お昼ご飯と特例の説明


 その後はそのまま授業を受けたけど、新しい知識は特になかった。私も知ってる術式の仕組みとか、そういったことばかり。

 でも、教え方、という意味では学べたかもしれない。人に教えるのってやっぱり大変だ。

 授業の後、短い休憩時間があるんだけど、たくさんの人に囲まれてしまった。


「どこから来たの!」

「隠遁の魔女様ってどんな人!?」

「好きな魔法とか!」


 できるだけ、当たり障りのない内容だったけどちゃんと答えたつもり。大丈夫かな? それにしても、さすがにちょっと疲れたかも。あんなにたくさんの知らない人に話しかけられるのは、ちょっと気疲れが……。


『どこの世界も転校生に興味を持つのは一緒なんやなって』

『転校生じゃなくて留学生だけど』

『細けえことはいいんだよ!』


 留学生なんて普段はほとんどいないみたいだし、仕方ないのかな。

 そんな授業と休憩時間をお昼まで繰り返して思ったことは、授業についてはあまり学ぶものがないかな、ということ。とりあえず今日聞いたものは、全てお家の本のどこかに書かれているものが全てだった。

 わりと基礎の部分、魔力のコントロールに関わるものだったから、そのせいかも。別の授業も見に行きたい。

 でもとりあえず。今はお昼休み、お昼ご飯の時間だ。どんなご飯なのか、ちょっと楽しみ。


『授業よりもわくわくしてる』

『授業は途中から完全にやる気なくなってたからなあw』


 正直、あれなら亜空間で研究してる方が楽しいから……。


「リタさん!」


 お昼ご飯に行こう、と思ったところで、エリーゼさんに呼び止められた。隣の席だし予想はしてたけど……。


「昼食ですが、一緒にどうですか? よければその時に、他の授業を受ける注意点とか伝えさせていただきたいなと」

「それはありがたいけど……。どうしてエリーゼさんが?」

「それは私も、他の授業を受けられるからです」


 でもとりあえずお昼ご飯ですね、とエリーゼさんは立ち上がった。




 食堂はお城の一階と寮の一階それぞれにあるらしい。晩ご飯は必ず寮で食べないといけないみたいだけど、お昼はどっちでもいいんだって。身分差で区別されてる、というわけでもないみたい。

 正確に言えば。上位貴族用の食堂がお城の二階にあるらしいけど……。エリーゼさんは面倒だから行ってないとのこと。


「ただでさえ実家に帰ったりしたら色々と面倒なんです。せめて学園にいる間ぐらいは、貴族の煩わしい面倒事は忘れたいんです」


 魔法学園に通う貴族の子供の多くがエリーゼさんの考えらしい。例外は、箔をつけるために通っている人。少数派だけど確かに存在していて、そういった人はお城の二階を使うらしい。


「もちろん私たちも二階は使えますけど……。魔法談義をするなら、身分など気にせずに大勢の人と意見交換をしたいです」

「ふうん……。貴族のイメージと違うね……」

「はい! 間違いなく私たちが異端です!」

「胸を張るところなのそれ」


『やっぱり異端なのかw』

『バルザス家の令嬢さんはこんなのばっかなの?w』


 でも、エリーゼさんはとても楽しそうだからこれでいいのかも。

 学園の食堂は、奥に食事を渡すカウンターがあって、他は長テーブルと椅子がたくさん並ぶだけの広い部屋だった。年齢性別問わずたくさんの人が、ある程度の塊になって話をしてる。


「何かしら話したいテーマがあるなら、どこかのグループに加わってもいいと思います。今回は私たちの特例についてのお話になるので、隅に行きましょう」

「ん」


 エリーゼさんに連れられて、まずはカウンターでご飯をもらう。さすがに人数が多いからか選ぶことはできないみたいで、柔らかそうなパンにお肉が入ったスープ、サラダというメニュー。スープはお肉よりも味を楽しむためのものかな。お肉が少ない。


「みんなが魔力を使った後のご飯、つまり晩ご飯ではお肉がたくさん食べられます!」

「そうなんだ」


 エリーゼさんが慌てたようにそう言った。もしかして、不満がちょっと顔に出てたのかな。


『わりとがっつり出てたな!』

『これだけ? みたいな顔だったw』

『いつものご飯と比べたらやっぱりなあw』


 それは、うん。失礼だよね。気をつけよう。

 エリーゼさんと一緒に、食堂の隅の席へ。席はカウンターの側から順番に埋まるみたいで、隅の席は人が少なかった。


「それじゃあ、リタさん。授業について軽く説明します」

「ん。よろしく」

「はい!」


 すごく嬉しそうに頷かれたけど、どうしてだろう。とりあえずちゃんと聞かないとね。

 授業は午前に座学、午後に実技を行うらしい。座学は私が午前に受けた魔法の基礎の授業の他、各種系統の専門的な講義もあるんだって。

 入学後の最初の二年は必ず基礎の授業を受けて、それから専門的な講義を受けることになるんだとか。最初から基礎を完璧に習得していれば、その過程は省けるらしいけど。


「もっとも、基礎の省略を認めてもらうのはかなり難しい試験を突破しないといけないんです。合格できるのは年に一人いるかどうか、ですね。ちなみに私は合格しました!」

「すごい」

「えっへん、です!」


 じゃあエリーゼさんは、特別扱いでもちゃんと正規の手続きをして認められたってことだね。本当の意味で特別扱いは私だけかも。

 午後の実技は午前の授業を受けた上で、実際に試していく時間らしい。座学だけじゃ上達しないから当然かな。


「エリーゼさんはどうして基礎の授業にいたの?」

「もちろんリタさんを迎えるためです!」

「あ、うん……。ありがとう……」


『圧がすごい』

『こわい』

『これは間違いなくリタちゃんの信者』


 微妙に困るからやめてほしい。

 各系統の講義は色々と種類があって、さすがにエリーゼさんも内容までは知らないみたい。というより、エリーゼさんは魔道具の講義ばかり受けてるらしいけど。

 だいたいのお話は聞けたから、改めてご飯に集中……したいところ、なんだけどね。不味くはないけど、正直なところなんとも言えないかなって。日本のご飯だけじゃなくて、適当に作るご飯の方が美味しいかもと思ってしまう。晩ご飯に期待したい。

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