④拝啓、思惑抱えるスパイ達へ
楓原 こうた【書籍6シリーズ発売中】
プロット、設定
【タイトル】
拝啓、思惑抱えるスパイ達へ
【参考作品】
スパイ教室
【舞台設定】
(19世紀末のフランスを舞台にした架空国家)
・ローゼス共和国。資本主義によって成り立ち、貿易及び戦争で規模を拡大した国で、共和派が起こした革命により南北で大きな隔たりができた。
革命こそ成功し国の統一がされたものの、北部を中心とした資本主義側と南部を中心にした共和派に分かれることになった。
現状で表向きの平和が保たれている中、裏で共和国を維持したい共和国派とかつての資本主義を取り戻したい資本主義派で激しい抗争が繰り広げられるようになる。
ベリルレアを発見し、武器として開発した大陸一の先進国。
その他、産業において革新的に進んでいる。
・軍部統括局
南部(共和国派)によって形成された治安維持局。
軍部、警備部、情報部(スパイ)などいくつもの組織が存在している。
・
情報部で働くスパイを管理する総纏め役。
任務が下される際は、突発的なものがない限り
・情報部
裏で行われる情報戦争において中心的に活躍するスパイ組織。
南部が運営する士官学校を卒業した生徒の一部が所属となり、現在十五のスパイチームが存在している。
基本的には志願制であり、ベリルレアへの適性がある者のみが所属可能
・
サクがリーダーを務める、情報部のチーム。
少数精鋭で、任務達成率が極めて高い。ソフィアが加入する前までは三名であり、当時のメンバーは一人死亡。
※メンバーのコードネームは「花」を付けると花の名前になる。
・ベリルレア
ローゼス共和国の中心にある鉱山のみでしか採掘できない特殊な鉱石。
日光によって蓄積された光によって緑色に輝いている。
身に着け、擦ることで個人の特異体質を引き出すことが可能であるが、蓄積された日光がなければ効力を発揮しない。一度の持続時間は約三時間。
なお、適性がある者のみ使用可能で、擦り光れば適性があると判断可能。
特異体質が引き起こされるのは、人間の血が関係していると言われている。
各国採掘量は極僅かなため、軍部の一部及び情報部の人間にしか渡されず、一般市民は存在を知らない。
※鉱石を長時間大量の血に滲み込まし、飲み込むことによって血の保有者と同じ特異体質を引き出すことが可能だが、発見したサクは人体実験を引き起こす可能性があると考え秘匿。
サク、及びユリアは元チームメンバーの血を使ったことにより二個目の特異体質を持つことができた。
体内に入れたベリルレアの特異体質は己の血を飲み込むことで顕現可能(口の中を噛む等)
・特異体質
ベリルレアによって顕現した各々の体質。Noが若いほど、顕現する体質が強力であり、希少。
・アズール帝国
ローゼス共和国の隣に位置する大国。
先進国であるローゼス共和国の技術を狙う、大陸一の大国及び軍事国家。
【キャラ設定】
・主人公 サク・アルバレッド(男)
・年齢 十五歳
・容姿 少し長めに切り揃えた金髪に赤目。低めの身長。
・スパイになった目的 孤児の自分でもなれる仕事だったから
・現在の目的 慕っていた姉のような元チームメイトを治すための手段と金。
・コードネーム 彼岸
・立場 十二歳の頃から情報部に所属。チーム『六花』のリーダー。スパイ組織内では最年少であり一番の
・性格 大抵のことはそつなくこなす天才肌。常にクールで、少し近寄りがたい空気を醸し出す。しかし、懐に入ったごく一部には優しく、時折年相応に熱くなる時がある。女性経験があまりないため、スキンシップを過度に嫌う。
・ベリルレア 黒い手袋
・武器 素手
・特異体質 特異NO.5『紫電』 百万ボルトほどの電気を体に纏う。足元全体に強力な磁場を形成することによって、銃弾などといった金属を引き付けさせ、狙撃や銃撃を防ぐ。
触った対象に己の電気を電導させることが可能。
