約束の日
土曜日。真美の学校が休みの日。ようやくこの日がきた。一応、待ち合わせはお昼前、十時の予定。合流したら、犬がたくさんいる喫茶店と猫がたくさんいる喫茶店、両方行く予定だ。
もふもふも楽しみ。でもそれ以上に、真美と、友達と出かけるのがとても楽しみ。
ちなみに配信はしてもいいということになってる。というより、咲那からするように言われたらしい。私としてはいつものことだからね。
というわけで、配信開始。
「おはよう」
『おはよう!』
『挨拶できてえらい!』
『もう合流したのかと思ったけど、まだいつもの森の中か』
まだ八時だからね。合流は十時だから、まだ時間がある。かといって何かするわけでもないんだけど。
『じゃあ投げ菓子しようぜ』
『いつでも投げれるように買い置きしてる!』
『はよ! はよ!』
「ん……。いやまだ余ってるから……」
『ですよねwww』
一回の量が多いからね。それでも投げたいって言ってくれる人が多いから、週に一回は不定期でやってるけど。それでも余るお菓子はゴンちゃんとフェニちゃんが食べてくれる。
とりあえず今日の朝ご飯は干し芋。たっぷり入ってパックされてるもの。開封して、干し芋を取り出して、指先に火を点す。干し芋を軽く炙ってぱくりと食べる。
そのままでも美味しいけど、干し芋は少し温めるともっと美味しい。甘みが増してる気がするし、何よりも柔らかくなってすごく食べやすい。
「ん」
うん。今日も美味しい。
『いっぱい食べる君が好き』
『美味しそう……。俺も干し芋買ってくるかな』
『おなじく』
甘くて美味しい。
干し芋を食べて、時間までのんびりと森を散策。一応は見回りだけど、どうせ何か起きたら転移で向かうから、見回りの意味はあまりないと思う。
『原生林って感じがして好き』
『感じじゃなくてまさに原生林だけどな』
『人の手が入ってるところなんて、リタちゃんの住処ぐらいだし』
手を入れる必要がないからね。歩きにくくても、飛べばいいだけだし。
そうしてのんびり散歩を楽しんでいたら、持っていたスマホから十時のアラームが鳴り始めた。時間だから、転移しよう。その前に、精霊様にいつもの報告。
世界樹の前に転移すると、精霊様はすでに待っていてくれていた。
「ん。遊びに行ってくる」
「はい。いってらっしゃい、リタ」
『精霊様にママ味を感じる』
『ママー!』
『まあ実質リタちゃんのママみたいなもんだし』
んー……。精霊様がママ……お母さん……。
精霊様を見る。にこにこしてる。んー……。
「よし行こう」
「スルーはひどくないですか!?」
『草』
『いやでもきっと恥ずかしがってるだけだし!』
いや、恥ずかしいとかそれ以前に。
「私にとっては父も母も、私を捨てた存在だよ」
『あ……』
『正直すまんかった』
『そうだったよごめんよ』
まあ、気にしてないよ。少しだけしか、ね。
「それじゃ」
「ふふ……。はい。行ってらっしゃい」
精霊様に手を振って、真美の家へと転移。転移した先では、すでに真美が待っていた。最近よく着ているセーラー服というものじゃなくて、赤色のパーカーに黒いスカートのラフな格好だ。
「いらっしゃい、リタちゃん」
「ん。待ってた?」
「そうでもないよ」
そうかな。そうだったらいいんだけど。
「ちいちゃんは?」
「今日はお母さんとお買い物。お母さんも休みだからね」
「ん……。真美はよかったの?」
「うん。リタちゃんとお出かけしたかったから」
照れたようにはにかむ真美。ちょっとかわいい。
『まあ正直高校生どころか中学生にもなると、親とお出かけってなかなか恥ずかしいよ』
『わかる』
そういうもの、なのかな。私にはよく分からない。ただ、優先してもらったみたいで、その点はちょっと嬉しい。
「ん……。じゃあ、行く?」
「うん。そうだね」
それじゃ、出発だ。真美の手を取って東京に転移した。
転移した先は、いつものタワーの頂上。ここには人がいないから、最初に転移するのには丁度いい、と思ってたんだけど……。
「な、なんだ!?」
「もしかしてリタ!?」
うん。なんか、人がたくさんいた。テレビカメラっていうのを持ってる人とかもいる。何やってるのかな。
「り、リタちゃん」
「ん?」
「あの、認識阻害って、カメラには……」
「ん。大丈夫。顔は認識できるけど真美に結びつかないはず」
「それはそれで怖いよ!?」
そうかな。そうかも。でも真美にかけた魔法はそういう魔法だ。今も少しずつ改良してるから、もっと便利な魔法になるはず。というか、する。がんばる。
真美一人だけでならまた変わるけど、私と一緒にいる限り認識阻害が働く。映った真美の顔は認識できても、どこの誰かまでは思い出せないしたどろうとも思えない。そんな魔法。
「あの! お話しいいでしょうか!」
そう聞いてきたのは、女の人。女の人の後ろにはテレビカメラを持った人。んー……。
「テレビ?」
私が聞いた先は、視聴者さんだ。たくさん見てる人がいるなら、テレビを見ながらの人もいるかなって。そしてすぐに返答があった。
『リタちゃん、生中継されてる!』
『ヒャッハー! 新鮮な生リタちゃんだ!』
『いつも配信で生リタちゃん見てるだろうにw』
むしろ生リタってなんだよと言いたい。お肉か何かかな?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます