コーラ

 猫喫茶のドアを開けて中に入ると、カウンターにいる店員さんが笑顔で、


「いらっしゃいま……」


 固まった。


『よく見る光景』

『リタちゃんも有名になったなって』

『猫と遊んでる人らも固まってるw』


 邪魔しちゃったかな? 早めに切り上げるから、ちょっとだけ遊ばせてほしい。


「ん。一時間だけでいい。二人。だめ?」

「いえ! もちろん大丈夫です! あ、当店はワンドリンク制になっていますが、よろしいでしょうか?」

「わんどりんくせい」


『発音が微妙におかしい』

『これは分かってないやつ』

『リタちゃん。利用料の他にドリンクも頼まないといけないんだよ』


 ん。ジュースを頼めばいいってことかな。

 メニューを見せてもらうと、たくさんの種類があった。ただ私にはよく分からないものもたくさんあるけど。どれにしようかな。


「真美は?」

「私はコーラで」

「じゃあ、私も同じもので」


『真美ちゃんと同じものを飲みたいのかな?』

『お姉ちゃんにべったりな妹みたい』

『まあ実際は分からないものが多くて選ぶのが面倒なだけだろうけどw』


 その通りだから言わなくていいよ。

 椅子に座って飲み物を待ってると、小さな猫が近づいて来た。にゃあ、と小さく一鳴き。すごく小さい。かわいい。私が手を差し出すと、膝の上に跳び乗ってきた。


「わ……。ま、真美。どうしたらいいの……?」

「わあ。いいなあリタちゃん。撫でてあげればいいと思うよ?」

「な、撫でるんだね……」


 猫の背中をゆっくりと撫でてみる。猫は私の膝の上で丸くなってしまった。えっと……。続けていていいのかな。

 んー……。猫ももふもふ。嫌がらずに、むしろ気持ちよさそうに目を閉じてる。とってもかわいい。なでなで。

 気付けば真美の膝の上にも猫がいる。私のところにいる子よりもちょっとだけ大きめだ。あの子もかわいい。


「人なつっこいね」

「ん……」


 たくさん集まってくるわけじゃないけど、これはこれで悪くない。のんびりできる。


「あ、あの……」


 のんびり猫を撫でていたら、声をかけられた。カメラを持ったお兄さんだ。お兄さんは少し緊張してるみたいで、光球と黒板と私を順番に見てる。


「リタちゃん、ですよね?」

「ん」

「あの、写真、いいですか? すぐにプリントアウトして渡しますから……」

「ん。いいよ」

「あ、ありがとうございます! ちなみに、ネットにあげたりとか……」

「真美が写ってなければ、大丈夫」

「分かりました!」


 真美が写らないように移動しながら、お兄さんがスマホで写真を撮り始める。たまに真美と一緒に撮ってくれたけど、それはネットには絶対にあげないと言ってくれたから、まあいいか、ということで。

 何度か撮影すると、店員さんに一言言ってから荷物を置いて出て行ってしまった。向かい側のコンビニでプリントアウトするんだって。

 すごいね。自分の家でなくてもできるんだ。本当に、日本ってすごい。


「お待たせしました。コーラです」


 店員さんがコーラというのを持ってきてくれた。


「なにこれ。まっくろ」

「コーラだからね」

「な、なるほど……?」


『困惑リタちゃん』

『見た目真っ黒な水だもんなw』

『異世界側で出されたら飲まないだろうねこれw』


 真美も飲んでるから安全って分かるけど、それがなかったら飲まなかったと思う。

 ちょっと緊張しながら、コーラを口に含み……、


「んっ、けふっ」


 なにこれなんかぱちぱちする!? しゅわしゅわする!? なにこれ!?

 思わず咳き込んでしまったせいで、膝の上の猫がびっくりして逃げてしまった。すごく残念だけど、それに構ってる余裕もなく。


「な、なにこれ! なにこれ!」

「落ち着いてリタちゃん。コーラってそういうものだから」

「ええ……」


 なんか、すごい。ぱちぱち。しゅわしゅわ。


『ああ、炭酸飲料が初めてだとそうなるかw』

『師匠さんは作らなかったんか?』

『確か作り方がわからんって言ってたはず』


 んー……。んー……。


「ごめん、真美。飲んでもらってもいい……?」

「え。いいけど……。炭酸、だめだった?」

「たんさん……?」

「こういうシュワシュワな飲み物」

「ん。私には、無理」


 痛いってほどじゃないから、慣れたら大丈夫かもしれない。でも、ちょっとすぐには慣れそうにない。真美は美味しそうに飲んでるから、ちょっとずつ慣れていこうかな……。

 どうしようかなと思ってたら、店員さんがアップルジュースを出してくれた。


「え? えっと……」

「ふふ。私のおごり、ということで。私も注意するべきだったし」


 そう言って、戻っていってしまった。もらえるなら、もらっておこう。

 ん。ジュースおいしい。


『ふんにゃりリタちゃん』

『でもあのびくっとして目を白黒させるリタちゃんは、それはそれでかわいかった』

『普段だとまず見ない慌てっぷりだったw』


 恥ずかしくなるからやめてくれないかな?

 二人でジュースを飲んでいると、お兄さんが戻ってきてプリントアウトした写真を渡してくれた。しかも二枚ずつ。真美にも渡せるように。


「あの、ありがとうございます!」


 真美がお礼を言うと、お兄さんは笑いながら手を振った。


「いやいや。僕もいい写真をたくさん撮らせてもらったから。それじゃあ、リタちゃん。一枚だけ、真美ちゃんが写ってないものだけネットにあげるね」

「ん。どうぞ」


 お兄さんは嬉しそうにありがとうと言うと、離れていった。

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