第22話 勇者の友は砂を吐くII

ネズ・イソロー視点


 こ、こいつら。

 わざとやっているだろうというくらいに目の前で見せつけてくるなあ、おい。


 年頃の男女が手を繋いで歩くだけでもアレなのに、何だよ。

 あの繋ぎ方は何だよ。

 指を絡め合って、見つめ合うのはおかしいだろ。

 見せられているこっちの身にもなって欲しいね。


「人が多いね」

「ルテティアは花の町と呼ばれているの」

「へえ。すごいね」


 通りを行き来するたくさんの人間や街並みを見るのに夢中なレオは気付いてないが、姫さんの目はずっとお前を追っているぞ。

 目から、ハートマークが飛んでいるんじゃないか、アレ。

 俺の目には乱舞するハートマークが見えるぞ。


「いやあ、しかし、さすがは花の町だ。可愛い子が多いな、おい」


 つい口から、そんな言葉が出るくらいに通りを行きかう女性は老いも若きも華やかに見える。

 人間の女の子がこんなに可愛いなら、伴侶は人間も悪くないですなあと観察しているとあいつらはさらに上をいってやがるんだ。


「こんなにたくさんの人を見るのは初めてだよ」

「疲れたかしら?」

「そうでもないよ。楽しいよ」

「たくさん、かわいい女の子が歩いているものね」


 あ、あれ?

 気温が下がった気がするぞ。

 姫さんの背中でブリザードが吹き荒れている絵が見えるんだが、錯覚だよな?


「リーナが一番、かわいいよ」


 ニカッと口を大きく開けて、無邪気にそう言えるのはお前だけだよ、レオ。

 俺にはとても、真似が出来ないな。


 おや? 気温が急に上がった!?

 姫さんの顔が真っ赤になって、頭の上から湯気が出てないか?


「そ、そ、そう? そうよね。そうだわー?」


 レオのヤツは無自覚で姫さんのハートを撃ち抜いたようだなあ。

 あいつ、将来とんでもなく危ない男なんじゃないだろうか?


 暫くして、ようやく我に返った姫さんが上機嫌になったのはいいが、あの人もたいがいにおかしいよなあ。

 他人の振りをしたくなることをしだしたんだが、どうすればいいんだ……。

 俺には止められないぞ。


「ねぇ、レオ。わたしのこと、好き?」

「うん。好きだよ」

「わたしもレオのこと、大好き」

「ありがとう、リーナ」


 また、立ち止まって、見つめ合うのか。

 中々、百貨店に着かないんだが。


 何なんだよ。

 このやり取りを見せれられている方は喉を掻きむしりたくなるなあ、おい。

 ハートマークもどこかへ飛んでいってくれ!


「好きだから、ここでもキスしてくれる?」


 姫さん、それは無茶振りじゃないかい?

 言ってる本人が湯気出そうなくらいに顔真っ赤じゃないか。


 少し腰を屈めて、レオが届くように顔を近づけているが体が震えているのが分かるんだが……。

 大丈夫なのか?


「うん。いいよ」

「え?」


 「え?」だよ、俺もびっくりさ。

 純真無垢な子はある意味、怖いなあ。


 レオはえらく慣れた手つきで姫さんの頬に手を添えて、固定するとキスをした。

 往来のど真ん中でなあ。

 それも唇と唇が軽く、触れあうくらいの軽いキスじゃあない。

 おいおい。

 冗談はやめてくれよお。

 砂が吐けそうだ……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る