真美の学校
「ただいま!」
真美が戻ってきたのは、真美の最後のコメントから三十分後だった。
「ええ……」
『早すぎて草』
『学校が近いのかもしれないけど、それでも早すぎるわw』
真美はリビングに駆け込んでくると、私と紙袋を見てにっこりと笑った。そのまますぐに私の手を掴んで立たせてくる。ちょっとだけ怖いよ。
「リタちゃん、それはこの部屋に待機させておいてね」
「ん」
言われた通りに、光球が動かないようにしておく。そして真美は私の腕を引っ張って歩き始めた。
「はいこっちに来てね! 着替えよう!」
真美のこの行動力はどこから来てるのかな。不思議。そうして案内されたのは、初めて入る部屋だった。
勉強机に本棚やクローゼット、ベッドが並ぶ部屋。白いカーペットが敷かれていて、小さな机やクッションもある。ベッドにはぬいぐるみがいくつか。
そのぬいぐるみを見て思い出した。竜カツカレーですっかり忘れていた。
「真美。真美」
「うん?」
「はい」
アイテムボックスからイルカのぬいぐるみを取り出して真美に渡す。あ、と真美も声を出していたから、すっかり忘れていたのかも。お互い様だね。
ぬいぐるみを受け取った真美はしばらくもふもふとしていたけど、嬉しそうに微笑んでくれた。
「ありがとう、リタちゃん。大事にするね」
「ん」
イルカのぬいぐるみはベッドのぬいぐるみたちのお隣へ。真美のコレクションらしい。ちいちゃんも気に入りそうな、ほどよいサイズはリビングに置いて、大事なものはこの部屋に、だって。
じゃあ……。私もぬいぐるみはお家の私室に飾っておこうかな。
「あ、そうだ。リタちゃん、ぬいぐるみのお金は……」
「別にいいよ。いつもご飯作ってもらってるから」
「え、でも……」
「いいから」
これでもまだ返し切れてないと思ってる。だから、ぬいぐるみが好きならこれからもちょっとずつ買おうかなと思ってる。でも邪魔になったら困るだろうから、買う前に聞くようにはするけど。
真美は納得してなさそうだったけど、私が絶対に受け取らないと言うと諦めてくれた。
「それじゃあ、改めて……」
「ん」
「制服だね!」
「ん……」
そしてこれは避けられなかった。嫌なわけじゃないんだけどね……。
真美に手伝ってもらって着替えてから、私たちはリビングに戻った。
「着替えた」
真美とおそろいのセーラー服。色はともかく、セーラー服は日本の学校の制服としてはわりと多いらしい。着心地はそれほど悪くない、と思う。
『ちっちゃい学生さん!』
『かわええ』
『黒セーラーに赤スカーフ。王道やね』
『古参勢のワイ、リタちゃんの制服姿に泣きそう』
『あのバカにも見せてやりてえなあ』
師匠に見せても多分笑うだけだと思う。似合わない、とか言われそう。なんとなく、お腹を抱えて笑い転げる師匠がイメージできる。
でも、師匠のことだから、悪かったって謝って頭を撫でてくれるんだろうな。できればまた撫でてほしい。
「よし! それじゃあリタちゃん!」
「ん」
「学校、行ってみよう!」
「ん?」
何言ってるのかな真美は。
『どうした真美ちゃん、気でも狂ったか』
『落ち着けいつも通りだ』
『なお悪いわw』
「ひどいなあ……。むしろそっちがメインだよ」
苦笑いしながら、真美が教えてくれた。
真美が橋本さんに依頼したのは、学校の体験入学らしい。魔法学園を見て、どうせだから日本の学校も体験してもらいたい、と。私の見た目だと小学校という場所になるらしいけど、そこは真美が案内するという名目で真美の通う高校になったということだった。
つまり今回の目的は私に制服を着せることだったわけじゃなくて、私を高校に連れていくことだったみたい。
「もちろん、無理強いはしないよ。リタちゃんが行きたくないなら……」
「行く」
「え。いいの?」
「ん」
真美が普段、どこで勉強をしているのか、ちょっと興味があったから。ちょうどいい機会だと思う。それよりも気がかりなのは。
「真美はいいの? さすがにそこまですると、認識阻害が機能するかは分からないけど」
「その時はその時、ということで。そこまで生徒数も多くないし、大丈夫だと思う。思いたい」
『ただの願望じゃねえかw』
『リタちゃんの認識阻害ならきっと大丈夫!』
『まあもしもの時はリタちゃんがどうにかしてくれるさ!』
私に関することだから何かあればもちろんどうにかするけど。でも避けた方がいいかなと思ってしまう。やっぱり断ろうかなと思って真美を見ると、なんだか嬉しそうな笑顔だった。
んー……。いっか。きっと大丈夫だ。
「それで、いつ? 明日?」
「あ、それなんだけど、少しだけ待ってもらっていいかな。先生たちに改めて伝えてになるから……。また決まったらでいい?」
「ん」
今回は真美の希望だからね。私は特に急がないし、真美に任せようと思う。真美の準備が終わるまでは、他の場所に行こうかな。
「それじゃあリタちゃん! 私はまた学校に戻って先生に相談するから!」
「え? あ、うん」
「晩ご飯はステーキとかどうかな? よければ、あのお肉で」
「ん。是非」
「よかった! じゃあ、また後で!」
真美はそう言うと、慌ただしく部屋を出て行ってしまった。それはもう、あっという間に。
『行動力の化身やな』
『よっぽど嬉しいんやなって』
『心桜島の高校はわりと設備がいいって聞くから、期待していいと思うぞ!』
そうなんだ。漫画を読んだ時になんとなくでイメージがあるけど、真美の学校はどんな場所になってるのかな。とても楽しみだ。
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