すぷらった!
『あのスピードで落ちて一気に止まったら普通に死ぬと思うんですが』
『物理法則どうなってんの?』
『魔法がある世界で今更何言ってんだお前ら』
『そんなん言い始めたら二百万光年以上離れてる場所から一瞬で来る方がおかしいだろうに』
遠くの方で冒険者の人が騒がしくなってるけど、気にしないでおく。
穴からは今も少しずつ魔物が這い上がってきてる。とりあえず邪魔なので処理しよう。
『リタちゃんが手を振ったら魔物が全て地面に押しつぶされた件について』
『すぷらっただあああ!』
『閲覧注意閲覧注意!』
『いや、全部一瞬で消滅してるから、それほどスプラッタってわけでもないが』
生きてる間は生き物に近い構造だけど、死んだら魔力になって霧散するからね。こんなものだよ。死ぬまでは血がどばあってしてるけど。あ、それがだめなのかな……?
「ん。じゃあ一応、閲覧注意ってことで。定期的に誰か注意喚起のコメントしてあげてね」
それじゃあ、改めて進んでいこう。
穴に近づくと、一カ所だけ階段になってる部分があった。石でできた不思議な階段だ。その階段を下りていくと、唐突に階段がなくなっていて横壁に穴があった。ここから内部に侵入するらしい。
『めちゃくちゃ気軽な足取りですぷらったが量産されてるんだけど』
『下りながら魔物を文字通り潰していくの草なんだ……』
『笑えてねえぞ大丈夫かお前』
『いやほんと、敵には容赦ないなって』
容赦する必要性を感じないからね。
穴に入ると、薄暗い通路が延びていた。あと、魔物がすごく多い。なんか、うん。
「うじゃうじゃいる」
『うじゃうじゃ』
『うじょうじょ』
魔物は人型だったり獣型だったりするけど、真っ黒だから分かりやすい。さくっと行こう。
・・・・・
「お、灼炎の魔女さん。てことは、さっき下りていったのは別人か。お知り合いで?」
「お疲れ様ですわ、フランクさん。ええ、先ほどの魔女はわたくしの知り合いですわ」
「ほほう。応援ですか。いやほんとありがてえ。でもあんな魔法の使い手、魔女にいたか……?」
「知らなくて当然ですわ。彼女はつい先日、二つ名が与えられた魔女です。実力は間違いなくトップクラスですわよ」
「あー、なんかそんな噂がありましたねえ。ほうほう、あいつが……」
「隠遁の魔女。彼女に任せておけば安心ですわ」
「灼炎の魔女さんは隠遁の魔女さんとやらを信頼してるんですな」
「ええもちろん! わたくしが最も尊敬し、信頼する魔女ですわ!」
・・・・・
私は頭を抱えてうずくまっていた。自分でも分かる。顔が真っ赤になってる。恥ずかしい……!
『盗聴なんてするからw』
『知ってるかリタちゃん。日本だと盗聴は犯罪なんだ』
「ここは日本じゃないから」
『それはそうだけどw』
いや本当に、ちょっと過大評価だと思うよ、ミレーユさん……。
私がやったことは単純。ミレーユさんにある魔法をかけただけ。対象の周囲の音を拾う魔法。日本からすれば盗聴の魔法と言っても間違いじゃないと思う。
いや、違うんだよ。盗聴をするためにこの魔法を使ったわけじゃないの。脱出する時に、周囲の状況が分かるようにと思って、念のためにかけただけなの。それだけだったんだよ。
まさか、あんな会話してるなんて。いやちょっと、本当に恥ずかしかった。ちょっと、ね。うん。
『恥ずかしがりながら魔物を容赦なく潰してる……w』
『両手で顔を覆いながら歩く女の子と勝手に潰れていく魔物たち』
『ホラーかな?』
ここの魔物たちはあまり強くないからね。こんなものだよ。
ミレーユさんの会話内容は私のことが頻繁に含まれてるから、聞こえないようにしておこう。ただやっぱり脱出時は聞こえてる方が便利だから、解除までしない。
恥ずかしさからも解放されたので、どんどん行こう。
魔物を倒しながら奥へ奥へと進んでいく。上ったり下りたりぐねぐねしたりと、今自分がどこにいるのかちょっと分かりにくい。ここまで一本道だったから、道を間違ってることはないはず。
たくさんの魔物を倒しながら歩いていると、広い空間にたどり着いた。天井もない、というより、微かにだけどこの穴の出口が見えてる。洞窟に入らずに穴を下りてきたらここに来れたのかも。
「ん? あれ? 洞窟を通ってきた意味は……?」
『ただの遠回りで草』
『いやいや落ち着け。洞窟を通ってきたから次どこに行けばいいのか分かるだろ?』
『まっすぐこっちに来てたら、逆走することになったかもしれない』
それもそう……かな……? いやそんなこともなさそうだけど。
私の目の前には、たくさんの横穴がある。ざっと八つぐらい。どれか一つだけが正解なんだと思うけど、さすがにこれを一つずつ調べることはできないかな。時間がかかりすぎるから。
「ここはやっぱり安価で決めるべき?」
『やめろバカ!』
『さすがに人命がかかってるところで安価はよくない』
『安価やりたいけど、せめて助けてあげてからにしようぜ』
ん。まあ、それもそうだよね。うん。冗談だよ。それじゃ、適当に決めずにちゃんと魔法を使おう。
私が杖で地面を叩くと、小さな水球が浮かび上がった。数は八。横穴の数と同じだ。その水球をそれぞれの穴へと同時に進ませていく。
「んー……」
たっぷり魔力をこめたから、水球の周りがなんとなく分かるんだけど……。さすがにちょっと数が多くて、判別が難しい。んー……。
『そんなんで分かるんか?』
『多分水球を通して認識してるんだろうけど……』
『珍しくリタちゃんが難しい顔をしてる。これ絶対難易度高いぞ』
「ん。例えるなら手を八本動かして指先でぺちぺち調べてる感じ」
『ぺちぺち』
『なるほどわからん』
『つまりどういうことだってばよ』
『俺たちには到底理解できないことだってことさ』
ん。それは正直そうだと思う。今更だけど別の魔法の方が良かったと思うぐらいだし。
あ。
「ん。見つけた」
『マジで?』
『これはすごい! ……よな?』
『多分すごい!』
『リタちゃん多分えらい!』
「微妙な褒め方だね」
別に褒めてほしいわけじゃないけど、ちょっとこう、気になる。もちろん褒めてくれてもいいけどね? ね?
そんなことをちょっぴり考えながら、横穴に入っていく。今はまだちゃんと隠れてるみたいだけど、魔物がたくさんいるみたいだから少し急ごう。
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