鮮かもしれない。のんびりできそう。


「マスターさん、この子はその、ちょっと有名な子でして。一番奥のテーブル席を使わせてもらってもいいですか?」

「ほほう。有名人か。いいよいいよ」

「ありがとうございます」


 お姉さんの言葉にお客さんたちの方が反応して私を見てくる。そして固まってる。うん。最近はこれがいつもの反応のような気がしてる。

 お姉さんと一緒に一番奥のカウンター席へ。メニューもちゃんとある。えっと、モーニング、だったよね。

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