第50話 猫科姫様は仔犬勇者を狙う

 水着は三着もあれば、十分かしら?

 全部、アニマル柄なのが解せないところですけど、うち二着を選んだのはレオだから、許すわ。


 肌着売り場よりも水着売り場の試着室の方がちょっとだけ、広いのよね。

 女性用肌着売り場が女性客しか、ほぼいなかったわ。


 それに比べると水着売り場は違うわね。

 男の人の姿もちらほら見かけるのよ。

 恋人や夫婦で選ぶのかしら?


 それでなぜ、試着室が広いのかは良く分からないですけど。


「終わったわ」

「さっきのところよりは広いから、いいね。あれだと体がくっつくから、恥ずかしかったんだ……って、リーナ」


 わたしが許可を出したレオが振り向いた瞬間、固まった。

 目は大きくまん丸になっていて、いつものキリッと引き締まった感じとは違ってかわいい。

 でも、口が半開きで顔も熟れた果実みたいに赤いのはどうかと思いましてよ?


 まぁ、原因はわたしがレオパルト柄の水着を着て、腰を屈めて胸を強調するような姿勢をしているせいだとは思うのですけど。

 でも、ここで止めを刺さないといけないわ!


「に、にゃあ♪」


 レオに止めを刺すというよりも言っている自分の方がダメージが大きいのは気のせいではなくってよ。

 恥ずかしすぎるわ。


「か、かわいい!」

「あ!? にゃあ!?」


 レオの反応がまた、予想と違ったのもいけないわね。

 わたしが考えていたのは彼がもっと恥ずかしがって、褒めてくれると思っていたのよ。


 ところが実際にはわたしの方が恥ずかしがってしまい、不安定な体勢だったところにレオが大型犬を愛でるのと同じノリで抱き締めようとしてきたの。

 その結果、わたしは尻もちをつく形でレオに押し倒されてしまったわ。

 それだけなら、良かったのですけど!

 首の後ろで結ばれていたトップスのホルターが勢いでほどけて、露わになった胸を彼の手がじかに触っているの。

 触っているというよりも見事に彼の手の中に収まっている感じね。

 すごく気まずいわ。


「わ、わざとじゃないんだ」

「わ、分かってるわ」


 レオがそういうことをわざとしてくるような子でないことは分かっているの。

 でも、これは状況が悪すぎるわ。

 声を上げたりしたら、店員さんが入ってきて、かえって面倒なことになるわね。


「レオ君はまず、目を閉じましょうか?」

「あっ、うん。ごめん」


 その後、目を閉じたレオがそのまま体勢を戻そうとしたの。

 そのせいで意図せず胸をじかに揉まれる形になったわたしはつい変な声を出してしまい、さらに気まずい沈黙が二人の間を支配したわ……。

 でも、初めての感覚で我慢出来なかったんですもの。

 不可抗力ですわ。

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