第7章〜ライブがはねたら〜①
4月15日(金)
この日は、新入生向けのクラブ紹介があるということで、通常授業は午前中で打ち切りとなり、五時限目と六時限目は、一年生全員とクラブ紹介を行う各クラブの代表数名ずつが講堂に集うことになっていた。
昨今の情勢を鑑み、今年は、数年前まで盛んだった講堂舞台上での各クラブのパフォーマンスは実施されなくなり、我が広報部デジタル班のエースである壮馬が編集したプロモーション映像を超大型スクリーンに投影したあと、代表者数名が舞台に登壇して説明を行う、という形式で実施される。
撮影された映像の編集は、広報部の権限で居残りをした壮馬とオレが、午後八時の最終下校時刻まで掛かって、なんとか納期に間に合わせるという綱渡りのスケジュールだった。
もっとも、編集作業のほとんどは壮馬が行い、オレ自身は、アシスタント以上の作業はしていないのだが……。
朝の
壮馬はプロジェクターとノートPCが並んだ映像配信用のブースに座り、オレの方は、講堂内の音声と映像のチェックを行うために、テラス状になっている後方の二階席に移動する。
ここから、この時間限定で、校内での使用許可が下りたスマホの通話アプリで、音声や映像の配信に問題が出ていないかをお互いに確認し合うのだ。
通話アプリのアイコンをタップして、壮馬のスマホを呼び出すと、数秒も経たずに応答があり、聞き慣れた声が返ってきた。
「は〜い、コチラ映像送信ブース! こっちの準備はOKだよ! いつでも、テストを始められる」
「それじゃ、テスト配信はじめてくれ――――――」
送信ブースの相棒に、そう返答しようとした瞬間、背後から、
「へぇ〜、広報部の裏方の仕事って、大変なんだね〜」
不意に声を掛けられた。
「のわっ!?」
虚をつかれるようなタイミングだったので、はからずも声を漏らしてしまったオレの姿を可笑しそうに見つめながら、クラスメートになったばかりの女子が語りかけてくる。
「なに〜!? 真夜中の撮影スタジオに現れた女優の幽霊を目撃したみたいな表情で……そんなに驚くことないじゃない」
「誰もいないハズの背後から、声を掛けられたら、真っ昼間でも驚くわ! ってか、六時限目の講堂は、新入生以外、関係者以外立入禁止のハズだぞ!?」
「え〜!? 『転入生の自分も、この学校のクラブ活動について知りたい』って、谷崎先生に言ったら、すぐに許可をくれたよ〜」
「…………そっか。なら、下のフロアに行って、一年と一緒にクラブ紹介を見学すれば――――――」
そう言って、舞台前のフロアへの移動をうながすと、同級生はニマニマと笑いながら、
「谷崎先生には、『
と、わざとらしい表情で反論する。
最初から、計画的な犯行(?)と言うわけか……。安易に許可を出す担任教師にも、コチラの仕事に配慮することなく付きまとう転入生にも言いたいことはあるが、反論するだけムダだと感じたので、
「わかったよ、白草……邪魔だけはするなよ」
そう言って、渋々ながら、テラス席に座るように薦める。
すると、スマホから、
「なに? 白草さん、そこにいるの?」
壮馬の声が聞こえてきた。
「あぁ、転入生はウチの学校のクラブ活動に興味津々だそうだ」
「なら、時間になるまで、白草さんには、そこで見学してもらおう。もうすぐ一年が講堂に入ってくるから、混乱するといけないしね」
送信ブースの相方の提案もあり、白草は遠慮することなくオレの席の隣に腰掛ける。
そして、コチラのようすには構うことなく、またすぐに、スマホから声がした。
「もう時間もないし、マイクと映像の確認、いくよ〜!」
「りょ〜かい! 音声と映像、出してくれ」
壮馬の呼び掛けにすぐに応答すると、舞台に立っている野球部のキャプテンの
「テスト! テスト! コレで良いのか!?」
という声とともに、クラブ紹介のプロモーション映像が流れ始めた。
講堂の二階にあたるテラス席でも、舞台上のマイクと映像の音声ともに問題なく聞こえている。
「音声も映像も問題ナシだ! テストは、クリアってことで良いだろう」
スマホに向かって、そう返答すると、壮馬から舞台上にも指示が通ったようで、野球部キャプテンは、舞台袖に消えていく。
そのようすを眺めながら、
「ふ〜ん、こういう活動も面白そうね〜」
隣の席に座る白草四葉が感想を述べる。
白草のようにに表舞台に立つ人間が、裏方の地味な仕事に興味を持つのは意外だと感じながら、そのことは、口に出さないでいると、彼女は、続けて、
「黒田クンは、クラブ紹介に出ないんだね」
と、確認するようにたずねてきた。
「あぁ、今日は、
そう返答すると、白草は「あぁ、そっか……」と、納得したのか曖昧な返事を返す。
(わかっていたことをあえて聞いてきたのか?)
と、彼女の質問の意図を考えていると、ほどなくして、講堂の入口が騒がしくなり、一年の生徒たちがクラス順に講堂内に入館してくるのが確認できた。
白草が問い掛けてきた理由を考察することは脇において、
「なんとか、映像と音声のチェックが間に合って良かったぜ……」
独り言のように、そう口にしたオレは、通話アプリの終話ボタンをタップして、クラブ紹介本番の舞台と映像の確認に集中することにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます