師匠が好きだった飲み物


「あ、リタちゃん! さっきの写真、もう載ってるよ!」

「ん」


 猫のもふもふに満足した私たちは、真美の家に帰ってきた。ちいちゃんのおみやげもちゃんと買ってある。真美が選んだものだけど。

 二人でリビングでのんびりしていたら、真美が猫喫茶にいたお兄さんのページを見つけたらしい。私も見せてもらうと、確かに私の写真が載っていた。反響っていうのかな、それもすごいことになってる、らしい。


『俺も見てきた。ちょっとしたお祭り騒ぎだった』

『みんなリタちゃんに会いたがってるんやなって』

『やっぱ羨ましいわ。俺も生リタちゃんとお話ししたい』


 ニュースで私のことが取り上げられる頻度はすごく減っていてかなり落ち着いてきてるはずなんだけど、それでも見てる人はちゃんと見てるらしい。物好きだね。


「それじゃ、真美。私はそろそろ帰るね」

「あ、うん」


 私が声をかけると、真美は少しだけ寂しそうだった。寂しそう、でいいのかな。いいんだよね。こうして、少しでも別れを惜しんでくれると、友達になって良かったなと思える。


「リタちゃん、お土産は持った?」

「ん」


 精霊様にも体験してほしいからね。食べ物じゃないけど、ちゃんとお土産は選んだ。今から反応が楽しみだ。


「今日はすごく楽しかった。ありがとう、真美」

「私もすごく楽しかったよ。また一緒に行こうね、リタちゃん」

「ん」


 最後に真美に手を振って、精霊の森へと転移した。




 精霊の森に戻ってきた私は、早速精霊様を呼ぶことにした。


「精霊様、いる?」


 世界樹の前で聞いてみる。するとすぐに、精霊様が姿を現してくれた。ちらりと配信の光球と黒板を一瞥して、私へと笑顔を浮かべた。


「おかえりなさい、リタ。今日も楽しかったですか?」

「ん。楽しかった。これ、今日のお土産」


 アイテムボックスから取り出したのは、赤いパッケージの缶ジュース。コーラだ。精霊様はコーラを受け取ると、不思議そうにそのパッケージを眺めていた。


「炭酸飲料、と書いていますね」

「ん。知ってるの?」

「コウタから話だけ聞いていました。すごく美味しいものだと」

「そ、そうなんだ」


『リタちゃんの顔がちょっとだけ引きつってるw』

『炭酸飲料はこっちだとありふれた飲み物だからなあw』

『慣れればリタちゃんも美味しく感じられるよ』


 そうなのかな。少しずつ慣れた方がいいのかな。少し、困る。

 精霊様はコメントと私の顔を見て困惑してるみたいだった。精霊様からすれば、よく分からない状態かもしれない。師匠含め地球の人は美味しいと言っていて、私の感想は顔を見てもらえれば分かってもらえるはず。好みじゃない。

 この正反対の感想に精霊様も少し警戒感を持ったらしい。精霊様は器用に開封すると、口をつける前に少しためらった。


「あの、リタ。美味しいですか?」

「…………」

「せめて反応してくれませんか……!?」


 私が何か言うのは違うと思うから。正直、味については特に問題ないものだったからね。いやそもそもとして刺激が気になって味がおろそかになっていたと思うけど。

 精霊様は未だに躊躇していたけど、意を決したのかコーラを口に流し込んだ。

 そして、


「んん……っ、な、なんですかこれ……!?」


 やっぱり精霊様も予想してなかったらしい。目をまん丸にしてる。


『ですよねーw』

『炭酸飲料が初めてならその反応も致し方なし』

『二人とも期待通りの反応してくれるから好きw』


 ちょっと馬鹿にされた気がするのは気のせいかな。

 精霊様はしばらくコーラの缶を見つめていたけど、また少しずつ飲み始めた。ただやっぱり刺激が気になるみたいで、一気には飲めないみたいだけど。


「精霊様、全部飲むの? 大丈夫?」


 精霊様に聞いてみると、飲むのをやめて薄く笑った。


「コウタが好きな飲み物だったのです。残してしまうのはもったいないと思いまして」

「あ……」


 そっか。そう、だよね。師匠が好きな飲み物、だよね。ん……。私も、もうちょっと飲んだら良かったかな……。

 少しだけ後悔していると、精霊様がコーラを差し出してきた。受け取りながら、精霊様の顔を見る。にっこりと笑っていた。


「一緒に、少しずつ飲みましょう」

「ん……」


 私も口をつける。刺激は変わらないけど、でもなんとなく、少しだけ好きになれるような気がした。


『なんか急にしんみりした……』

『あいつの配信には一切出なかったのは根本的な作り方が分からなかったからだよな』

『そう思うとちょっと悲しい』

『コーラ買ってくる』

『みんなでコーラ飲むか』

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