小さい馬
「リタちゃんもよければ乗ってみる?」
「いいの?」
「もちろん。正直、リタちゃんなら落馬しても怪我しないでしょうし」
『ちょwww』
『それはその通りだろうけど責任者が言っていいことじゃないw』
「あ、今の部分はカットで」
『生配信ですよwww』
言ってることは間違ってない、と思う。あの映像を見たら、走ってる時に落ちたら、人間だと大怪我すると思うから。私は結界があるから怪我もしないだろうし、そもそも落ちそうになったら飛べばいい。
とにかく、乗っていいらしいので、乗ってみる。なんだかすごく甘えてくるお馬さんを撫でながら、言った。
「のせてほしい」
ぴくり、とお馬さんの耳が動いて、私をじっと見つめて、そしてしゃがんでくれた。乗りやすいようにしてくれてるみたい。
「え」
『嘘やろ』
『なんて紳士的な馬なんだ』
ん。すごく優しい子だね。よいしょ、と馬の背中に座ってみると、ゆっくりとお馬さんが立ち上がった。
「おー……。なんだか、視線がちょっと高くて、不思議な感じ」
『視線が高い……?』
『空を飛ぶ子が何を言ってるんですかね』
それはそれ、これはこれ、だよ。自分で飛ぶのと乗せてもらうのは全然違うから。
お馬さんがぱっかぱっかと歩き始める。おー……。結構、揺れるね。落ちそうだから魔法で固定しておこう。
「りりりリタちゃんさすがに危ないからちょっと待って!?」
「ん。平気」
「平気じゃないが!?」
『牧場長さんwww』
『あんなこと言ってたけどやっぱりさすがに慌てるのかw』
心配しすぎだと思うけどね。
お馬さんが走り始めて、だんだん速くなってきた。んー……。なかなか速い。
それにしても、あんまり安定しない。魔法である程度固定したから落ちる心配はないけど、それがなかったらちょっと辛いと思う。
でも、あの動画だとみんな全力疾走の馬にまたがってるよね。とてもすごいと……、待って。
「あれ? そういえばあの動画のお馬さん、何かつけてたような……」
『お、気付いた』
『鞍、というものがあるんだ。普通はそれを使う』
『牧場長さんが慌てたのはそれをつけてないから、だと思うw』
なるほど。それなら、ちょっと悪いことしちゃったかも。
お馬さんの首あたりを軽く叩く。もう大丈夫、と言うとお馬さんは立ち止まってくれた。
お馬さんが振り返って、私を見てくる。もういいの? とでも言いたげに。
「ん。満足した。ありがとう」
そう言うと、お馬さんは大きく息を吐き出した。とりあえず撫でてあげておこう。
甘えてくるお馬さんを撫でていると、牧場長さんが走ってきた。かなり慌てさせてしまったみたい。ちょっとだけごめんなさい。
「リタちゃん……。危ないから、鞍をつけずに乗るのはやめてね?」
「ん。ごめん」
「いえ。怪我はないみたいだし、いいのよ。それじゃ、次に行きましょう」
「ん」
お馬さんをもう一度ゆっくり撫でてから、牧場長さんの少し後ろを歩く。次は何を見せてくれるのかな。少し楽しみ。
そうして次に牧場長さんに案内されたのは、同じような柵で囲まれた場所。でも、中にいる動物は、さっきのサラブレッドとは全然違うものだった。これも馬、なのかな?
柵の中にいたのはとても小さい馬だ。さっきのサラブレッドと比べると、えっと……。
「中ぐらいの馬とちっちゃい馬だ」
『中ぐらいwww』
『言い方w』
『シェトランドポニーとファラベラかな』
『なあんで見ただけで分かるんですかねえ?』
『ちっちゃいのがファラベラだよ』
ポニーって、小さいお馬さんだったよね。あんなに小さい馬もいるとは思わなかった。ちょっと大きな犬ぐらいの大きさかもしれない。
二頭とも、私を見つけるとこっちに歩いてきた。そしてじっと見つめてくる。さっきのサラブレッドみたい。
手を差し出してみると、二頭とも頭をすり寄せてくれた。かわいい。
『リタちゃんはお馬さんを魅了するフェロモンでも出してんの?』
『でえじょうぶだ、俺たちも魅了されてっから』
『おまわりさんこいつです!』
『おまわりさんも魅了されてるので動けません』
『もうだめだこの国w』
そんな変なフェロモンはないよ。
でも、本当にかわいいね。この、ファラベラ、だっけ。わりともふもふしてる。
もちろん中ぐらいのお馬さんもかわいい。すごく甘えてきてくれる。なんだか新鮮だね。精霊の森だと、こういう動物はいないから。
「リタちゃん、気に入ってくれたみたいね」
「ん。すごくかわいい。特にこのちっちゃいお馬さん、かわいい」
「ふふ。そうでしょう?」
『前もちょっと思ったけど、リタちゃんちっちゃい動物が好きなん?』
『犬とか猫も好きだったよね』
『森にいるのが基本的に大きいから、小さくて人なつっこい動物はそれだけでかわいいのかも』
『なるほど』
んー……。多分、それはあると思う。あの森は基本的に大きい魔獣しかいないから。森の浅いところでも、大きいウルフとかがいるし。
たっぷりとお馬さんを撫でて、とりあえず満足。来てよかった。できればちいちゃんも連れてきてあげたい。牧場長さんに交渉してみようかな。
「ちなみにリタちゃん。馬のぬいぐるみもある……」
「言い値で買う」
「定価でいいから!」
『言い値www』
『どんだけ気に入ったんだ、リタちゃんw』
すごく、だよ。
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