第9章〜To Love You More(もっとあなたを好きになる)〜②
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「――――――にしても、あと一人か二人、部員が居てくれたら、楽になるんだけどな〜」
各部員が、それぞれの待機場所に移動したあと、オレは壮馬に耳打ちする。
「なに言ってんの? 竜司が、マーチングに参加せず、裏方に回ってくれていれば、問題解決じゃないの?」
壮馬は、スマホを触りながら、応じた。
「確かに……迷惑を掛けて済まない」
素直に謝罪の言葉を口にすると、壮馬は、返答する。
「冗談だよ。いつものことだから、別にイイけどね……あと、佐倉さんが居てくれたら良かった、と思うのは、ボクも同意見だよ」
親友のその言葉にオレは、すぐに反応した。
「そう言えば、前にも聞いたかも知れないが、モモカは、どうしてるんだ? 入学から一ヶ月も経つのに、まだ顔を見せないよな?」
「それが……入学式直前に感染症に罹っちゃって、入院してたんだって……ゴールデン・ウィーク明けから登校するって、メッセージが来てたけど……竜司のとこには、連絡ナシだったの?」
そう言って、壮馬はスマホのLANEの画面を見せてきた。
画面には、メッセージの他に、マスク姿の少女の画像が貼り付けられている。
親友のスマホの画面を確認したオレは、壮馬の質問に首を横に振りながら応じる。
「そっか……しかし、オレに連絡してこないとは薄情なヤツだな……」
「確かに、ちょっと謎だよね。佐倉さんとは、ボクより、竜司の方が仲が良かったから、もう知ってるものだと思ってたよ」
「まあ、無事に学校に戻って来れるなら、モモカの快気祝いをしてやろうぜ!」
「そうだね。佐倉さんも喜んでくれると思うよ」
壮馬もこちらの提案に同意してくれた。
そうして、友人は、中学生時代の後輩の話題を切り上げたると、あらためて、部室に残っている広報部の部長に声を掛ける。
「すいません、部長。文芸部の天竹さんから、オープン・スクールのようすを観察するのに、一番多くの場所を観ることができる放送室のモニターで見学したい、って依頼があったんですけど、大丈夫ですか?」
放送室にこもり、映像配信時のチェックを一手に担う後輩の言葉を受け、責任者の彼女は、一瞬、口元に指をあてて考える仕草をしながら答えた。
「さっきも言ったけど、私は、部員各自の判断は極力尊重するつもりだから。黄瀬くんが、問題ないと思ったのなら、構わないわ。た・だ・し、言うまでもないことだけど、女子とのおしゃべりに夢中になって、仕事が疎かにならないようにね」
「大丈夫です! モテる友人と違って、ボクには、そこまで親しく話してくれる女子は、いませんから」
「それなら、いいけど……黄瀬くんも、ややこしいコトに巻き込まれないように、気を付けてね」
鳳花部長は、のんびりした口調ながら、警告めいたことを口にした。
そのやり取りを見ながら、オレは、親友にたずねる。
「おい、壮馬! 『モテる友人』ってのは、誰のことなんだ?」
一方の壮馬は、ため息をつきながら、自らが発した言葉に少しばかりトゲが含まれていることに気付いたのか、自分自身で少し驚いているようだ。
そんなオレたちの気持ちをよそに、スマホで時刻を確認した鳳花部長が、声をかけてくる。
「さて、準備ができたら、私たちもリハーサルに行かないとね」
「えっ!? 先輩も歌うんですか?」
オレの言葉に、彼女はおっとりとした口調で、返答してきた。
「私は、白草さんやアナタみたいに、歌唱力に自信があるわけじゃないから……あくまで楽器担当よ」
その回答に合わせて、壮馬も言葉を添える。
「部長には、白草さんが『To Love You More』を歌うときに、バイオリンの伴奏をしてもらうんだよ。あの曲は、歌と同じくらいバイオリンの演奏がキモだからね」
「はぁ〜、そっか〜」
「白草さんと部長のコラボは、ボクも楽しみにしてるんだ! 前に聞いたことがあるんだけど、天竹さんと紅野さんも、花金部長のバイオリンの腕前は素晴らしい――――――って、言ってたし……それに、最近、『うまぴょい伝説』が弾けるようになったんですよね、部長?」
「マジで!? ウ◯娘のファインモーションかよ!?」
「フフフ……ただの
手遊び――――――という表現が、何を指しているのか、今ひとつ判然としないため、部長が謙遜しているのか否か、オレには判断できなかったが……。
吹奏楽部の次期エースと言われる紅野アザミが認めているということは、かなりの腕前なのだろう。
「また一つ、部長の謎が増えてしまった……」
一人、つぶやくオレに対して、彼女は、
「さぁ、そろそろ行きましょう、黒田くん。それじゃ、黄瀬くん、あとはヨロシクね〜」
と言いながら、先に放送室を出て行くのだった。
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