フェニちゃん
杖を上空へと構え、魔力をこめる。術式をイメージして、魔力を流して起動。そうして杖の先から放たれるのは、真っ青な火柱だ。
「あら。綺麗ですわね」
感心したようにつぶやくミレーユさん。でもその表情は、すぐに引きつることになった。
私が火柱を上げてからほぼ一分。その子が上空から姿を現した。
炎がそのまま大きな鳥になったかのような魔獣。この子も大きくて、多分私のお家ぐらいの大きさはあると思う。炎の鳥は、静かに私たちを見下ろしていた。
「ままま、まさか不死鳥!?」
『不死鳥だあああ!』
『フェニックスってやつですね!』
『やべえリアルで見るとマジでかっこいい!』
うんうん。みんな驚いてくれてる。この子はゴンちゃんと違って、威圧感はあんまりないからね。
私が手を上げると、不死鳥が口を開いた。
「リタちゃんおひさー」
「フェニちゃんおひさー」
「ええ……」
『かっる』
『不死鳥さんめちゃくちゃ軽いな……w』
『ゴンちゃんからの落差よ……』
この子はまあ、うん。こんな子だ。師匠に紹介された時からとても気安かった。
「かわいいでしょ?」
「えっへん」
「…………」
『かわ……いい……?』
『ミレーユさんがすごく反応に困ってるw』
『今回ばかりは異星人と気持ちが一つになった気がする』
かわいいと思うんだけどなあ。ゴンちゃんも含めて。
「それでリタちゃん、何か用?」
「ん。ごめん特にない。あ、お菓子余ってる。いる?」
「いる!」
フェニちゃんが下りてきて、顔を下げて口を開ける。大きなその口に、手持ちのお菓子を放り込んであげた。とりあえずチョコレートだ。
「おー……。あまーい! うまーい!」
「ん。すごく美味しいやつ」
もっぐもっぐと食べるフェニちゃん。やっぱりかわいい。確かに大きいけど、でもかわいいのはかわいいよ。
「こんな感じで、お菓子がたくさん余ったらフェニちゃんとさっきのゴンちゃんに食べてもらってる。二体とも、すごく美味しいって」
『お、おう』
『地球のお菓子は異世界のモンスターにも通用するのか……』
『お菓子すげえ』
美味しいからね。すごいことだと思う。
「それじゃあ、フェニちゃんありがとう。気をつけて帰ってね」
「ありがとー。いつでも呼んでね。リタちゃんのためならいつでも駆けつけるから」
「ん」
「じゃねー!」
大きく翼を広げて飛び去るフェニちゃん。飛び去る姿はとても美しくて神秘的だ。飛び去る姿は、ね。話していて楽しい子だけど、言動を知ってると神秘的にはさすがに結びつかないからね。
「というわけで、さっきの子が不死鳥のフェニちゃん。あの子もすごく長く生きてる魔獣で、私だと勝てない」
「はあ……。肝に銘じておきますわ……」
「ん。そうしてほしい」
そもそもとしてあまり下りてこない子だけど、それでも怒らせたらだめな子だからね。
『精霊の森ってやっぱ危険なところなんやな』
『ところでフェニちゃんって、さっきの鳥のことだよね?』
「ん。フェニちゃん」
『フェニックスからかな。分かりやすいけど……』
『リタちゃんのネーミングセンスよwww』
む。二体とも気に入ってくれたから問題ない。間違いない。
「ミレーユさんは大丈夫? これでだいたい全部だけど、まとめられそう?」
「が、がんばりますわ」
すごく疲れたような顔をしてるけど、大丈夫かな。まあ……、大丈夫か。
せめて集中できるように、今日は私のお家で一泊することにした。
私のお家のリビングで、ミレーユさんがたくさんの紙にひたすらに文字を書いていってる。かりかりかり、と文字を書く音だけが部屋に響いてる。
「このかりかりって音、好き」
『わかる』
『なんか落ち着く』
『でも退屈』
それは否定しない。
夕食の時以外、ミレーユさんはひたすら書き物をしてる。忘れないうちにまとめたいから、だって。忘れても聞いてくれたらいつでも答えるんだけどね。
ちなみに夕食はまたカレーにした。ミレーユさんから、あの時のご飯がほしいです、なんて頼まれたら断れなかったよ。真美にまたもらわないと。
「ふう……。こんなものですわね」
そう言って、ミレーユさんはペンを置いた。テーブルに広げていたたくさんの紙を集めてまとめて、アイテムボックスへ。さすがに疲れたのか、ミレーユさんは少しぐったりしてる。
「お疲れ様。手伝わなくてごめん」
「気にしなくていいですわ。わたくしはこういったことに慣れていますもの」
「ふーん……」
慣れてる、ね。依頼でなのか、それとも別の何かでなのか、ちょっと分からない。
アイテムボックスからコップを二つ取り出して、この森で取れる果物も出しておく。日本で言うところのみかんみたいな見た目の果物だ。
『出たわね』
『みかんもどき』
『なにそれ』
『精霊の森で広く分布してる果物。リタちゃん曰くすごく甘いらしい』
そう。すごく甘い。さすがにチョコレートほどではないけど、お菓子をのぞくと一番甘いと思う。私は好きだけど、逆に人を選ぶかもしれない。
魔法でぎゅっとしぼってジュースにして、一つをミレーユさんに渡してあげる。ミレーユさんは目を丸くして、じっとそれを見つめてる。
「それ、まさか、みかんもどきですか?」
「ん……? いや、えっと……。なんで適当に呼んでるその名前を知ってるの……?」
「賢者コウタが故郷の果物だと配っていたのですわ! その時にそういった名前だと言っていたのです。また食べたいと多くの貴族が探し回っていますわよ」
「あー……。うん、なるほど……」
師匠本当に何やってるのかなあ!?
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