動物との触れ合い
「なあ、嬢ちゃん」
三匹のウルフを先に歩かせてついて行っていると、フランクさんが話しかけてきた。振り返ると、困惑してるのがよく分かる。
『そりゃそうだ』
『フランクさんたちからすれば、マジで意味不明な光景だっただろうしなw』
そうかな。そうかも。
「嬢ちゃんは実はテイマーだったりするのか?」
「ん? 違う。魔法使い」
「だよなあ……」
不思議そうにしてるけど、深く気にしない方がいいと思うし、私の真似はしない方がいい。だって、ただ脅しただけだから。ちょっとかわいそうなことをしたと思うし。
それよりも視聴者さんがなんだか大騒ぎだ。
『テイマー!? テイマーって言った!?』
『言ってた! 間違いなく! テイマーいるのか!』
『それっぽいのぐらいあるかもと思ってたけど、テイマーそのものあるとか胸熱』
この人たちはテイマーというのに何かこだわりでもあるのかな。
ただ、私はテイマーについては詳しくない。師匠や精霊様から、魔獣を使役する技術があるらしいっていうのは聞いたことがあるけど、魔法じゃないらしくて興味がなかったから。でも、そんなに気になるなら聞いておいてあげれば良かったかな。
「確か、エサとかで調教して、協力関係を築く、みたいなものだっけ」
「テイマーか? そうだな。かなり特殊な技術が必要だ」
「ん。だよね」
『テイム魔法みたいなのがあるわけじゃないのか』
『エサで調教ってことは、リアルと大差なさそうな感じかな』
『魔法がある世界なのにもったいない』
魔法で無理矢理従わせる、なんて基本的にはできないよ。そういう魔法が作られたとしても、間違いなく精霊たちからの介入があるはず。多分完成してすぐか、完成前に抹消されるはずだ。
でも、テイマーをしてる人にはちょっと興味があるかも。ウルフもテイムしてるかも。もふもふかも。すごく気になってきた。あの街にテイマーさんっているかな。
いやその前に、先に目の前のウルフたちだね。
気付けば私たちは見事に囲まれていた。周囲にたくさんのフォレストウルフがいる。でも、どれも小さい。それにたくさんと言っても、二十はいない。私一人でも平気だ。
それはフランクさんたちも同じみたいで、囲まれてることに気付いても特に慌てていない。武器だけ抜いて、とても落ち着いてる。この程度なら問題なく対処できるんだろうね。
「わりと大きめの群れだね」
「そうね。どうせならフォレストウルフの討伐依頼ぐらい受けておけば良かったかもね」
討伐依頼。それも定番だね。受けてみたいかもしれない、けど今は関係ない。武器を構えてる三人には悪いけど、ちょっと待ってもらおう。
「だめ」
「ん? どうした、嬢ちゃん」
「襲われない限り手を出さないで」
「は? いや、嬢ちゃんがそれでいいなら、待ってやるけど……」
武器は構えたままだけど、少しだけ力を抜いたのが分かった。わがまま言ってごめんね。でも。
「私はもふもふが欲しいから……」
『ぼそっとなんてこと言ってんだリタちゃんw』
『連れて帰る気まんまんじゃんw』
『ペットかな?』
もちろん無理強いはしない。するつもりはない。でも、一匹ぐらい、来てくれないかな。
目の前、案内してくれた三匹は、一番奥にいる大きなウルフに近づいて何かを報告してるみたいだった。魔獣独自の言語でもあるのかもしれない。何を話してるのかな。
やがて話が終わったのか、大きめのウルフが歩いてきて、私の少し前で止まって座った。まるで指示を待つみたいに。
んー……。まだこの子には何もしてないはずなんだけどね……。
でもとりあえず触ってみよう。んー……。やっぱりごわごわだ。
「なあ、俺たち何を見てるんだ?」
「女の子と動物の触れ合いさ。癒やされるね」
「いえ魔獣だからね?」
『現地の人も完全に呆れてるw』
『普通はすぐに討伐なりするんだろうな』
