コスプレ


 三日前、だったかな? それぐらいに、配信で次の行き先の募集をした。募集というか、オススメを聞いただけだけど。

 その中の一つにあったのが、首都東京にあるビル。いや、東京にビルなんてたくさんあるらしいけど。真美にそれとなく聞いて調べてもらったから、正確な場所は把握済み。

 それで、今日はなんかイベントがあるんだって。コスプレイベントとかいうの。ゲームのコスプレをする人もいるから、この服装でもあまり目立たないはず、とのこと。


 私はあまりこのローブを脱ぎたくない。というのも、このローブにはいろんな魔法をかけてある。このローブがあるから無防備に地球に行けると言っても過言じゃない。

 早い話が、防御系の魔法だね。いわゆる現代兵器とやらの干渉ならだいたい弾ける、はず。多分。

 だからローブを着てても目立たないのなら、それが一番だ。


 というわけで、私は今、そのイベントの会場にいる。ビルの前の広場で、日本だとあまり見ない服装の人たちに紛れてる。紛れてる、と思う。

 転移した場所は、広場の隅にある木の陰。広場の周囲は木が植えられていて、木の陰ならあまり目立たない。転移してきた時も、誰かに見咎められるかもと思ったけど、幸い誰にも気付かれなかった。

 その後はこの会場の人たちに紛れたんだけど……。なんというか、うん。失敗したかもしれない。


 まず一つ。会場から出られない。会場の出入り口は分かるんだけど、出ようとしたら呼び止められた。更衣室で着替えてから出てください、だって。なにそれ聞いてない。

 次に。恥ずかしい。

 なんで私と同じ服装の人がいるのかなあ!?

 視界に入っているだけでも、二人。会場全体ならもっといるかも。


「あれって、もしかして、私のコスプレ……? 他の、お話のキャラクターとか……」


『違うぞ』

『正真正銘、リタちゃんのコスプレだぞ』

『真っ黒ローブに三角帽子なんてわりとありがちだけど、杖はちゃうやろ?』


「うぐう……」


 そうなんだよね。服装だけならわりとありがちらしいけど、杖もとなると偶然の一致とはさすがに言えないかなって。身の丈ほどの長さで先端に青い魔石が埋め込まれた杖。さらにはどの人も私と同じ長い銀髪。うん。私だ。


「なんで私なの? もっと他にないの?」


『そりゃ、なにかと最近話題だしなあ』

『ニュース系のサイトにも取り上げられてたぞ』

『見出しなんだっけ。異星人来訪、とかだったような』

『事実確認を行いますってどこかの偉い人が言ってた』


「よく分からないけど、事実確認ってなにするの? 真美とちいちゃんに何かするつもりなら、さすがに怒るよ」


『ヒェッ……』

『どうどう、落ち着いてリタちゃん。さすがに誰もリタちゃんに喧嘩売ろうなんて思ってないから』


 それなら、いいけど。真美もちいちゃんも、こっちの世界での唯一の、大切な友達だ。何かするつもりなら容赦しない。


「あれ、でもこれって、私が原因だよね……? そもそもとして来るべきじゃなかった……? せめて真美の家に行くのはやめるべき?」


『絶対やだ! 来てよ! せっかく友達になれたのに絶対に嫌だからね!』

『推定まみさんのコメントが爆速すぎて草なんだ』

『リタちゃん、変なこと考える前に、ちゃんと真美ちゃんに聞いた方がいいよ』


 それもそうか。ここまで関わったのに、何も言わずにお別れするのも不誠実だと思うし。それに、私がいやだし。うん。次に会った時に、迷惑じゃないか聞こうかな。

 それはそれとして。これからどうしよう。出ようと思えば転移で出られるけど、そこまでして出たいかと聞かれるとなんとも言えない。こうしていろんな服の人を見てるのも楽しいし。


『リタちゃんの世界にはあんな感じの剣士とか魔法使いとかいるの?』

『リタちゃんがこてこての魔法使いな服装だからやっぱりいるんかな?』


「さあ……? 私は森から出たことないから……」


『あっ(察し)』

『そう言えばそうだった』


 森を訪れる人も少ないからね。いたとしても、私がいる最深部まで来る人は少ないし。だいたいは森に入ってすぐのところで何か集めて帰ってるみたい。

 でも、言われてみるとちょっと気になる。私も、自分の世界を見て回ろうかな。一人旅は寂しいけど、配信しながらなら楽しいかも。


「配信しながら私の世界を旅してみる、なんてどう? 興味ある?」


『ありますねえ!』

『すごく見たい。とても見たい』

『でも無理はせんでいいぞ』


 興味ある人が多いみたいだから、ちょっと考えてみようかな。

 そんな話をしながらぼんやりと眺めていると、私に近づいてくる人がいた。ちょっと背の高い女の人で、服装は、その……。私と同じ。

 つまり、私のコスプレ。ちょっぴり照れる。


「こんにちは! 写真、いいですか?」

「ん……。えっと……」


 あれ、これもしかして、気付かれてない?


『そりゃ普通はこんなコスプレイベントにいるなんて思わんだろうからな』

『そういえば、視聴してる参加者はいないの?』

『確かに。一人ぐらいいてもよさそうだけど』


 それはまあ、弾いていますので。この近辺にいる人からのものは、だけど。あっちの世界でなら難しいけど、実際にこの場にいれば、見える範囲で視聴を弾くことぐらいは一応できる。

 精霊様の魔法とはいえ、すごく研究したからね。無理矢理弾くことぐらいはできるのだ。

 それはともかく、そう。写真。写真だ。

 もちろん写真についてもちゃんと知ってる。撮られることに抵抗もないけど、どうしようかな。


「あ、もしかして写真NGですか? それでしたら無理強いは……」

「ん。いえ。大丈夫、です」

「そうですか!」


 写真ぐらいいいか。減るものじゃないし。

 その場に立って、えっと……。どうしたらいいんだろう?


「やっぱり! リタちゃんのコスプレですよね!」

「え」

「リタちゃんかわいいですもんね! 小柄で銀髪で、クールだけどわりと好奇心旺盛! とってもかわいい!」

「あ、はい、そう、ですか……」


『照れてる』

『めっちゃ照れてる』

『照れ照れリタちゃんかわいい』


 うるさい。

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