回想④〜黒田竜司と白草四葉の場合〜伍
〜白草四葉の回想〜
午後三時を過ぎ、伯父夫婦とともに駅のエスカレーターを上がると、すぐにわたしたちの乗る新幹線がホームに入ってきた。
あたりを見渡しても、クロらしき少年の姿は見当たらない。
(やっぱり、来てくれなかったか……)
伯父夫婦に別れの言葉を告げている母の隣で、落胆し、うつむいているわたしに、
「四葉ちゃん、またいつでも、遊びに来てね」
と、伯母の奈緒子さんが声を掛けてくれた。
「は、はい! ありがとうございます」
とっさに反応して応えると、
「もう、『お世話になりました』ってことも伝えなきゃ、でしょう?」
母が横から口を挟む。
「いや、四葉ちゃんは、若葉たち夫婦の問題に巻き込まれただけだろう?」
伯父さんは苦笑しながら言い、
「今度は、気兼ねなく遊びに来てね! また、四葉ちゃんとUSJに行けるのを楽しみにしてるよ」
と、わたしに向かって微笑んでくれた。
「はい! 伯父さん、伯母さん、お世話になりました」
そう言って、ピョコンと一礼すると、「じゃあ、そろそろ乗ろうか?」と、母はわたしをうながし、
「兄さん、今回はホントにお世話になったわ。自宅に着いたら、連絡させてもらうから」
と言って、二人に別れを告げ、わたしたちは、新幹線の八両目のグリーン車に席に移動した。
〜黒田竜司の回想〜
午後二時半過ぎになって、母親とオレは、ホーム下にある新幹線の改札内でシロたちを探し始めた。
二手に別れたオレたち親子は、いつでも通話できるように、二台のスマホで連絡を取り合うことにする。
会社用と私用のスマホを持っている母親から、プライベートで使用しているスマホを渡されたオレは、待合室のベンチ、改札内の土産物店、駅弁ショップやコンビニまで、くまなく探したが、シロの姿を見つけることはできなかった。
新幹線の改札に入ってから三十分近くが経過した頃、母親から着信が入り、
「そろそろ、シロちゃんたちが乗る新幹線がホームに入って来るから、上に上がるよ」
と告げられたので、エスカレーター前で合流したオレたちは、ホームに向かうことにした。
「十五時十五分発のぞみニ三ニ号東京行きは、二十七番線から発車いたします」
という構内アナウンスが流れる。
階上のホームに到着すると、すぐに東京行きののぞみ号がホームに入線してきた。
「竜司、アンタは先頭の十六号車から乗り込んで、前から順番にシートを探して行って! 母さんは、ホームでシロちゃんたちがいないか確認するから! シロちゃんたちは、グリーン車になってる十号車から八号車に乗ってる可能性が高いから、特に念入りに探すこと」
母親は、オレに向かって、念入りに言い聞かせるように説明する。
「シロちゃんのお母さんは、今の季節でも、マスクとサングラスをしてるかもだから、そういう人がいたら、注意して見ておくように。もし、シロちゃんに会えたら、私のことは待たなくて良いから、『竜司と仲良くしてくれて、スゴく感謝してる』って伝えておいて」
そして、最後にこう付け加えた。
「もし、シロちゃんたちが見つからなかった場合でも、発車前のアナウンスが流れたら、すぐに新幹線から降りること! わかった?」
素早く的確な指示を出した母親は、片側だけ線路に面したホームで、シロたちの捜索を始めた。
オレも母の指示通り、先頭の十六号車に乗り込んで座席にシロたちがいないか確認を始める。
全長が四◯◯メートル以上もある十六両編成の車両の中から、シロを探し出すことができるのか不安だったが、母親が伝えてくれた注意事項を信じて、車内のシートの間を早足で進みながら、注意深く座席を観察する。
十六号車、十五号車、十四号車……、と進んだものの、シロたちは見つからない。
十三号車、十二号車、多目的室のある十一号車にも、シロの姿が見当たらなかった。
スマホの待ち受け画面を確認すると、デジタル表示は
15:05
と、記されている。
発車まで、あと十分もない……。
焦る心を抑えつつ、母親が重点的に探すように言っていた十号車のグリーン車に移動した。
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