・特異体質②(秘匿) 特異NO.14『偽形』 指定した対象の姿形、声質に変形することができる。
・セリフ「ち、違う……別にぼ、僕は女性に免疫がないとかじゃない」
「僕にはどうしても助けたい人がいる。この世界で生き続けているのも、結局は彼女の存在が大きいからなんだと思う」
・ヒロイン ソフィア・ロイゼン(女)
・年齢 十六歳
・容姿 腰まで伸びた銀髪。少しだけ小柄な体躯と、翡翠色の瞳。
・スパイになった目的 両親を殺したスパイを探すため。両親から言われ続けた「幸せになれ」を守るために生き残ること。
・コードネーム
・立場 チーム『六花』の新人。北部との戦争を企て、隣国と繋がりがあった副首領の娘であり元令嬢。とある任務によって保護された孤児。
・性格 お淑やかで、努力家。運動神経はそこそこ。年相応の女の子らしい反応も見せ、目的のためなら手段を選ばない強かさも持つ。人一倍頭がキレる。
・ベリルレア 両親の写真が入ったロケット
・武器 小型のマグナム銃
・特異体質(秘匿) 特異NO.1『治癒』 触れた対象、及び己の外傷、病気を治す。
・特異体質 NO.5『紫電』 百万ボルトほどの電気を体に纏う。足元全体に強力な磁場を形成することによって、銃弾などといった金属を引き付けさせ、狙撃や銃撃を防ぐ。
触った対象に己の電気を伝導させることが可能。
・セリフ「サクさん、これはただの寝間着なのですが……あの、あなたが同じ家で暮らすよう細工をしたのですよね? どうしてそこでダメージを食らうのですか?」
「ふふっ、では予定通り―――裏切りましょうか。これでいいんですよね、お父様? 大丈夫です、私はお母様との約束を守るために……必ず生き残ります」
・チームメンバー カンナ・スペンサー(女)
・年齢 十八歳
・容姿 肩口まで切り揃えた茶髪に琥珀色の瞳。小柄な体躯。
・スパイになった目的 お金がほしいため。
・立場 (表)チーム『六花』のメンバー (裏)資本主義派のスパイ。
・性格 金のために動く人間。愛嬌があり、明るく、人懐っこい性格をしていて人の懐に潜り込むことを得意としている。
・ベリルレア チョーカー
・特異体質 特異NO.45『拝聴』 聴力が強化され、一定範囲内の音を拾うことができる。
・コードネーム 茉莉
・セリフ 「お金があれば全て解決できちゃうんですよ! 羽振りのいい方につく、それって皆やってることですよね? なので、おーるおっけーですっ♪」
素「ボクはこっちの方が素ですからね。ボクっていう方が、本当は楽なんですよ」
・チームメンバー サラサ・シュトリツェル (女)
・年齢 ニ十歳
・容姿 腰まで伸ばした赤髪に赤目。凛々しい顔立ち。
・スパイになった目的 自分の信じる正義のため。
・立場 チーム『六花』のメンバー。サクとチーム結成当時からの仲。
・性格 正義感溢れる性格で、皆の姉的存在。面倒見がいい。銃の扱いが誰よりも得意。
・ベリルレア 仕込み傘(銃兼用)
・特異体質 特異NO.40『収拾』 視力が極限まで上げられる。
・特異体質②(秘匿) 特異NO.14『偽形』 指定した対象の姿形、声質に変形することができる。
・コードネーム
・セリフ 「私は私が信じる正義を全うするわ。でも、仲間がその道を逸れそうになったら、全うする前に相談に乗ってあげる」
・元チームリーダー アリス・マーカー (女)
・年齢 二十歳
・容姿 少し長いプラチナブロンドに翡翠色の瞳。
・立場 チーム『六花』の元チームリーダー。サクやサラサから慕われており、皆の姉的な立場であった。現在、任務の負傷で植物状態のまま入院。
・コードネーム
・特異体質 特異NO.14『偽形』 指定した対象の姿形、声質に変形することができる。
・セリフ「サクくん、仲間は大切にしなきゃダメだよ? お姉ちゃんの最後のお願い、ね」
・帝国スパイ アルベール・オーレン
・年齢 二十八歳
