フォレストウルフ

 森に入ったら、わざと道から逸れて森の奥へと向かっていく。今回採集の薬草は、森の比較的深いところで採集できるらしい。

 それにしても、精霊の森以外の森って初めて入ったけど、すごく平和だね。精霊の森だと、こんなに無防備に歩いてたら、間違いなく襲ってくる魔獣がいるのに。まあそんな魔獣がいるから、ごはんに困らないんだけど。

 平和で静かな森。ちょっとだけ楽しくて周囲を見回す。綺麗な森だね。気持ちいい。


『きょろきょろリタちゃん』

『なんか、そわそわわくわくしてて、見た目相応って感じ』

『かわいい』


 余計なことは言わなくていいよ。あと後ろの人たちもなんだかすごく笑顔なんだけど。こう、微笑ましいものを見るみたいな。すごく恥ずかしいんだけど。

 後ろの人たちをあえて意識から外して散策していたら、森の奥から何かが駆けてくる音が聞こえてきた。すぐにフランクさんたちも気付いて、ケイネスさんが私の前に出てくる。


「おそらくフォレストウルフ。数は三。どうする?」

「脅威でもなんでもないなあ……。リタちゃんの初実戦にはちょうどいいだろ」

「そうね。それじゃあ、リタちゃん。私の隣においで。ここから魔法で安全に攻撃できるから」


 フォレストウルフ。精霊の森にもいるすごく大きな狼だ。脅威じゃないって言えるなら、フランクさんたちは私の予想以上に強い……、あ、出てきた。ウルフが出てきたけど……。


「ちっちゃい!」


『ちっさ!』

『ちっちぇえなおい!』

『あかん、精霊の森のやつで感覚が麻痺してるw』


 いやだって、すごく小さいよ。あと魔力もかなり少ないよ。え、なにこの子、すごくかわいい! わあ! すごくかわいい! もふもふしたい! もふもふ!


『リタちゃんの目がめちゃくちゃきらきらしてるw』

『子犬や子猫を見かけた女の子のそれw』

『左手がすごくわきわきしてるw』


 だって! すごくかわいい! ちいさい! もふもふ!

 小さくてかわいいウルフたちは、私たちを警戒してるのか少し離れたところで唸ってる。それもかわいい。


「り、リタちゃん? 攻撃していいよ?」

「おーい、嬢ちゃん、どした?」


 フランクさんもケイネスさんも待ってくれてる。でも私は攻撃できない。したくない。連れて帰りたい。もふもふ。


「ん。連れて帰る」

「え」


 三人とも唖然としてるけど、そんなに不思議かな。小さくてもふもふでかわいいウルフだよ。


『小さい小さい言うても、普通にハスキー程度の大きさがあるんだけど』

『そりゃお前、リタちゃんの比較対象が精霊の森のあれだぞ?』

『あっちは大型の車ぐらいの大きさだからな……』


 同じ種類でも場所によって全然違うんだね。ミレーユさんが驚いていたのも今なら分かるよ。

 と、いうわけで。私はさっさと二人の前に出てウルフへと歩いて行った。


「ちょ、リタちゃん!?」

「おい危ないぞ!」


 ん。大丈夫大丈夫。

 というわけで、はい、どん。


「ひっ」


 短い悲鳴が、後ろから、パールさんから聞こえてきた。

 私がやったのは、威圧みたいなもの。少し大きめの魔力をウルフたちへと叩きつけただけ。もちろんこれを受けたからってダメージなんてほとんどない。

 ただ、本能で察するとは思う。察してくれたし。

 ちっちゃくてかわいいもふもふウルフたちは、体を震わせてその場に伏せた。そしてもう動かない。ただ体を震わせてるだけ。んー……。ちょっとかわいそうなことをした気がしてきた。

 でも、とりあえずこれで触れるよね。よし触ろう。もふもふしよう。


「なあ、あれ、何がどうなってんだ……?」

「僕に聞かれても……」


 私が側に近づいても、ウルフはやっぱり動かない。遠慮無く、ウルフの体を触ってみた。もふもふ……もふ……。んー……。


「ごわごわしてる……」


『草』

『でしょうねwww』

『野生だからなw』


 むう……。とても、とても不満だ。もっとこう、もふもふをイメージしてたのに。

 いやでも、考えてみたら当然だったかもしれない。だって、ご飯のために精霊の森でフォレストウルフを狩った時も、そんなにもふもふじゃなかった。わりとごわごわだった気がする。むしろ結構固かった気がする。

 でも、もふもふをもふもふしたい。むう……。


「よし。決めた」


 私は目の前のウルフを撫でて、そして言った。


「群れ、なんだよね。ボスのところに連れて行って?」


 びくりとウルフが震える。恐る恐る顔を上げたウルフに、私は笑顔で言った。


「よろしくね」

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