港町のギルド

「ギルドはどこ?」

「はっ。大通りをまっすぐ進み、港に向かってください。港に面する道にございます」

「ありがと。通っていい?」

「もちろんです。どうぞ」


 これがSランクのカードの効果だね。待たなくていいからとても便利。門を通りながら、思わず言った。


「とても便利な通行証」


『Sランクのギルドカードを通行証扱いすんなw』

『リタちゃんにとってはその程度の価値なんだろうけどw』


 大通りをのんびり歩く。街の雰囲気は他の街と似たようなものかな。でも、お店をちらっと見てみるとお魚が売ってたりと品揃えが違う。

 お魚。そう、お魚だ。お魚食べたい。せっかくの港町だし、何か売ってるかも。

 大通りをてくてく歩いて海の方に向かう。お店を見ながら歩いていたら、ついにそれを見つけた。焼き魚の屋台、なのかな。串に刺したお魚を焼いてるお店。


「お魚の屋台だ」


『マジかよwww』

『焼き魚の屋台とか日本でもほとんど見ないぞw』

『でも美味そう』

『わかる』


 お魚が焼ける音がとても美味しそう。香ばしくて、とてもいい匂い。

 そのお店に近づくと、恰幅のいいおばさんがお魚を焼いていた。私を見て、にっと笑った。


「いらっしゃい。食べてくかい?」

「ん」


 お金を渡して、お魚をもらう。塩をさっと振りかけただけのお魚だ。とりあえず、一口。


「んー……。ほくほくしてる。生焼けになってないし、悪くない」


『ええなあ、お魚の丸焼き』

『鮎の丸焼きとか美味しいよね』

『ワカサギの唐揚げとかもいいよ』

『俺は普通にサンマがいいなあ』


 お魚、美味しいよね。最初は骨を取るのが面倒だと思ったけど、それをするだけの価値はあると思う。師匠と一緒に森の川で魚釣りをしたことがあるけど、あれも美味しかった。


「でも結局面倒になるんだよね」


 口を開けて、お魚を骨ごとぱくり。骨をかみ砕く。これがやっぱり手っ取り早い。


『ちょwww』

『リタちゃん何やってんのw』

『食べ方がワイルドw』


「骨まで食べないともったいないかなって」


 師匠が言ってたよ。骨を食べたらかるしうむ? が取れるから体にいいって。成長に大切な栄養素とかなんとか。私はあまり気にしないけど、師匠は気にしてくれてたみたい。

 でも師匠もうろ覚えの知識だったらしいけどね。それに、エルフが必要とする栄養が人族と同じかも分からない、というよりそもそも日本と異世界が同じかも分からない、で終わっちゃったけど。

 お魚を骨ごと食べ終わったところで、港にたどり着いた。海がとっても広い。大きなお船もたくさんだ。


「おー……。お船いっぱい」


『リタちゃんがなんだかわくわくしてるのが分かる』

『こういう船もいいよね。乗ってみたい』

『帆船とか今じゃ乗る機会なんてほとんどないからなあ』


 私は今から乗る予定だけどね。楽しみ。

 とりあえず、まずはギルドに行かないと。港に面する道にあるって話だったけど……。

 道沿いの建物を見てみると、一つだけ、他よりも大きな建物があった。看板にもギルドって書かれてる。あそこみたいだね。

 ギルドの中に入ってみると、なんだかとても賑やかな場所だった。


「酒! こっちにもくれ!」

「つまみたりねえぞ!」

「お前ばっかだなあ! がははは!」


 えっと……。ギルド?


『ただの酒場では?』

『でもある意味一番ギルドっぽい気がするw』

『それゲームか何かのイメージだろ』


 部屋を見回してみると、半分がギルド、半分が酒場になってるみたい。これはこれでおもしろいとは思うけど、酒場の方がうるさすぎないかな? ギルドの方が迷惑だと思うんだけど。

 ギルドのカウンターには受付の人が三人いて、冒険者の人はみんなそこに並んでる。どこに並ぶのかは分からないけど、どこでもいいのかな?


「ねえ、これどこに並んでもいいの?」


 側の剣士さんに聞いてみると、少しだけ怪訝そうにしながらも教えてくれた。

 冒険者が依頼を受ける時、報告する時はどこの列でもいいみたい。依頼の場合は二階に行かないといけないんだって。二階ならまだ静かだから、らしい。

 どうして酒場があるのかと聞いてみたら、もともとはギルドは街の端っこにあったみたいで、船乗りさんが依頼する時に不便だからと移転してきたらしい。その時に、いい場所がここしかなかった、とのこと。


『ほーん。ギルドが後から入ったんか』

『他にいい建物なかったのかよと言いたくなるなw』

『こんなに騒がしいと船乗り以外は入りにくいだろこれw』


 私もそう思う。それでも船乗りさんを優先するぐらいに、船乗りさんからの依頼が多いのかもしれない。

 列に並んでしばらく待って、ようやく私の番になった。


「ようこそ、ギルドへ。依頼なら二階になりますが……」

「ん。挨拶」


 Sランクのギルドカードとセリスさんが書いてくれた紹介状を受付さんに渡す。受付さんはぎょっと目を剥いて、恐る恐るといった様子でカードを手に取った。


「これは……はい……。確かに……。こほん。ようこそ、冒険者ギルドへ、隠遁の魔女様。来訪を心より歓迎致します」


 おー……。明らかに態度が変わった。分かりやすい。


『めちゃくちゃ丁寧になってるw』

『やっぱSランクってすごいんだなあ』

『ただの食欲の魔女なのに』


 怒るよ? 否定はちょっとできないけど。

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