第6章〜わたし以外との恋愛喜劇はゆるさないんだからね!〜⑧
そんな壮馬の苛立ちと、友人の手前、居心地の悪さを感じずにはいられないオレの心境に構うことなく、白草四葉は、
「あっ、そう言えば……」
と、軽く握った右手の拳を左手のひらに、小さく「ポンッ」と叩きつけ、なにかを思い出したかのように、たずねてきた。
「二人に聞きたいことがあったんだけど……この辺りで、まだ、桜が満開になっている場所を知らない? お花見の写真を《ミンスタ》にアップしようと思ってたんだけど、引っ越しとかで忙しくて、なかなか写真が撮れなかったんだ……」
この気まずい空気をかえられる――――――と感じ、オレはすぐに質問に反応した。
「ん? 花見の場所か……壮馬、確か祝川沿いの桜は、もう散ってたよな?」
「そうだね……市内で、まだ桜が残っている場所と言えば、このマンションの近所の茶屋さくら通りか、ヨットハーバーのあるマリナパークじゃないかな?」
こちらからの問いかけに壮馬も反応し、すぐに自身のスマホで検索を始める。
そして、「うん!」と確認するようにうなずいて、最新の情報が確認できるSNSの検索結果をオレたちに報告してくれた。
「ソメイヨシノの樹は、花が散り始めているみたいだけど、浜辺のオオシマザクラって品種はまだ満開で、桜のトンネルが見頃になってるみたいだよ!」
「ホントに!? じゃ、このあと、行ってみようかな?」
手を叩いて、喜びをあらわす白草の表情を見ながら、壮馬が提案する。
「竜司も、白草さんと一緒に行って来なよ? 芦宮駅からバスも出てるし、今からなら、少し寄り道しても、暗くなるまでに帰って来られるよ?」
親友の言葉に、
「ん? おまえは行かなくてイイのか?」
と、たずねると、
「ボクは、白草四葉センセイの講義録をまとめておくよ。あと、明日の桜花賞に備えて、今日のレースで馬場傾向を確認しておこうと思うから……」
壮馬はそう答えて、オレたちと一緒に出掛けることを、やんわりと断った。
何事も効率を優先する壮馬は、この時間を使って、白草が今日これまでに語ったことと、今後の計画について、文書にまとめておこうと考えているのだろう。
あるいは、春休み中に再生回数を伸ばしたゲーム解説動画が、作品ユーザーの動向から見て、そろそろ頭打ちになるだろう、と言っていたので、(未成年のため、馬券を購入するわけではないが)動画の主要コンテンツを競馬予想に切り替えるための準備を始めようと計画している、という可能性もある。
しかし、それ以上に――――――。
つい先ほども目撃したように、いまのような白草との会話(じゃれ合いと見られても仕方ない)を、これ以上見せつけられては、たまらない――――――というのが、この親友の本音かも知れない。
(少なくとも、オレなら、最後の理由で目の前の男女を追い払おうとするだろう)
本心を悟られないようにしているのか、張り付いたような笑顔で外出を薦めてくる壮馬に対して、白草四葉は、この日、一番うれしそうな表情と大きなリアクションで応じた。
「ホントに!? ありがとう!!」
さらに、オレが気を遣いながら、
「イイのか、壮馬……? もし、これから先、オレに出来る仕事がなんでも振ってくれ」
と、友人の申し出に応えると、
「気遣いのできる男子はモテるよ、黄瀬クン! 誰かサンと違ってね……」
白草は、壮馬とオレの顔を交互に眺めながら、クスクスと笑う。
その仕草に、「なんだよ……」と、顔をしかめると、いよいよ、親友の表情は、
(だから、『そういうトコロだ!』って言ってるだろ!? 二人とも!!)
と、口には出さないが、こめかみに青筋があらわれるまでになっている。
そして、微苦笑を称えたままの親友は、
「いや……白草さん、ボクは竜司と違って、そういうの求めてないから……それじゃ、二人で桜を楽しんできてね! 邪魔者は、《編集スタジオ》で作業に戻るよ」
そう言い残して、腰をあげた。
「スマンな、壮馬……帰る時には、連絡するから」
オレが、返答すると、白草が気味の悪いことを口にした。
「ふ〜ん、二人とも、やっぱり仲が良いんだね……なんだか、夫婦みたい」
そのつぶやきには、
「「冗談じゃない!!」」
と、中学生時代に、黒と黄の《警戒色コンビ》と呼ばれたオレたちの声が重なった。
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