異世界英雄譚 蒼髪の剣士と獣人の少女
りひと
プロローグ 出会い
タルタレシア大陸には、二つの種族が住んでいる。
一つは
もう一つは
二つの種族はこれまでの歴史の中で、協力しあったり、争いあったりしていた。
これは、そんなタルタレシア大陸の中にある一つの国、ノクトニア帝国での物語。
「もうナハトがこの村に来てから2年になるか。だいぶここでの生活にも慣れたようじゃの?」
「首都での生活が合わなかっただけさ。俺には慌ただしい毎日より、のんびりしたこっちの生活の方が合ってたみたいだ。」
そう答えながら、蒼髪の青年ナハトは相棒の刀と狩猟用道具を取り出しはじめた。
「なんじゃ、今日も狩りに行くのか?」
「あぁ。昨日、森の東の方で大きな猪を見かけたんでね。今日はそいつを捕ってこようってみんなで話してたんだ。」
「東、か。ナハト、わかっているとは思うがあまり行き過ぎるでないぞ?その先には
「わかってるさ。
「おーいナハト!準備できたか?」
ナハトが村長に尋ねようとすると、それを遮るように外からナハトを呼ぶ声が聞こえてきた。
「悪い、もう出発の時間みたいだ。聞きたかったことは帰ってからにするよ。」
「うむ。では、気をつけての。それから、今日はお前さんの誕生日だから、ばあさんと一緒に色々と準備して待っておるでな。」
「村長さんありがとう!それじゃあそのごちそうに猪も追加できるようにするさ。」
そう言うと、ナハトは荷物を持ち、狩り仲間と一緒に森へと出発するのだった。
「ふぅ。もう夕方か。」
「ナハト、そろそろ戻らないと夜の森は魔獣も出て危険だぞ。」
「そうだな。狙ってた大きな猪は見つけられなかったのは残念だったけど、そろそろ戻るか。」
額の汗を拭い、刀を鞘に納めると、ナハトは狩り仲間の男に同意した。
「大きな猪はまた今度にしよう。これだけ獲物があれば十分だろう。それに、今日はナハトの誕生日じゃないか。みんなでお祝いしないとな。」
「20にもなって大勢にお祝いされるのは照れ臭いが、ごちそうもあるみたいだしそうするか。」
そして、ナハトたちが村へと戻ろうとしたその時だった。
ガサガサガサ
ナハトたちのいる場所から少し離れた位置から何かが通り過ぎる音が聞こえてきた。
「今のは!」
ナハトは迷わずにそちらへと走り出す。
「おい、ナハト!」
「悪い、先に戻っててくれ!俺は今のを確かめてくる。」
そう言いながら、ナハトは音のした方へと走り出していった。
「はぁ、はぁ、はぁ。」
少女は一人、森の奥で息を切らしながら走っていた。身につけたキャスケットを飛ばさないように片手で押さえ、長い銀髪と長い尻尾は左右前後と揺れている。
少女の背後には通常では考えられない大きさの猪が迫ってきていた。
(魔獣が出てくるなんて!普段はあまり魔獣もいないし、夜でもないのにどうして?しかもこんな大きさなんて。やれるかわからないけど、こうなったら。)
少女は立ち止まり、猪の方へと振り返る。そして、右手を前の方へと向けた。
「風の聖霊よ、かの者を……だめ、間に合わない!距離が近すぎる!」
慌てて向けていた右手を戻すと、再び少女は走り出す。
しかし、それも僅かな間だった。木の根に片足をひっかけ、少女は転んでしまった。
「きゃっ!」
すぐに立ち上がろうとするも、引っかかってしまった足を抜け出すことができなかった。
ポタリと、少女の冷や汗は頬をつたい地面へと落ちた。
猪の魔獣は少女のすぐそこまで迫ってきていた。
(誰か助けて!)
「
少女がぎゅっと目を閉じようとした瞬間、少女と魔獣の間にナハトが現れると、目にも留まらぬ速さで魔獣を縦に斬りつけていた。猪の魔獣は断末魔を上げ霧散した。
「ふぅ。まさか魔獣になってたとは。危なかったな、大丈夫か?」
納刀し、ナハトは少女に手を差し伸べる。
「は、はい。ありがとうございます。」
落ち着いたからか根に引っかかっていた足はすっと抜け、ナハトから差し出された手を握り少女は立ち上がった。
「あれ、君のその耳と尻尾、もしかしなくても…」
「あっ、はい。わたしは
(助けるのに必死で気づかなった。まいったな、村の掟を破ってしまうとは。)
「あ、あの、助けて頂きありがとうございました!すみません、急いでるのでわたしはこれで……っつ!」
少女がその場から去ろうとすると、引きつった表情を浮かべ始めた。
「足首を痛めたのか。しかたない、近くに村があるからそこまで連れて行ってやるよ。だからほら。」
そう言うと、ナハトは少女の前でしゃがみ、背中を向けた。
「えっ、えっ?そ、それはさすがに恥ずかしいと言いますか、申し訳ないです。」
少女は照れて俯いてしまった。
「その足じゃどこに行くのもままならないだろ。直に夜になる。そしたら魔獣も出てくるぞ。ほら、気にせず来いって。」
「わ、わかりました。」
少女は観念したのか、ナハトへとその身を預けた。
「よし、行くぞ。」
「重くないですか?」
「いつも運んでる獲物より全然軽いさ。」
(さて、村の人達はどう反応するか。)
少女に答えながら、ナハトは
これが二人の出会いであり、二人の運命の歯車が回り始めた瞬間だった。
ここから待ち受ける運命を二人はまだ知らない。
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