ピザ
「焦った。本当に本気で焦った……!」
「ん。なんか、ごめん」
「私が一緒の時はいいけど、一人の時は絶対に寝たらだめだからね。寝ちゃって、お湯で溺れて死んじゃうっていう事故だってあるから」
「き、気をつける……」
お風呂の後。体を拭いて、私たちはリビングに戻った。私の服は着ぐるみパジャマ、というもの。ちょっと暑いけど、これはこれでいいかもしれない。
動物の顔が描かれたフードはさすがに外してるけど。今は真美が髪を乾かしてくれてる。ドライヤーっていうので。これも便利そうだね。ある程度は魔法で真似できそう。
『声だけだったけど、俺らも満足』
『てえてえ』
『なんだかんだと真美ちゃんに懐いてるよなあ』
「ん。こっちだと一番信用してる」
「あはは……」
『真美ちゃん顔真っ赤やぞ』
「お風呂上がりで火照ってるだけだから!」
髪も乾かしてもらって、終わり。もちろん真美の髪も乾かしてあげた。魔法を使えばすぐだけど、これはこれでちょっと楽しかったかな。
「ところで真美、ちいちゃんは?」
「ちいなら、お母さんとお出かけ。お母さんが休みだったからね。ご飯は外で食べてくるって」
「ふうん……」
そっか。じゃあ、今日はちいちゃんはいないのか。まあ、うん。仕方ないかな。
「というわけで、リタちゃん」
「うん?」
「今日は出前を頼むけど、食べたいものってある?」
「出前……」
出前って、確か……。注文すると、お店からお家まで届けてくれるサービスだっけ。そう真美に聞いてみたら、合ってるよと頷いてくれた。
んー……。食べたいもの。日本のご飯は何でも美味しいから、希望を聞かれると困る……。
「じゃあ、出前でないとあまり食べないもので」
「ええ……。えっと、それじゃあ……。ピザ、かな?」
『なるほど、確かにピザはあまり店で買おうとは思わんな』
『ファミレスでもあるにはあるけど、出前のものと比べるとやっぱりちょっとね』
『ピザはピザで種類多いけどw』
真美がスマホをささっと操作して、私に画面を見せてきた。どこかのピザのお店のページらしい。たくさんのピザの写真が載ってる。ここから選ぶみたいだけど……。どれがどれなのか、よく分からない。
「選べない……」
「だよね……。リタちゃん。チーズは好き?」
「ん」
とろとろに溶けたチーズはすごく好き。食感も味もお気に入りだ。
「それじゃあ、チーズがたくさん入ってるものにするね。半分ずつ味が違うやつで、これと、これで……。はい、注文終わり」
「ん……? 電話? とかは?」
「いらないよ。ネット注文できるから。一時間ほどで届くって」
「おー……」
日本は本当に便利だね。お家にいたまま、スマホで何かをするだけで、お店の料理がお家で食べられる。本当にすごい。
「んー……。私のお家にも届けてくれたらいいのに……」
『無茶言うなwww』
『さすがに星を飛び越えて配達はできないってw』
『配達待ち時間三百万年とかになりそうw』
光の速度で移動なんてできないだろうから、実際はもっとかかるかな。ともかく、私には使えないってことだよね。ちょっと残念。
「リタちゃん、スマホ貸してもらっていい?」
「ん? いいよ」
はい、と渡すと真美がスマホを操作し始める。すごいね、指の動きがちょっと見えないよ。
しばらく操作していたかと思うと、真美が眉をひそめた。不思議そうにしながら、また操作を再開する。三分ほどでスマホを返してもらった。
「ん。何か増えてる?」
最初の画面にあいこん? が増えてるね。何のアイコンかな。
「それが私が使ってる出前のアプリ。ここの住所を登録しておいたから、私たちがいなかったら頼んでもいいよ」
「いいの?」
「もちろん。支払い方法はスマホに入ってる電子マネーにしておいたけど……」
真美が光球を一瞥してから体を寄せてきた。小さな声で聞いてくる。
「そのスマホの電子マネー、すごい額が入ってたけど……。何かしたの?」
「ん。橋本さんからもらった。依頼の報酬だって」
「依頼って……。あ、あれか……」
「ん」
結界の魔法の付与だね。橋本さんの希望でちょっと改良したやつを付与するようにしてる。一度発動すると、一日は結界が張られるようにした。短い間隔で襲われたら大変だから、らしい。
今のところまだ使ってないけど、電子マネーさえ使えたらお金の心配はなさそうなぐらいはあるらしい。だからお買い物もできる、はず。
そう説明すると、真美は納得したように頷いてくれた。
真美とのんびりお話をしていたら、ピザが配達されてきた。受け取りに行ったのは真美だ。ドアを開けて、受け取るだけ。すごく簡単だ。
リビングのテーブルにピザの箱を置いて、真美が開封した。
「おー……」
丸いパンみたいな料理。たっぷりとチーズがかかっていて、お肉や野菜とかの具材が散らばってる。香りもすごく良い。
「真美。真美。これはどうやって食べるの?」
「素手で大丈夫。こんなふうに」
真美が素手でピザの端を持って引っ張ると、あらかじめ切られてるみたいで綺麗な形で切り分けられた。チーズがすごく伸びていってる。チーズが切れたところで、先端をぱくりと食べた。
「うん! 美味しい! ほら、リタちゃんも!」
「ん……」
ピザの端を持って、引っ張る。おお、簡単にちぎれた。チーズが伸びるのを見るだけで期待できる。口に入れて、食べる。
ん。すごく美味しい。チーズがたっぷりでその味が濃いけど、お肉とトマト、かな? その味もしっかりと感じられる。チーズもとろとろに溶けていて、食感も楽しい。
『あかん無理耐えられんちょっとピザ頼んでくる』
『俺も』
『冷凍のピザにチーズかけまくってチンしてくる』
『ピザの注文かなり増えてるんじゃないかこれw』
そうなっていたら、ちょっとだけごめんなさい。
ピザってすごく美味しい。また食べたい。だから全部食べたくなるけど、ちょっとだけ、我慢。
真美が注文してくれたピザは実は二枚ある。そのうちの一枚を半分こしたんだけど、残りの一枚の半分は精霊様へのお土産、もう半分はミトさんの晩ご飯だ。
今も勉強を頑張ってるだろうから、しっかり食べてもらわないと。ちょっと、私も食べたくなるけど。もう、食べちゃったからね。
ちなみにすでにアイテムボックスの中に入れてある。ちゃんとあったかいピザを食べてほしい。
「ん。それじゃ、私はそろそろ帰る」
「ああ、うん。そうだね」
いいお土産もできたし、精霊様もきっと喜んでくれるはず。
「それじゃあ、ありがとう、真美」
「うん。気をつけてね、リタちゃん」
笑顔で手を振ってくれる真美に手を振り返して、精霊の森へと転移した。
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