回想③〜白草四葉の場合その2〜参

「時間は気にせず、ゆっくりしていってね、って言いたいところだけど、シロちゃんを遅くまで引き留めるのも良くないしね……このお菓子を食べて、紅茶を飲み終わったら、今日は解散にしましょうか?シロちゃんのお家は、ここから近いの?」


 司サンの質問に、


「はい! 自転車で五分〜十分くらいです!」


と答えると、彼女は、


「そっか! それなら……竜司、あとでシロちゃんをお家まで送ってあげなさい」


と、息子に伝えた。

 すると、クロも「わかった〜!」と返事をする。


 てっきり、母親の言葉に反発して、わたしを伯父夫婦宅まで送ることを渋ると思っていたのに、彼が、あっさりと、その提案を快諾したことを意外に感じつつ、焼き菓子と紅茶をいただく。


 その後、司サンに薦められたマカロンを食べ終え、お家にお邪魔したことと、お菓子や紅茶をいただいたことに、お礼を言って席を立ったわたしに、クロも、


「じゃあ、送って行くよ」


と、言って立ち上がる。


「明日も待ってるからね!」


と言って、玄関先で見送ってくれた司さんに再度お礼を述べて、黒田家をあとにした。


 伯父夫婦宅に向けて、自転車を漕ぎながら、すぐそばのクロに話しかける。


「クロ、送ってくれてありがとう」


 自分の予想に反して、親切にしてくれたことに感謝すると、彼は、


「いや、もう少し、からな……」


などと、一瞬ドキリとするようなことを言う。

 こうして、伯父の家まで送ってくれていることと言い、立て続けに予想外の行動を取るクロに動揺しつつ、わたしは、自分の気持ちを悟られないようにしつつ、たずねてみた。


「へ、へぇ〜……クロは、わたしとどんな話しがしたかったの?」


 すると、彼はほおをかきながら、その理由を語る。


「あぁ、母ちゃんが急に帰って来て、中途半端になってしまったけど……シロと、もう少し映画の話しがしたかった、って思ってさ……」


(なんだ、そういう話しか……)

 

 、などと意味深長なフレーズがでただけに、その理由に、ガッカリした。

 

 それでも――――――。

 

 ついさっき、司サンがアップルパイの話しをした時と同じように、クロの好みを知っておきたい、という想いが同時に湧いてきたので、たずねてみる。


「そっか〜。クロは、どんな映画の話しがしたかったの?」


 すると、彼はその質問を待っていたのか即答する。


「先月観た『クローバー・フィールド』って映画が、スゲ〜面白くてさ〜! シロに話したかったんだ」


「そうなの? 『クローバー・フィールド』……なんだか面白そうなタイトルの映画だね」


「あぁ! 面白いぜ! オープニングのアイデアがスゴくてさ〜」


「そうなんだ! 今度、観てみようかな……」


 そう返答すると、クロは、なおも熱く映画について語り続ける。


「あぁ、オススメだぞ! あと、さっき観てもらった『フェリスはある朝突然に』だけどさ……今度、日本でも公開される『デッドプール』って映画が、すごく影響を受けてるらしいんだ! エンドロールが終わってからも、お楽しみが残されてるらしくてさ……」


「クロは、映画を見終わってからも、エンドロールが終わるまで席を立たないタイプ?」


 わたしは、気になることを聞いてみた。


「そうだな〜。家で映画を観るときも、最後まで見ることが多いかな? シロは、どうなんだ?」


「わたしも! 最後まで見終わってから、一緒に観たヒトと『楽しかったね!』って、感想を言うのが好き!」


「そうそう! 全部、見終わってから、感想を言い合うのが楽しいんだよな!」


 そんな会話をしていると、春休みの間、お世話になっている伯父夫婦の家が見えてきた。


「あ、もうすぐ伯父さんの家だ。ゴメンね、クロ……もう少し、お話しを聞きたかったけど……」


 自転車を停めて、わたしが、そう言うと、彼は右手をブンブンと振りつつ、


「いや、イイって! こっちこそ、今日は、母ちゃんと色々話してくれて、ありがとう。ああ見えて、オレのこと、心配してるみたいだからさ……母ちゃんもシロと話せて楽しかったと思うんだ……」


 司サンのことを考えながら話していることが伝わる口ぶりで、自身の想いを伝えてくれた。

 わたし自身も、クロの想いが十分に伝わったことを伝えたくて、


「わたしも、クロのお母さんと話せて楽しかったよ! もちろん、クロと色んなお話しが出来たこともね! 『今日は、お家にお邪魔させてもらって、ありがとうございました! 明日もよろしくお願いします』って、お母さんに伝えておいてくれない?」


と、伝言を託した。

 すると、彼は、さわやかな笑顔で、


「あぁ、わかった! じゃ、また明日な! 良かったら、昼過ぎに来てくれ!」


そう言ったあと、自転車を方向転換し、手を振って、もと来た道を帰って行った。

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