・立場 帝国のスパイ。帝国内で噂されている階級(上に行くほど実力者)で、中将の席に座っている。過去に『六花』と対峙したことがあり、アリスを植物状態に追いやった。
・コードネーム
・特異体質 特異NO.5『腐蝕』 触れた物体及び触れた物体を腐敗させる。
・セリフ
「共和国一のスパイだと聞いていたが、残念だ。感情に振り回されるなど、三流の相手と変わらん」
【全体構成】
プロローグ
円満で仲睦まじく、愛情をもらいながら育ったソフィアは両親を殺される。
両親を殺したのがスパイだと理解したソフィアが母との約束である「幸せになる」を後回しにし、殺したスパイを探すことにした。
第一部
局の任務でベリルレアの密輸を阻止するために、サク含むチーム『六花』は繁華街の外れにあるどこでもありそうな医院を攻めることになった。医院という場所を名目にベリルレアの受け渡しが行われる場所で、関係者を根絶やしにすることを目的として。基本、全ての人間は関係者であり、医者看護師全てがカモフラージュでしかないからである。
「ねぇねぇ、リーダー。この場合ってどうすればいいんですかね? 指示をプリーズなんですけど」
「おい、僕も聞いてないぞ」
「確かに、これはおかしな話ね」
根絶やしにしたあと、地下牢で監禁されている一人の少女を発見した。
―――その少女はソフィアであった。
第二部
保護したソフィアの対応で悩む局。一旦部隊へと連れ帰り、今後について考えた矢先、ソフィアがサクのベリルレアを見て、ある事実を口にした。
「それは、ベリルレアですよね? 私も使えますよ」
特異体質はNOが若いほど希少であり、強力である。その中で他者及び己の傷や病を癒すことができる『治癒』。それを、ソフィアは見せた。
「といっても、あなた方が使っていたほど使いこなせてはいないのですが。いかがです? 驚きましたか?」
サクは考える。ここでこの特異体質の持ち主を表向きな平和の世界に放り投げるのかを。だがサクは、そこで私欲を優先した。
「ソフィア、スパイにならないか?」
充全に使いこなすことができれば、サクの目的であるアリスを救うことができるかもしれない。手元に置けば邪魔されず達成できる。そう考え、サクはソフィアをスパイにさせるよう提案する。そして、ソフィアは―――
「ふふっ、どうせ行く宛ても生きる術もありませんので構いませんよ。私みたいな孤児が生まれない平和な世界を作るためならば、この身を捧げます」
スパイになることを決意した。こうして、サクはソフィアを一人前のスパイとさせるべく、チームに引き入れ教育を受け持つことにした。
回想
運がよかった。密売人の下に転がり込み、悪事を局に流せば国が動く。
そうすれば、スパイのいる情報部と接点が持てるようになる。これで、とりあえず基盤は整えられるはずだった。軍に転がり込み、情報部に配属されるために深くまで潜り込んで両親を殺した相手を探す。運がよかったというのは、密売人がベリルレアを密輸しようとしていたこと。公にできない物であれば、軍ではなくスパイが動く。直接的な近道が生まれる。
そして、密売人に流してもらったベリルレアを試したところ―――希少な『治癒』の特異体質が生まれたことであった。
第三部
二人の本格的な師弟としての生活が始まった。指導がしやすいようサクの家にソフィアを同棲させることになった。サクが女性に対する過度なスキンシップを嫌がることが問題となったが、離れることの方が不都合だと判断され、ソフィアに押し切られた。
まず、サクはチームメイトにソフィアを紹介する前に、あることを始める。
「『治癒』の特異体質は誰にも喋っちゃダメだ」
「どうしてですか?」
『治癒』の特異体質は希少も希少。すぐに国に抱えられてしまう。
そうなってしまえば、サクの目的が遅れるか果たせなくなる。それに———
「どこで情報が洩れるか分からない。『治癒』の特異体質はどの国も喉から手が出るほどほしがる存在だから」
「孤児の私の価値が金塊以上に膨れ上がりましたね」
「黙っておくことに損はない。っていうより、ある程度自分を守る術が身について、使いこなせるようになってからでも遅くはないはずだ」
しかし、スパイとして活動するためには最低条件として『ベリルレアの適正があること』というものがある。適性がない者はスパイにはなれない。『治癒』の特異体質を秘匿するのであれば、そもそもスパイとして活動することは許されない。そこで、サクはある提案をする。
「研究者界隈で、「ベリルレアは人間の血に反応して特異体質を引き出される」って云われている……まずソフィアには僕の血を滲み込ませたベリルレアを体内に入れてもらう」
確実に反応を示しているサクの血。他者の血を大量に取り込むことで、サクの特異体質を引き出す。誰も知らない方法であり、誰も試さなかった方法。着用するだけで特異体質が引き出せるベリルレアを、わざわざ危険を冒してまで体内に入れた者は存在しない。
「危険……ではありませんか?」
「確かに危険ではあるけど、安心しろ―――少なくとも、成功事例は
そう言われ、ソフィアは躊躇しながらも飲み込んだ。すると、ソフィアの体に変化が起きる。
『治癒』とは別にサクの持っている『紫電』の特異体質まで引き出すことができた。
そして、チームメンバーとの紹介も終わり、訓練を受けながら共に任務へと繰り出していく。
閑話
北部のとある場所。
武器の密輸売買を阻止するために配属されたチームが、保守派によって壊滅される。
「やはり、お前の《・・・》の情報は役に立つ」
その中で一人、保守派のスパイと同じ空間でひっそりと笑う人間がいた(カンナ)。
「そう言ってもらえると、ボク《・・》も嬉しいですよ。というわけで、早くお金を払ってよ」
第四部
サクとソフィアが一緒に暮らすようになってから一ヶ月。
二人の同棲生活も、徐々に慣れが見え始め、打ち解けているような空気が醸し出されるようになった。人生で初めて異性と同棲……いや、人と一緒に過ごしたサク。ごく限られた人にしか心を開いていなかったサクだが、徐々にその心境に変化が現れるようになる。
冷たい口調は変わらずだが、人と多くの時間を共にすることによって人という存在と関りを持とうと思い始める。交流も増え、出掛けるようになり、たわいのないことで笑うようになる。それは、今までのサクでは考えられないことだった。
ある日、ソフィアはサラサにとある病院を案内された。
そこで紹介されたのは、植物状態で眠っている元チームメンバーであるアリスだった。
「アリスはね、サクにとって姉のような存在だったの。なんにも関心がなかったあいつが、少しだけ心を開くようになったきっかけ。サクは、この人を治すためにスパイとして治療費や手術費を稼いでいるの」
その次の日、二人が新しい任務を下される際、
前回我が組織の一つが先日、保守派に情報が流れ、比較的安牌な任務に失敗し全滅したと。
忠告を受けた二人はそのまま任務へと向かって行く。
だがその任務は保守派に情報が漏れており、二人が別れたタイミングで襲撃を受けてしまう。
その時、引き返したサクが現れ、間一髪ソフィアを助けることに成功する。
第五部
前回、情報が漏れたことによって半壊してしまったチームの生き残りであるディーターを調べるサク。他のチームメンバーが死ぬほどの状況で一人だけ残るという懸念の下尾行を続けていたが、特段おかしな部分は見つからなかった。
サクは尾行を諦め、ディーターに直接当時の話を聞くことにした。
ディーターは己の特異体質により、逃げに徹することで生き延びたのだとか。
その話を聞き、サクの脳裏に
任務の内容を知っているのは
しかし―――
「やっぱりあいつか。否定したかったけど、これ以上は無理だ」
どう考えても、それは可能性が低い。逆に、他の懸念が確たるものとして変わっていった。
そして、サクはある人物と連絡を取る。
「協力してほしい。うん、お前で十分」
それからサクが任務で部隊を離れた時、ソフィアが誘拐されてしまった。
回想
「……仲間は大事にしなくちゃダメだよ?」
サクが『六花』に入った当初のこと。チームリーダーであるアリスにそんなことを言われた。
ただ、その言葉を吐かれた時はまともに耳に入らなかった。
何せ、アリスの体はボロボロで大量の血を流し、体の至る所が腐敗していたのだから。
「スパイはね、誰も褒めてくれないし認めてくれない寂しい人。だから私達『仲間』が大事にするの。そうしたら皆平和に、世界に認められなくても最後には笑っていられるからさ―――お姉ちゃんからの、最後のお願いだよ」
最後に言った言葉は、今でもサクの胸に残る。
第六部
「やはりあなたでしたか……カンナさん」
ソフィアは一人でいるところを誘拐された。
その誘拐相手は、同じチームメンバーであるカンナであった。
「『治癒』の特異体質者を保守側に送り込めば、お金もガッポガッポもらえるね! ボク、この仕事やっててよかったよ」
カンナは二人が別行動を取る瞬間を待ち、ソフィアを誘拐することにした。
サクを直接相手にすれば、ソフィアを誘拐することは不可能。
だからこそ、このタイミングであったのだが―――
「本当に信じたくはなかったけど……ここまで来たら止めるよ、カンナ」
そこにサクが現れる。
「お前の特異体質であれば、情報を知らずとも聞く《・・》ことは可能。だから、情報を盗んで保守側に漏らすことができる。情報を流すスパイにはもってこいだ」
サクが現れたことにより、勝つことが不可能だと判断したカンナはソフィアを倉庫の奥へと監禁し、対峙することを決意した。しかし、相手は最年少かつ部隊内で一番の実力を誇るスパイ。カンナは太刀打ちこそできたものの、サクによって倒されてしまう。
そして、サクはソフィアが捕らわれた奥の方へと向かった。
しかし、そこにソフィアの姿はなかった。
───少し遡り、サク達が戦闘している間、監禁されたソフィアは二人に気づかれないまま事前に用意しておいたナイフで縄を解いた。
そして、そのまま倉庫の外へと出る。
「ふふっ、では―――裏切りましょうか」
???
ソフィアは保守派が帝国と繋がっていると聞いた時点で寝返ることを決めた。
それは帝国という巨大国家と手を結んだ保守派と争うと共和国派は負けると考えたからだ。
もし負けてしまえば、自分は目標を達成することができず死んでしまう恐れがある。
(私はお父様とお母様を殺したスパイを必ず見つけ出さないといけません。そのためには、過程で死ぬなど言語道断……生き残る可能性が高い方を選択します)
『治癒』という特異体質は貴重だ。たとえ帝国や保守派に捕まったとしても、好待遇が見込めるはず。更に、特異体質を二つ所得できる原理も、帝国にとっては必要とされる情報。
故に、ソフィアは誘拐されるよう仕組んだ。
「やはり、いらっしゃると思っていましたよ。帝国のスパイ様?」
倉庫の外では行く末を見届ける、もしくはソフィアを引き渡すために帝国のスパイが構えていることを想定していたソフィアは、帝国のスパイと思わしき男性に連れられ、車で走り出す。
一方、ソフィアがいなくなってしまった倉庫では———
「ソフィアはいなかった」
サクは大きなため息を吐く。すると、一瞬にして姿が変わった。
「まったく……サクの予想通りじゃない」
第七部
車に乗ったソフィアは、徐々に違和感を覚える。
帝国に行くには方向が違う。保守派のいる北部とも、ルートが違う。
ソフィアの違和感は疑念に変わり、一つの結論に至った。
「もしかして、あなたは……ッ!?」
「最後の最後で詰めが甘かったね、ソフィア」
運転していた帝国のスパイの姿が変わる。そして、いつも見慣れていたサクの姿へと変わっていった。
「今回の誘拐だけど、前提としておかしかった。どうして、誰にも知らせていないソフィアの『治癒』をカンナが知っていたのか、っていうところ」
上層部にも知らせていないことを、何故カンナは知っていたのか?
「お前は襲撃の際に自分の特異体質を見せた。『治癒』の能力は貴重だ、見つかればどの勢力も欲しがるっていうのは想定できる。だったら、わざと見せつけることで帝国と保守派に己を誘拐させようと思った……違う?」
何もかも見透かされ、看破されてしまったソフィアは足掻くことを諦め、大人しく白状する。
「ふふっ、大正解ですよサクさん。カンナさんの誘拐が成功してもよし、失敗しても帝国とコンタクトを取れるため、私の思惑はどう転んでも成功でした。しかし―――二つとも、サクさんに潰されてしまいましたが」
誘拐という口実も、サクが現れてしまい自ら接触した姿が見られてしまっているので不可能。
ソフィアは、サクという相手が現れたことによって全てを諦め、自分の「幸せになること」という約束を含め全てを話した。
「……そういうのは先に言え。僕がソフィアを幸せにしてやる。その復讐も、僕が手伝う」
裏切ろうとした相手に、何故親身になれるのか? 普通は首を斬られても文句は言われない。
「ソフィアは、チームメイトだから。それに、アリスに「大事にしたい人は大事にしなさい」って言われたことがある」
「……」
「ソフィアは僕にとって大切な人だと思える存在だ。だから―――僕は大事にしたいと思う」
天涯孤独になった少女は約束と復讐に縛られていた。故に、他者から向けられた真っ直ぐな好意に、初めて胸が高鳴ってしまう。
その時、本来ソフィアと接触するはずだった帝国のスパイ達によって襲撃される。
襲撃してきた相手はアリスを傷つけた腐蝕だった。サクとソフィアは車から降り、慌てて近くの廃屋へと転がり込んだ。
相手は帝国屈指のスパイ。楽をして勝てるとは思えない。そこで、サクはソフィアに一通り説明を終えると、仇と対峙することを決意する。
「復讐を手伝ってくれるのなら、私も手伝わないといけませんね。私を幸せにしてくれるのでしょう? なら、ここは二人で切り抜けましょう」
しかし、相手は帝国の中でも屈指の実力を誇るスパイ。復讐に駆られ、いつもの冷静さを失っているサクの動きは、素人に毛が生えた程度であった。
「感情に流されるスパイは三流以下だ。最年少でありながら共和国一のスパイも、身内の仇討ちで冷静さを失う子供だったとは」
ソフィアを相手にするが、メインはサクを狙う。ソフィアの『治癒』は重要。生かすことがアルベールにとって最優先だった。サクは粘るがそれでもアルベールの技量に押され、やがて寸前のところまで追い詰められてしまうが―――
「あら、帝国は貴重な『治癒』を殺してしまわれるのですか?」
「そして、僕を生かしてくれるなんてな」
サクだと思っていた男がフードを脱ぐと、そこから姿を見せたのはソフィアであり、ソフィアだと思っていた相手は姿を変え、素早い動きでアルベールの首を切った。
「帝国はソフィアが『紫電』を使うとは思っていなかった」
「更に、サクさんが『偽形』を使えるとは知りません。ふふっ、ならば入れ替えることも可能ですよね? 幸いにして、サクさんは私と背丈が似ていますので」
アルベールが現れ、倉庫に身を一時的に隠したその時、二人は服を入れ替えた。サクが着ていたものは顔を隠せるほどのフード。一方で、ソフィアは顔を全て晒してはいるが、サクの『偽形』によって全てを変えられるため問題がない。
そうして、二人は協力して帝国屈指のスパイを倒すことに成功する。
これを最後のイベントとして、内通者関連の事件は幕を下ろした。
エピローグ
カンナという裏切り者を見つけ、帝国のスパイを倒したということで上層部に評価されたサクとソフィア。
捕縛したカンナは、局に送られ処遇をこれから決めるという話になった。
裏切ろうとしていたソフィアだが、サクは己のために上層部に黙認。お咎めはなかった。
そして、それとは別にサクとソフィアの同棲生活は続いていた。
まだまだソフィアの特異体質とスパイとしての技術は他に比べて劣る。サクからもらった『紫電』もまだまだ教わることが多い。
二人はこの一件で関係を深めつつも、引き続き協力者の師弟として訓練に励むのであった。
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