魔獣の評価基準(リタばーじょん)

「さて、それでは隠遁の魔女殿に依頼があるわ」

「ん……? いきなりだね……?」

「ええ。今後のためにも、分かりやすい実績が欲しいのよ」


 精霊の森の調査でも実績としては十分だけど、いまいちすごさが分からないのだとか。特に内容のせいで。調査結果、つまり守護者の魔法の研究はあまり表に出せないらしい。

 多分これ、私に配慮してくれた結果なんだと思う。ちょっぴり申し訳ない。


「内容によるけど、なに?」

「ええ。今度の依頼はSランクのものよ」

「Sランク……。ごめん今更だけど依頼のランクづけの基準が分からない」

「それならわたくしが説明しますわ!」


 静かになっていたミレーユさんがいきなり叫んだ。退屈だったのかも。

 ミレーユさんの話では、それぞれのランクの依頼はそのランクの冒険者がパーティを組んで取り組むものらしい。SランクならSランクのパーティで、AランクならAランクのパーティで、みたいな感じかな。


『てことは、Sランクの依頼ってかなり危険なのでは?』

『最高ランクがパーティを組んで取り組むってだけでやばそう』

『リタちゃん大丈夫? 無理したらだめだよ?』


 心配してもらえるのはとても嬉しい。内容次第、だね。


「内容は?」

「精霊の森の生態調査よ」


 みんな精霊の森に興味津々なの?

 でも、少し気になる。生態調査をして何をするつもりなんだろうね。もしかして伐採とか、そういうのをしようと思ってるのかな?


「目的は? 手を出すつもりなら許さないけど」

「もちろんそのつもりはないわ! むしろその逆よ!」


 少し睨みながら言うと、ギルドマスターさんは慌てたように手を振った。


「守護者の話が伝説として扱われているように、精霊の森の危険度も言い伝え程度のものとして扱われつつあるのよ。だからこそ、改めて危険度を周知させるためにも、こんなに危ない魔獣がいる、というのを教えてほしいの」

「んー……。まあそれならいいけど。対策が無駄な魔獣もいるし」


 対策のしようがない、とも言うけど。詳しくは言わないけど。

 とりあえず、私のSランクとしての最初の仕事は、精霊の森の生態調査になった。正直、自分の住んでる森の調査とか、意味分からないけどね。


「助手ついでにミレーユも連れて行って。Sランクの依頼はSランクの冒険者を最低二人にしないといけないから」

「ん。わかった。よろしくミレーユさん」

「正直気が乗りませんわ……」


 相変わらずミレーユさんは怖がってる。一度行ったのに……、あ、でも世界樹と私のお家に入っただけだったね。じゃあ次で体験すればいいよ。


「それじゃ、早速行く? 今更だし転移で行くよ」

「そうですわね……。でもせめて街の外に出ましょう。不審がられますわ」


 なるほど、それもそうか。

 ギルドマスターさんに挨拶して、ギルドを出る。私とミレーユさんが一緒に一階に戻ると、どうしてかみんなの視線が突き刺さった。敵意とかは感じないけど、これは困惑、かな?


『CランクのリタちゃんがSランクと出てきたらやっぱり注目はされんじゃない?』

『もしかしたらパーティに誘ってくれようとしたのかも』

『あのおっさんとかなw』


 んー……。そうかも。おじさんを探すと、視線が合った。苦笑してる。


「灼炎の魔女さん。嬢ちゃんの研修か何かですかい?」


 おじさんがミレーユさんに聞いて、ミレーユさんは笑顔で頷いた。


「ええ、そうですわ。わたくしの関係者なので、わたくしが教えることにしたのですわ」

「なるほど。あんたなら安心ですわ。嬢ちゃん、がんばれよ」


 後半は私に向けての言葉だったので、とりあえず頷いておいた。




 街を出て、転移して精霊の森の側へ。転移なら一瞬だからとても楽だ。


「調査ってどうやるの?」

「リタさんが思いつく限りのことを話してくださればいいですわ。こちらでまとめますから」

「んー……。じゃあ、お家でやる?」

「できれば実際に見てみたいのですが……」

「ん。了解」


 それじゃ、さくさくっとやっていこう。




「フォレストウルフ。森の外にもいるらしいね」

「サイズが違いすぎますわ! でっかいですわ!」

「食べるとちょっとまずい」

「食べる!?」


「サンドワーム。でっかいミミズ。地中からいきなり食いにくるから気をつけてね」

「人間なんて丸呑みじゃないですの……。リタさんはよく平気で捕獲してますわね……」

「食べるとわりとおいしい」

「なん……ですって……!?」


「おなじみワイバーン。炎はいたり電撃落としたり風の刃を起こしたりするよ」

「待ってくださいまし。よく見るとこれも大きいですわ。外のドラゴンぐらいあるじゃありませんの。というより攻撃方法が多彩すぎません? え? ドラゴンより強くありません?」

「食べるとすごく美味しい」

「あなたもしかして評価基準に味が入ってません!?」


『数十種類の魔獣を一緒に見てきたけど……その……なんだ……』

『食べた時の感想が必ず入ってるのにちょっと狂気を感じた……』

『弱肉強食の世界ってこういうことなんやなって』

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