もにゅもにゅ
ぐつぐつ茹でてていたら、リーダーさんが少しだけ警戒しながらこっちに近づいてきた。視線はお鍋に集中してる。タコが気になるみたい。
「なあ、魔女さん。それ、食えるのか?」
「多分?」
「多分って……」
毒はどうなのか分からないから。食べたら分かる。大丈夫、即死するような毒でも無効化できるから。
三分茹でたところで、取り出してと……。あとは適当に短く切ろう。風の刃ですぱすぱと。最後に軽く冷まして、完成、かな?
とりあえず一口、ぱくりと。んー……。
「もにゅもにゅしてる」
『もにゅもにゅ』
『もにゅもにゅwww』
『なんとなく分かるけどw』
薄く切ったもの、お寿司とかだね、そういうのは食べたことがあるけど、今みたいな大きめのぶつ切りは初めて。タコってこんな食感なんだね。
悪くはないけど、お醤油が欲しい。お部屋に戻って食べようかな。
「ほう。それ食えるのか」
「ん」
「少しわけてもらってもいいか?」
「んー……。ん」
そう聞いて来たのは船長さんだ。私が食べる量が減っちゃうけど、まあいっか。でも半分ほどは確保してアイテムボックスに入れておいた。あとでお醤油で食べる。
「どうぞ」
「ありがとよ。ちなみに毒は?」
「これにはない」
「これには、か。つまり同じようなやつでも、毒のあるやつもいるってことだな」
「ん」
見分け方を聞かれたとしても答えられないけど。そこまでタコについて調べてない。日本のタコでも私は判別できないから。
船長さんはタコを一口食べ、ほう、と口角を持ち上げた。
「少し淡泊な味だが、悪くない。調味料を考えれば、十分化けるなこれは」
「船長、美味いんすかそれ」
「俺もいいっすか!」
船員さんが集まってきた。さすが海の人たちと言うべきなのか、食べられると分かると好奇心の方が勝るみたい。冒険者さんたちは逆で、あまり関わろうとはしてこなかった。美味しいのに。
「それ、あげる」
「ああ、ありがとよ」
「ん」
すぐにその場から離れて、自分のお部屋へ。リーダーさんたちが何か言いたげだったけど、私はタコを美味しく食べたい。それが最優先。
お部屋に入って、テーブルにタコと小皿を置いてと。次は、お醤油。調味料は日本に行く時に買うようにしてるから、お醤油もちゃんとある。少し出して、タコにつけてから食べる。
「もにゅもにゅ……。美味しい」
『いいなあいいなあ!』
『料理とも言えないほどにシンプルなのにめっちゃ美味そうに見える』
『ちょっとタコ買ってきて日本酒のつまみにするわ』
『なにそれうらやま』
お酒と一緒に食べると美味しいのかな? お酒には興味がないから、別にいいけど。
その日はタコをじっくりと楽しんだ。また食べたいな。
出航してから五日。
「ひま」
お部屋のベッドでごろんとしてます。
『リタちゃんwww』
『ついにマストのてっぺんも飽きたっぽいしなあ』
『まあ海のど真ん中なんて、基本的に代わり映えなんてしないだろうからな』
風は気持ちいいけど、それだけだった。もうマストの上も満足した。あとは、どうしよう。とても暇だ。日本に行こうかな。
たまに真美のお家で晩ご飯をもらってるけど、そろそろどこか行きたい。次はどこに行こうかな。お魚はお船でたくさん食べたから、お肉の美味しいところがいい。
唐揚げもいいなあ……。唐揚げも食べたいかも。師匠のお母さんのところに行こうかな。
んー……。
「ひま」
『見れば分かる』
『馬車の護衛の時よりも暇そうだしw』
『あの時はまだフランクさんとか話し相手もちゃんといたからなあ』
今回は親しい人がいないから、ちょっと、寂しい……気がする。気がするだけ。
このまま何事もなく船旅が終わるなら、本当に日本に行ってもいいかも、なんて思っていたら。
船が大きく揺れた。
「わ、と……」
『おん?』
『なんか画面揺れた?』
「ん……。お船が揺れた」
わりと強く揺れた気がする。あと、なんだかちょっと騒がしくなってる気もするかな。
少し耳を澄ますと、大砲の音も聞こえてきた。どん、ととても低い音が何度か聞こえてきてる。
「魔獣か海賊かも。大砲の音みたいなのが聞こえてる」
『まじで!?』
『テンプレキタアアア!』
『よっしゃリタちゃん退治しようぜ退治!』
『海賊なら相手の船をたたき割ろうぜ! 真っ二つだ!』
『魔獣ならさくっと討伐して味見しよう!』
視聴者さんのテンションもちょっと高い気がする。みんなもやっぱり退屈だったのかな。
まだ誰も呼びに来てないから、私は行かなくてもよさそうだとは思うけど……。でも、退屈だから様子を見に行こう。もしかしたら、呼びに来る余裕がないだけかもしれないし。
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