それも分かるけどね。でも私としてはやっぱりもふもふが一番です。
とりあえずちょっとごわごわだったけど、一先ず満足。改めてボスに向き直った。それじゃあ、一匹だけでも来てくれないか交渉を……。
『なあ、リタちゃん。リタちゃんから言うと、脅迫にならないか?』
え。
『自分たちを滅ぼせるようなやつから一匹来いって言われたら、例えお願いの形であっても向こうにとっては拒否権がないのと同じだよ』
『機嫌を損ねないようにしないといけないからね』
『もちろんもともと討伐をするような魔獣だし、そっちでもいいかもだけど』
そっか。そっか……。そう、だよね。この子たちからすれば、逆らえないよね。
んー……。そっかあ……。
「ん……。薬草、たくさんある場所知ってる? 教えて」
ボスは不思議そうに首を傾げたけど、振り返って歩き始めた。ついてこい、ということだと思う。この子について行けば、薬草がたくさんあるはず。
もちろん罠の可能性だってあるけど、その時こそ対処すればいいだけだし。
「ん。この先に薬草があるって」
「そ、そうか……」
「本来の方法と全然違うけど……。いいのかな?」
「他でもないリタちゃんのやり方なんだし、いいとしましょう」
悪いことをしてるわけじゃないからね。認めてほしいと思う。
ボスについていく。時折こちらを振り返って待ってくれたりもする。いい子だね。視聴者さんから話を聞いた後だと、私の機嫌を損ねないように細心の注意を払ってるだけなんだろうけど。
そう思うと、やっぱり悪いことしちゃったと思う。中途半端なことはしちゃだめだね。
…………。もふもふ……。
『すっごくしょんぼりしてる……』
『ペットを飼うことを許してもらえなかった子供みたい』
『ひらめいた!』
『何をだよw』
ボスについて歩いて行って、そうして案内された場所は、特に何の変哲もない、他の場所とあまり変わらないところだった。でも、生えている草はちょっと違ってるみたいで、パールさんも目を丸くしてる。足下の草を調べたパールさんは、呆然とつぶやいた。
「ここ、多分全部薬草ね……」
「全部? 全部!?」
「そう、全部」
どこまでが薬草かはいまいち分からないけど、こんなに集まってるのは珍しいみたいだ。ここのを採取していけば、依頼の量には足りるかな。
「どうするリタちゃん。ここにあるもの、全部採取するか? 追加報酬ぐらいはもらえると思うぞ」
「んー……」
ボスを見る。その場で座って待ってるボスを。じっと待ってくれてるけど、なんだかいろいろと諦めてるような顔、というか。諦観を感じる。
「必要分だけ」
「それでいいのかい?」
「ん。多分ここの薬草、この子たちも使ってるだろうから」
ボスを見ながらそう言うと、三人とも納得してくれたみたいだった。
「優しいんだな、リタちゃん」
「ん……。脅迫しておいて優しいはないと思う……」
本当に、ちゃんと反省だ。
採取する量はあまりないので、それほど時間もかからずに終わってしまった。採取をやめた私たちを見て、ウルフはどこか安心したような雰囲気だ。やっぱりここの薬草はこの子たちも使うものだったのかな。
「すごいな、こんなに早く終わるとは思わなかった」
「かなり普通とかけ離れたやり方だったけどね」
「ウルフと交渉するなんて初めてよ」
『交渉(脅迫)』
『終わりよければ全てよしってことで』
『途中で変わってしまったリタちゃんの目的は果たせなかったけどw』
『もふもふなwww』
ん……。それは残念だけど仕方ない。とりあえず大きいウルフをもふもふして満足しておく。ごわごわだけど。
「それじゃ、嬢ちゃん、帰ろうか」
「ん」
フランクさんに促されて、ウルフから離れる。手を振ると、ウルフは一鳴きしてくれた。かわいかった、と思うよ。うん。
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