トースト
大阪から帰ってきた翌日、真美の家に行くとスマホに連絡が入っていた。
「ん……。真美。ちょっといい?」
「はーい?」
まだ朝だからか、真美もちいちゃんも忙しそうだ。あと三十分ほどで出かけるらしい。
「これ、メール? だよね?」
「えっと……。うん。そうだね。メールだよ」
「ん」
確か、このアイコンだよね。タッチすると、メッセージが表示された。首相の橋本さんからみたいだ。
「リタちゃん、トースト食べる? それぐらいなら用意できるよ」
「いいの?」
「もちろん。ちょっと待っててね」
忙しそうだから、二人を見送るだけでいいかなと思ってたんだけど……。迷惑かけちゃったかな。もう少し早くか遅くに来た方がいいのかな。ちょっと悩む。
「なにみてるのー?」
ちょっと考えていたら、ちいちゃんが私の膝の上に乗ってきた。きょとんと首を傾げて私を見てくる。とてもかわいい。
「メールだよ」
「めーる! ちいにもおねえちゃんから来るの!」
「ん。そっか」
えへー、と嬉しそうなちいちゃんの頭を撫でてあげる。気持ち良さそうに目を細めるのはちょっと小動物みたい、
そういえば、この世界には小さな動物と触れ合えるカフェっていうのがあるんだっけ。探してみようかな。いやその前に、とりあえずメールだ。
橋本さんからのメールを開いて読んでみる。そこに書かれていたのは、師匠の実家が見つかった、というものだった。ただ、確定というわけじゃなくて、それらしい候補がいくつかあるらしい。何か他に情報がないかという問い合わせだね。
追加の情報。んー……。精霊様に聞いたら何か分かるかな?
「リタちゃん、できたよー」
真美がこんがり美味しそうに焼けたトーストを持ってきてくれた。とりあえず今はトーストを優先しよう。せっかく作ってくれたんだし。
「ん。ありがと」
「いえいえ。熱いからゆっくり食べてね」
渡されたトーストを早速一口かじる。さくっとした食感がとても楽しい。ほんのりした甘さもちょうどいいね。
さくさくと食べていたら、真美が向かい側に座った。
「リタちゃん、さっきスマホ見てなかった?」
「ん。見てた。橋本さんからメール」
「橋本さんって……。首相さんじゃ……?」
「ん」
頷くと、少しだけ慌て始めた。どうしたのかな。
「は、早く確認とか返信とかした方がいいんじゃないかな!?」
「ん? 別に大丈夫。暇な時に返信してってあったし」
「そうなの……?」
「そうなの」
今はとても忙しい。トーストを食べてるから。だからメールは後回し。そう言うと、真美は何とも言えない表情になった。
トーストを食べ終えたところで、真美たちが出発する時間になったらしい。真美とちいちゃんが玄関に向かうから見送ることにする。
「いってきます」
「いってきまーす」
「ん……。いってらっしゃい」
二人は手を振ると、ドアを開けて外へと出て行った。
んー……。いってらっしゃい。いってらっしゃい、か。なんというか、感慨深いというかなんというか……。最後に言ったのは、師匠が旅立った時だったかな。結局おかえりは言えなかった。
今回は、ちゃんと言いたい。お昼過ぎぐらいに戻っておけば言えるかな?
リビングに戻って少し考えていたら、リビングのドアが開いた。入って来たのは、妙齢の女性。眠たそうに欠伸をするその人は、私に気が付くと優しげな笑みを浮かべた。真美の笑顔ととても似てる。
「来てたのね、リタちゃん」
「ん。真美とちいちゃんならもう行った」
「あー、そっか……。ちゃんと送り出しておきたかったんだけど……」
この人は真美とちいちゃんのお母さん。朝に来ると起きていることが多い彼女だけど、たまにこうして寝坊する。疲れてるだろうからと真美も起こさないらしい。
「リタちゃんはこの後どうするの?」
「んー……。橋本さんに会いに行くことになると思う」
「へえ。すごいわねえ」
ついこの間この人に直接挨拶したんだけど、すごくのんびりしてる人だった。私のことを話しても、少し驚いただけで流してしまうぐらいには。でも、付き合いやすいから好きだったりする。
「リタちゃんもちっちゃいんだから気をつけて行きなさいね」
「ん」
いやもしかしたら分かってないだけかも……? ちょっと不思議な人だね。
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