カツカレー

 師匠も男の人の方が間違い無く多いって言ってたから、正直予想外だ。

 実を言うと私としてはどっちでもいいんだけど。男の人は師匠しか知らないし、女の人は精霊様しか知らない。……いや、精霊様って性別あるのかな……?

 ともかく、私としてはどちらも未知の相手だから、あまり気にならない。話しやすそうな人だからそれは嬉しいけど。


「リタちゃんの希望はカレーライスだよね。もうすぐできあがるから待っててね」

「ん」


 ああ、本当に作ってくれてるんだ。それは純粋に嬉しい。

 真美さんが料理得意かは分からないけど、師匠のよりは美味しいはずだ。材料からして違うしね。師匠は材料が悪すぎるって言ってたぐらいだし。

 真美さんが部屋を出て行く。さて、私は何しよう。


「魔女のおねえちゃん!」

「ん?」


 ちいちゃんは部屋にいたままだった。じっと私を見てる。なんだろう、瞳がきらきらしてる気がする。これが期待の眼差しってやつなのかな。


「魔法、つかえるの?」

「ん。使えるよ」

「見たい!」

「いいよ」


 どんなのがいいかな。森にいる時なら少し危ない魔法でも問題ないけど、さすがにここでそれは危ないよね。

 んー……。


「ちょっと待ってね。危なくない魔法を構築するから」

「はーい!」


『今さらっとすごいこと言ったような』

『こうちく……構築? 今から作るの!?』

『そんな簡単に作れるもんなん?』


「ん。作れるよ」


 師匠曰く、魔法は術式のイメージ。効果をイメージして、それに対応する術式を脳内で構築、その術式を描くことで魔法は効果を発揮する。

 術式を描く方法は人それぞれ。術式を言葉にする詠唱という手段を用いる人もいれば、直接地面とかに書く人もいる。そして私や師匠は、自分の魔力で見えない術式を空中に描く方法だ。


 危なくない、でもちょっと派手そうな効果を考えて、術式を構築して、転写。杖で軽く床を叩けば、色とりどりのたくさんの泡が部屋に舞い始めた。

 シャボン玉、だっけ。師匠に見せてもらった時は何の意味があるのかなと思ったけど、これはこれで綺麗だったと思ったから真似してみた。


「わー! すごい! しゃぼんだま!」


 うん。喜んでくれたみたい。たくさんのシャボン玉をちいちゃんが追いかけてる。ちょっとやそっとじゃ割れないようにしたのが良かったのか、ぺちぺちとシャボン玉を叩いていて楽しそう。


『これは子供が好きそうな』

『綺麗やねえ』

『はへー。危なくない魔法もあるんだなあ』


 むしろ本来の魔法の用途は、生活を楽にするためのものらしいからね。こういうのが普通、のはず。多分。


「魔女のおねえちゃん、すごーい!」

「ん……」


『照れてはにかむリタちゃんかわよ』

『ちょっと顔赤くしてるのがいいね!』

『てれてれリタちゃん』


「…………。配信切っていい?」


『すみませんでしたあ!』

『やめてくださいしんでしまいます!』


 あまり突っ込まないでほしいからね。恥ずかしいから。

 シャボン玉を楽しそうに追いかけるちいちゃんを眺めていたら、扉が開いて真美が入って来た。その手には、山盛りのカレーライス。


「温めながら見てたけど、これはすごいね」


 シャボン玉を見ながら真美が言う。ご飯を食べるなら、さすがに邪魔かな。


「ちいちゃん。シャボン玉、消すよ。いい?」

「えー……。うん……」


 ちょっと残念そうだけど、すぐに頷いてくれた。良い子だね。

 シャボン玉を消すと、真美がカレーライスを机に並べ始めた。三人分だ。そのうち一つは小さいお皿。ちいちゃんの分だね。

 そして、そのカレーライス。ご飯の上に、見慣れないものが載っていた。

 茶色いさくさくしていそうな、何か。


「これは……?」

「トンカツだよ?」

「トンカツ……!」


 トンカツ! 師匠が作ろうとして諦めていたもの! つまり、これが……!


「伝説の、カツカレー……!」


『でwwwんwwwせwwwつwww』

『伝説のwww』

『思わず茶吹いたわwww』


 まさか、カツカレーを食べられるなんて! どうしよう、すごく嬉しい……!

 い、いいのかな? 本当に食べていいのかな?

 真美を見ると、おかしそうに笑っていた。それを見て、少しだけ正気に返る。うん。ちょっと恥ずかしいかもしれない。いやでも、それぐらい本当に嬉しい。


「どうぞ、リタちゃん。遠慮無く食べてね」

「ん……!」


 手を合わせて、いただきます。

 まずは、トンカツ。一口サイズにカットされてるトンカツを口に入れてみる。


「さくさくしてる……。なんちゃってトンカツとは全然違う……!」


『なんちゃってトンカツってなんだよw』

『師匠が作った失敗作なんだろうなっていうのは分かるw』

『むしろそれが見てみたいんだがw』


 あんなもの、見たところで何も面白くはないよ。お肉にべちゃべちゃの何かがかかってただけだったし。まさかあれの完成形がこんなに美味しいなんて……!


「お肉もすごく柔らかい。んー……。変なお肉だね」


 お肉を見てみると、なんだろう、厚切りのお肉じゃなくて、薄いお肉を重ね合わせたようなものになってる。


『ミルフィーユカツやな。薄切りの豚肉を重ね合わせて揚げたカツ』

『おいしいやつ』

『難しくはないけど、わりと面倒だよなこれ』

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