リタの二つ名

「話は決まりましたわね!」


 そこで今まで黙っていたミレーユさんが声を張り上げた。なんだかすごくわくわくしてるように見える。続きを待っていると、ミレーユさんが叫んだ。


「リタさんの二つ名を考えますわよ!」

「そうね。考えましょう」

「え」


『ついにリタちゃんにも二つ名と称号が……!』

『やべえわくわくしてきた!』

『てか二つ名って自称なのかよw』


 私としてもそれがびっくりだよ。てっきり誰かからの評価で呼ばれるようになるとか、そんな感じで思ってたし。


「二つ名って自分で考えるの?」


 そう聞いてみると、ミレーユさんは少しだけ呆れたような顔になった。


「だってリタさん、誰かに評価されるほど活動していないでしょう」

「…………」


『ですよねー!』

『今のところ精霊の森の調査しかしてないからな!』

『しかも報告はミレーユさん任せだったから実質何もしてないw』


 改めて言われると、だめだめだね。ただ、その、自称となるとちょっと恥ずかしい。誰かから呼ばれるようになった、とかはかっこいいって思えるけど、自称って……。


「まずはわたくしから提案ですわ!」

「ど、どうぞ……?」

「殲滅の魔女!」

「まって」


 なんで殲滅とかそんなのが出てくるの!? 殲滅なんて連想されるようなことしてないはずなんだけど……。


「だってリタさん、精霊の森の上空を飛んでいた時、ワイバーンを次々に撃ち落としていたらしいじゃありませんか。精霊様が教えてくれましたわ」

「何やってるの精霊様……」


 話しちゃだめとは言わないけど、話す必要もなかったと思うよ。むしろちょっと暴走してたと今なら思うから、黙っておいてほしかったぐらい。


『バーサーカーリタちゃん』

『はえー。そんなことなってたんやな』

『ぶっちゃけ早すぎてよく見えんかった』


 わりと遠慮無くやってたから、見えなくてよかったと思うよ。


「精霊様は娘を自慢するような感じでしたわ」

「あ、そう、なんだ……。うん……」


『てれてれリタちゃん』

『てれリタかわいい』

『ただしやったことは虐殺である』


 いや、うん。それを言われると微妙な気分になる。でもちょっと嬉しかったりもする。

 その後も色々と候補が出てきた。エルフで長く生きるだろうから悠久とか、私が特定の魔法の研究をしてると言ったら探求とか……。でもどうにも、二人の間でしっくりくるものはなかったみたいで、まだ話してる。

 そろそろ一時間かな。正直、私は面倒になりつつある。


「森に帰りたい……」


 私がそうつぶやくと、ミレーユさんがなるほどと手を叩いた。


「これですわ!」

「次はなに……?」

「隠遁、ですわ!」


 いんとん。隠遁。んー……。


「じゃあもうそれで」


『これは本当にめんどくさくなってるやつw』

『完全にリタちゃん置いてけぼりで話進んでたからなw』

『でもなんで隠遁?』


 あ、それは確かに私も気になる。

 ミレーユさんに聞いてみると、にっこり笑顔で理由を明かされた。


「だってリタさん、普段は森に引きこもっているでしょう?」

「…………」


『ひきこもりwww』

『現地人からも引きこもり判定w』

『草ァ!』


 やめろ。やめて。いや、いや、え、あ、うん……。

 えー……。

 さすがにその理由はちょっとやだな、と思ってしまう。もうちょっと変えよう、と言おうとしたところで、


「隠遁ね。隠遁の魔女。あまり表に出ない魔女としてはなかなかいいのではないかしら」

「我ながら名案ですわ! 決定ですわね!」


 うん。もう、いいや。


『リタちゃんが達観した……w』

『まあしゃーない』

『引きこもりは事実だしな!』


 追い打ちやめてくれないかなあ……。

 とりあえず隠遁の魔女で決定、ということで。これが日頃の行いってやつなのかな。いやこれが理由だと守護者は全員この二つ名になりそうだけど。

 引きこもり。引きこもりかあ……。わりと出かけてるんだけどね。日本には、だけど。


『異世界側から見るとずっと森にいるのと大差ないのでは』

『出かけた先も真美ちゃんの家が多いしな』

『やはり引きこもり……!』


 そろそろ怒るよ?

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