キツネの着ぐるみ
自分のお家に転移して、ミトさんの様子を見る。まだ本を読んで……、いや、読み終わってるみたい。よく見ると最初に読んでいた本だ。
「ミトさん」
呼んでみると、今までと違ってミトさんはすぐに反応してくれた。
「あ、お帰りなさい! 晩ご飯は……、何ですかその服……?」
「あ」
しまった、真美に返すのを忘れてた。着ぐるみパジャマのままだ。えっと……。次の時に返したらいいかな……?
『あ、そのまま使ってね。できればフードも被ってほしいけど!』
『てか気付いてなかったんかいw』
『吹っ切れたのかと思ってたw』
さすがにそれはないよ。ちゃんと着替えて戻るつもりだったんだけど……。見られたのなら、もういいかな。
フードを被ってみる。キツネの耳がチャームポイント、らしい。よく分からないけど。
「もらった。どう?」
「抱きしめていいですか?」
「何言ってるの?」
『ミトさんwww』
『いやでも実際かわいい。すごくかわいい』
『スクショしまくった』
えっと……。うん。喜んでくれたなら、いいよ。うん。
『リタちゃんちょっと顔赤い?』
『てれてれリタちゃん』
『てれリタ』
やめてほしい。恥ずかしいから。
「晩ご飯は持ってきてるから……。服にはもう触れないで」
「あ、はい……。その、ごめんなさい」
「んーん。気にしないで」
テーブルの上にアイテムボックスから取り出したピザの箱を置く。ついでに紙皿も取り出して、半分をそこに置いた。残りは精霊様へのお土産だからアイテムボックスに戻しておく。
「はい、どうぞ」
「ありがとうございます。リタさんは……」
「食べてきたから気にしないで」
「分かりました。えっと、これはどうやって……」
「素手で食べるもの」
「素手ですか……!」
なんだろう。ちょっと楽しい。反応が面白い。もしかしてみんなが私を見てる時ってこんな感じなのかな。
ミトさんは戸惑いながらも、ピザの端を持って引っ張った。食べやすい大きさに切れたことに驚きながら、先端から口に入れて……。
「美味しい……!」
目をまん丸にしてそう言った。
「すごく美味しいです!」
「ん。いっぱい食べてね」
「はい!」
喜んでもらえて良かった。ピザ、美味しいからね。
ミトさんはあっという間に食べ終わってしまった。とっても満足そうで、見ている私もなんだか嬉しい。
『こっちもピザ届いた』
『ピザうまー!』
『たまに食べるからこそいいよね、こういうの』
そういうものなのかな。私にはちょっと分からない。
「ミトさん、本は全部読み終えたの?」
そう聞いてみると、ミトさんはすぐに姿勢を正して頷いた。
「はい、読み終わりました。大丈夫です」
「ん。それじゃあ、明日からは実際に術式を組み立ててみて。本を読み直しながらでもいいから、妥協せずに作ること。夜に確認するからね」
「分かりました!」
すごくいい返事。期待できるかも。
「それじゃあ、ゆっくり休んでね。私は精霊様に会ってくるから」
「はい、おやすみなさい」
ミトさんに手を振って、今度は世界樹の前へと転移した。
世界樹の前では、すでに精霊様が待ってくれていた。いつも通りの、優しい笑顔。
「おかえりなさい、リタ。楽しか……、ちょっと抱きしめます」
「精霊様?」
『草』
『いいなあいいなあ羨ましいなあ!』
なんなんだろうね。普段とは違う服だからかな。もう……。いいけど。好きにしてほしい。
精霊様から後ろから抱きしめられて、頭をなでなでされてる。フードごしだけど、気持ちいい。ちょっとだけ恥ずかしいけど、ね。
「それで、楽しかったですか?」
「ん。楽しかった。お風呂も気持ちよかったよ」
「ああ、お風呂ですか。コウタも恋しがっていました」
やっぱり師匠もお風呂が好きだったみたい。日本の人はみんな好きなのかな。
アイテムボックスからピザの箱を取り出して、精霊様の前に置く。ありがとうございます、と頷いて、精霊様は一切れ食べ始めた。
「なるほど。これも美味しいですね……」
「ん……」
「ふふ。リタも食べていいですよ。私はこの一切れで満足ですから」
「いいの?」
「ええ、もちろん」
精霊様がいいなら、遠慮なく。一切れ手に取って、食べる。とろとろチーズがとっても美味しい。もぐもぐと食べ進めていると、精霊様が笑ったのが分かった。
何かあったのかなと振り返ったけど、精霊様は何も言わない。ただ、どことなく機嫌が良さそうだ。
「精霊様、何かあった?」
「いえいえ。何もありません」
「そう……?」
精霊様がそう言うなら、そう、なのかな?
ちょっと不思議に思いながらも、私は精霊様と一緒にのんびりとお話をして過ごした。でもそろそろ撫でるのをやめてほしいなあ……、視聴者さんに見られてるからちょっと恥ずかしいよ。
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