串のお肉

 上空からゆっくりと下りていく。門の前でぼんやりしていた兵士さんは、私に気がつくと慌てたように直立した。


「お待ちしておりました!」

「え」


 なんか、待たれてたみたい。なんで?


『ミレーユさんの手回しでは?』

『むしろそれしか考えられない』

『ミレーユ有能』


 私としては意味が分からないんだけど。守護者だっていうのは、あまり広めてほしくないんだけど……。広めちゃったのかな?


「あの」

「はっ!」

「私のこと、何か聞いてる?」

「いえ。ただ、魔女の称号が与えられることが確定している、とだけ聞いています」

「そ、そうなんだ……」


 確定、なんだ。依頼は失敗してなくても、一緒に帰らなかったから怒られると思ったんだけど。もらえるならもらいたいけどね。

 こう、かっこいい称号とかほしいし。


「私も二つ名、もらえるのかな?」

「おそらく間違いなくもらえるかと」

「んー……。ミレーユさんの灼炎ってかっこいいよね」

「格好いいですねえ……」


 うんうん。この兵士さんは話が分かる! 視聴者さんは理解してくれる人の方が少ないんだよ。なんか、ちゅうにとかなんとか。

 やっぱり視聴者さんの方がおかしいよね。間違いない。


『なんかごめんなリタちゃん……』

『いや俺らもかっこいいとは思うんだよ? でもなあ……』

『いいのか!? 俺のこの封印をといて……! 俺が右腕の封印をといた時、貴様らは……!』

『やめろおおお!』

『香ばしいコメント流してんじゃねえ!』


 視聴者さんはいつも通りだね。たまに意味が分からないっていう意味で。

 不思議そうに私を待ってくれている兵士さん。咳払いして、話を再開だ。


「ごめんなさい。それじゃあ、通っていい?」

「はっ! もちろんです! どうぞお通りください!」

「ありがと」


 門を開けてもらったので、そのまま通る。普段は締め切ってる門のためか、こっちの門は人が少なめだ。分厚い門だし、閉めてる間は安心なのかな。

 北門側は比較的静かな区画だ。商店とかは少なくて、住宅の方が多いらしい。商人さんとしても、他の門に近い方が売りやすいのかな。

 でももちろん何もないわけじゃない。屋台で串焼き肉を売ってる人もいるから。


「これください」

「まいど!」


『リタちゃんw』

『ふらふらっと寄っていったなw』

『美味しそうだけどw』


 熱された鉄板で焼いてるだけなのに、すごく美味しそう。じゅうじゅうとした音が、なんかすごく、いい。

 お金を渡して、軽く塩を振られた串焼き肉をもらう。一口大の大きさのお肉が四個もささってる。とってもお買い得。


『値段的にどうだったの?』

『銅貨を渡してるのは見えたけど』

『美味しそうだけど、高そう』


 高いか安いか。んー……。


「分からない」


『え』

『ちょwww』

『わからないんかいw』


「ん。あまり買い物しないから」


 だいたいは森の中での自給自足だからね。足りないものがあったら精霊様が作ってくれたりするし。だから街での買い物なんて必要なかったから、相場っていうのはよく分からない。お金も師匠が残してくれたものだから、価値なんて分からないし。

 でも私がお金を持っていても仕方ないし。持ってるお金はどんどん使っていきたいところ。

 それよりも、私としてはお肉の方が気になる。

 大きく口を開いて、お肉をかじる。一口大とは言ったけど、私の口には入りきらなかった。


『ちっちゃいお口かわいい』

『リタちゃんちっちゃくてかわいい』

『クールだけどちっちゃくてかわいい』


「ケンカ売ってるの?」


 ちっちゃいちっちゃい言うな。少し気にしてるんだから。

 お肉は何のお肉なのかな。すごく柔らかい、とはさすがに言えないけど、でも食べられないほどじゃない。塩がしっかりきいていて悪くない、かな。


「でもちょっと、物足りない味」


『まあ住宅立地だから安価なものを売ってるだろうしな』

『見た目はすごく美味しそうだったけど』

『リタちゃんは日本の料理で舌が肥えてしまったのでは?』


 それはまあ、否定できない。いやでも、これも悪くはないよ。うん。

 お肉を食べながら歩いて、全部食べ終わった頃にギルドにたどり着いた。

 扉を開けて中に入ると、中の人が一斉に私に視線を向けてきた。


『ひぇっ』

『なんかこわいw』

『みんなじっとこっちを見てるぞ』

『リタちゃん何をしたんだ!』


「いや何もしてないけど……。してないよね?」


 すごく不安になることを言わないでほしいなあ。

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