ミレーユさんの宿泊先
カリちゃんと朝ご飯を食べてから、私はいつものように配信を開始した。
「おはよう」
『おはよう!』
『挨拶できてえらい!』
『でもいつもの、ん、がなくて寂しい』
挨拶してもしなくても文句を言われるってどうしたらいいのかな。
「今日はミレーユさんに会いに行く」
『てことはそっちの世界の街ってことだな!』
『そういえばそっちの世界でも一週間音信不通だったんだよな』
『心配してそう』
「ん……」
心配してるかな。精霊様から、ミレーユさんが森に来たとも聞いてないから、探されてることはないと思うんだけど……。謝った方がいいかな。
そんなことを考えてる間も、コメントは流れていってる。
『でも今更そっちの世界に何かあんの?』
『師匠がとりあえず生きてることも確定したし、必要かい?』
『もっと日本に遊びに来てもいいんだよ!』
『そっちが本音だろうがw』
それも魅力的だけど、でもこっちでもやりたいことがあるから。日本はまた今度、だね。
「師匠がこの世界を旅していたのは間違いないから……。師匠が何をしていたか、調べに行きたい」
学園で教師をやっていたみたいに、他の街でも何かしているかもしれない。それを調べてみようかなと思ってる。やっぱり気になるから。
それに。師匠の旅の目的も知りたい。私には特に理由なんてないみたいな言い方だったけど、何かあったんじゃないかなと思ってる。
これに関してはあるかもしれないし、ないかもしれない。それでもやっぱり調べてみたい。
『やっぱりリタちゃん、師匠のこと大好きだよな』
『まあ親みたいなもんだし』
『何か分かるといいな』
ミレーユさん次第、というのがちょっとだけ申し訳なくなっちゃうけど。
改めて、転移の魔法を使う。向かう先はもちろん、ギルドマスターさんの部屋。ギルドマスターさんなら、ミレーユさんがどこにいるのか知ってそうだし。
そうして転移した先のギルドマスターさんの部屋では、ギルドマスターのセリスさんが書類仕事に追われていた。書類なのかな、じっと読み込んでる。
「こんにちは」
声をかけると、ギルドマスターさんは驚いたように顔を上げて、私を見て安心したように微笑んだ。
「いらっしゃい、リタさん。急に来るから驚いたわ。どうしたの?」
「ん。ミレーユさんを探してる」
「ミレーユなら、今日は休日だから宿にいると思うわよ」
「お休み……。今度にした方がいい?」
「気にしなくていいわよ。むしろ最近リタさんを見ないと心配していたから、顔を見せてあげて」
ああ、やっぱり心配してたんだ。謝っておかないと。
セリスさんからミレーユさんが宿泊している宿の場所を聞いて。早速向かうことにする。
セリスさんに手を振って、また転移。次に出たのは、ギルドの側の路地裏だ。人の視線が少ない場所が良かったからここになった。
『ミレーユさんの部屋の前に直接転移するかとw』
「さすがにしないよ」
地図はもらったけど、まだ正確な場所じゃないからね。確認すれば転移しても大丈夫だろうけど、見もしてないのに転移は怖くてできない。
杖を持って、街の中を歩いていく。日本と違って注目されるようなことがない。たまにちらちら見られるけど、私の背のせいだと思う。子供が一人で、とか思われてるのかも。
「ミレーユさんの宿ってどんな宿だろう。大きいかな」
『多分大きい』
『数少ないSランク冒険者の宿泊先だぞ?』
『絶対に豪華だと思う』
それは、そうかも。とっても大きな部屋かもしれない。
そんなことを話しながら歩いてたどり着いた建物は、少し予想と違うものだった。
看板に宿と書いてある二階建ての建物。多分ここがミレーユさんが宿泊してる宿だと思うんだけど、看板の下には貸し切りと書いてある。一階は食堂になっていて、こっちは営業中みたいだ。
宿の建物は幅のある建物になっていて、広さはなかなかのものになってそう。食堂だからご飯も食べられるかも。楽しみ。
左端にある扉を開けて、中に入る。
一階は受付のカウンターと、その奥に二階に続く階段があった。カウンターの右側はとても広い部屋になっていて、たくさんのテーブルと椅子が並んでる。食堂はこの部分だね。
カウンターには恰幅のいいおばさん。私を見て、おや、と小さな声を出した。
「いらっしゃい。あんた、もしかしてリタさんかい?」
「ん」
「そりゃよかった。ミレーユ様が、魔女の姿をした女の子が来るかもって言っててね。あんたが来たら教えてほしいと頼まれてんのさ。ちょっと呼んでくるから待っててもらえるかい?」
「ん」
私が頷くと、おばさんは奥の階段を急いで上っていった。
「なんだか、予想と違う宿だね。もっとすごく豪華な場所なのかなと思ってた」
『俺も俺も』
『宿部分を貸し切ってるとはいえ、ファンタジーにありがちなふっつーの宿屋だよなあ』
『ここが仮にも公爵令嬢が泊まる宿か?』
もっとこう、大きなというか、豪華な建物なのかなと思ってたから、ちょっと拍子抜けだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます