0525 魔王ドロズニンとは何者だったのか?

 ノーザンシティへ戻り、理事会への報告とノーベル理事長への話はユーリウスさんとシャルルに任せ、残りの俺たちは会議を開いた。


疑問、ブラッドリー・デニケンとは結局何者だったのか?

疑問、魔王ドロズニンとは何者だったのか?

疑問、今回の件はこれで終わったのか?


この3つの疑問に答えるために俺たちはまず、ドロズニンの屋敷から持ってきた資料を徹底的に調べ、捕縛した部下たちを尋問した。

ドロズニンの部下たちはシルビアとエトワールさんの躾と調教による結果、ペラペラと素直に質問に答え始めた。

一体、どういう躾をしたのだろうか?

俺はシルビアにそれを質問してみたが、本人はニッコリと笑うだけ、

エトワールさんは「やあねぇ!そんな大した事してないわよぉ~」と言ってカラカラと笑い飛ばすだけだ。

俺は二人と一緒にいたポリーナにも聞いてみたが、「え・・」と言われたあと、無言で目をそらされてしまった・・・

・・・恐るべし!テリブルペア!

この二人、伊達にロナバールで鬼とか悪魔とか言われてないわ!


資料の調査と尋問の結果、魔王ドロズニンはノーザンシティを中心としたかなりの広範囲に渡って、その触手を伸ばしていた事がわかった。

それはアムダール帝国はおろか、近隣のアドレイユ王国や他の国々にまで及んでいたのだ!

それを知った俺たちは即座に魔王消滅の情報が伝わる前に各地へ分散して赴いた!

キャメロン氏以外のノーザンシティの|審判の騎士(ジャッジメントナイト)や該当地の戦闘法務官たちの協力もあって、魔王の支配下にあった各地の幹部や部下たちは悉く、捕縛、もしくは戦闘の上で死亡した。

アムダール帝国以外の国々も事の重要性を理解し、魔法協会の権限は国を越えて発揮するために捜査は速やかに進んだ。

その結果、魔王ドロズニンの全容が明らかになった。

そう、ブラッドリー・デニケンは魔王ドロズニンの部下であり、幹部の一人だった。

彼は魔王の支配地域の一番の要所であるノーザンシティを任されていて、そこを完全に掌握した後で各地の支配地域と呼応して一気に魔王の勢力範囲を伸ばす計画だった。

しかしそれも魔王ドロズニンとその幹部たる部下たちが全て捕縛、もしくは死亡したがために、その計画はついえたのだった。

ここまで判明した時点で表向きの事件は全て解決となり、俺たちもノーザンシティから引き上げる事となった。


 だが本当にそうなのだろうか?

俺は気になる事があった。

それは魔王ドロズニンの勢力範囲がある線を境にピタリと停止して進んでいない事だった。

もちろん、そこが限界線でそれ以上勢力範囲を広げる余力がなかったと考える事は出来るし、それが普通かも知れない。

しかし他の場所は国の国境線を越えてまで勢力範囲を広げてある場所があるにも関わらず、同じアムダール帝国の国内でもある場所を境に、それ以上は全く侵攻していないのも不思議だった。

そして何よりもあの水晶玉の件があった。

あの水晶玉は魔王であるドロズニンを攻撃したのだ。

しかもただ攻撃しただけでなく、魔王自身に止めをさしているのだ!

俺にはそれが魔王の口を封じるためにしたとしか思えなかった。

実際に現場にいた他の面々も同じような考えだった。

俺だけの考えすぎではないはずだ。

だが、各地で捕縛した魔王の部下たちをいくら締め上げても、魔王の背後に誰かいるとか、

魔王が誰かから指示を受けていたという証言は無かった。

魔王ドロズニンはその組織内の絶対権力者で文字通り「王」なのだ!

しかもそれは何かの秘密を守っているような感じではなく、単純に魔王が最上位の権力者である事を信じているのだ。

俺はエレノアに聞いてみた。


「エレノアは以前に魔王を倒した事があるって言ってたけど、その時に魔王よりも上の奴がいた事はなかったの?」

「それはありません。

そもそも以前にも少々説明した通り、魔王というのは魔法学士程度の魔法を操り、レベルが200を越えた程度で勝手にその辺で「魔王」を名乗りその地域を支配しようとする・・・そのような状況で発生する場合がほとんどです。

中にはレベルが150にも満たないのに魔王を名乗る者までいます。

今回の魔王ドロズニンはそういった過去の魔王たちとも比較しても規模は大きく、レベルはずば抜けて高いです。

そういった意味からでは、むしろ彼に上位者がいたとは考えにくいですね」

「なるほど」


 エレノアの言う事は筋が通っている。

しかし俺はさらに気になった事があった。

それは捕縛した魔王ドロズニンの部下たちに、いわゆる顔役と言われるような連中が多かった事だ。

何人かの部下は町の重鎮や要職についていて、さすがに町長はいなかったが、町長の弟、町の参事、町長の息子すらいた。

だがその中にかなりの数で顔役がいたのだ。

それを知った俺はロナバールの事を思い出していた。

ロナバールはドロズニンの勢力範囲外だ。

しかし町一番の顔役だったトランザムはロナバールの裏社会を牛耳り、それを操作可能な立場にいた。

そこが気になった俺は、ポロンとコロンをロナバールに送りがてら、そこでザジバたち顔役を集めて聞いてみた。


「・・以上がノーザンシティで今回起こった出来事なんだ。

そこを踏まえて君たちに聞きたいのだが、トランザムは一体どうやってこの町一番の顔役になったんだい?」


俺の質問に顔役の中でもっとも年長者でまとめ役のトーラスが答える。

現在顔役たちは顔役集の中で比較的民衆に好かれているザジバを表向きの旗頭とし、実際のまとめ役はこの男がしていると聞いている。


「そうですな。

奴は以前はロナバールの中堅所の顔役でした。

もっとも顔役といっても当時から奴はかなり無法であくどい事をしていたので、我らは顔をしかめていたものです。

それでもブローネ殿が御健在でした頃は、奴もそれほど大きな事はしていませんでした」

「ブローネ?」


俺の疑問にトーラスが答える。


「ああ、ザジバ殿の父上です。

その頃はロナバール一番の顔役と言えばブローネ殿で、あの方は任侠にも厚く、我々も尊敬していたものです」


その説明にうなずいたマスタングやブリムスも答える。


「ええ、それが突然ブローネ殿が亡くなられたので、われ等も驚きでした。

一説にはトランザムがブローネ殿を暗殺したのではという話も流れましたが、証拠もないのでそれは立ち消えになっていきました」

「ええ、それからです。

トランザムが急激に勢力を伸ばして来たのは・・・

先ほども言ったように奴は元々非道な輩でしたが、それ以降はさらにひどくなりました」

「われ等もそれには歯がゆい思いをしていたのですか、膨れ上がった奴の勢力の前には如何ともしがたく、ホウジョウ様の御存知のような有様でございました」

「なるほど・・・奴はどうしてそこまで急激に勢力を伸ばせたのかな?」

「はい、それは他の町の勢力と取引をしていたようでございます」


そう言えば以前そんな話を聞いた記憶がある。


「どこの誰と?」

「それは実は最近になって判明したのですが、どうもシマラダのダンベールのようです」

「え?ダンベール?」


ダンベールと言えばザジバと一緒に俺が捕縛した賊の首魁だ。

残虐非道を極め、結局は死刑となった。


「はい、どうもトランザムはダンベールと組み、ロナバールで勢力を急激に拡大したようです」

「トランザムの死後、突然ダンベールがロナバールで勢力を伸ばしたのもそれと関係があったようなのです」


確かにトランザムの死後、1ヶ月と経たない内にダンベールはロナバールで急激に勢力を伸ばしてきた。

これはいくら裏社会の者でもありえない事で、当時俺もあまりの浸透の速さに驚いていた。

しかしそれがもし最初から二人がどこかの魔王関係の者で上からの指示があったのだとしたら?


「それとシャイロックという悪徳商人とも繋がりがあって、資金調達などはそいつにやらせていたようですな」

「え?シャイロック?」


その名前には聞き覚えがある。


「はい、奴はかなりあくどい商売をしていて、トランザムの死後、かなり困惑して我々とも取引をしようとして来ましたが、われ等もその頃はホウジョウ様にそういった者達とは縁を切る約束をしていましたゆえ、誰も奴とは取引をしませんでした。

その結果、奴は窮乏し、どこかへ逐電したそうです」

「そうか・・・ちょっと聞きたいんだが、その商人には娘がいたかい?」

「はい、確かキャサリンと申す娘がいたはずです。

これがまた見た目はかなりの美人ではあるのですが、父親に輪をかけてひどい商売をするような娘でした。

確か風の噂で父親の逃亡後、逃げそびれて奴隷として売り飛ばされたと聞いておりますが・・・それが何か?」


やはりその悪徳商人とやらはキャサリンの父親のようだ。

やれやれ!知らなかったとはいえ、我ながらとんでもない奴に関わってしまったものだ!


「あ、いや、いいんだ。

別に何でもない。

大体の状況はわかった。

もし今後もそんな兆候があったら、私に教えて欲しい」

「承知いたしました」


こうして顔役たちと会合を終えた俺は次にミヒャエルとゼルさんに話を通し、ひそかに会議をする事となった。

会議に集まったメンバーは俺とエレノア、シルビア、デフォード、男爵仮面、バロン、マックスさん、そしてミヒャエルとゼルさんだ。

俺はノーザンシティでの出来事と、ロナバールでの顔役たちとの話を全員に話した。


「そういった訳で今回ノーザンシティで起こった事はノーザンシティやその地域だけの事ではなく、全アムダール帝国、いえ、アースフィア規模の事なのではないかと思うのです」

「うむ、確かにシノブの言う通り、あまりにも符号が一致しておる。

これは早急に調査した方が良かろう。

但し慎重に、内密にな。

まずは余の配下である程度調べ、結果が出次第、陛下にも奏上いたそう」

「私も協会総本部に報告をして|審判の騎士(ジャッジメント・ナイト)を中心として各地の戦闘法務官たちに調査をさせようと思います」

「うむ、頼んだぞコールドウェル本部長」

「はっ!お任せください」

「シノブも学生の身分ですまんが、学業の合間にでも何かわかった事があれば知らせえて欲しい」

「うん、もちろんだよ。

全アースフィアに関係する事となれば他人事じゃないしね?」

「うむ、よろしく頼む」


こうして当座は水面下で魔王に関する調査をする事で俺たちは一致して会議を終えたのだった。

そして俺はようやくマジェストンへ戻り、一応普段の学生生活に戻る事が出来た。

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