0120 登録手続き
「これで良いですか?」
俺たちが記入した用紙3枚を、大銀貨三枚と一緒に渡すと、アレクシアさんが確認をする。
「はい、結構です。
それでは大銀貨の方は、そちらの窓口に渡していただいて・・・
ロッテ、こちらを頼むわね」
「はい、承知しました」
アレクシアさんが登録窓口の係の女性にお金だけを渡して、俺たちの書類を確認する。
「シノブさんに、ミルキィさんに、エレノアさんですね?」
「はい、そうです」
「はい、それでレベルは・・・は?・・・」
あ、やはりそこで固まったか・・・
メディシナーで魔法治療士登録する時もそうだったけど、今度はもっと極端だからなあ・・・
「レ・レベル、280に124に・・・ろ、687?」
愕然として用紙と俺たちを何回も見比べる。
そして書類に書いてあった事が信じられなかったのか、口頭で俺たちに質問をする。
「あの・・・失礼ですが、皆様のお年は?」
その質問に俺たちが書類に書いたとおりに答える。
「15歳です」
「17歳です」
「560歳でございます」
「それでレベルは?」
「280です」
「124です」
「687でございます」
イカン!
どうもエレノアが最後に発言すると、三段落ちのギャグに聞こえてしまう。
それを聞いたアレクシアさんは驚いて俺たちに質問する。
「あの・・・皆さん、初心者なんですよね?」
「はい、私と、このミルキィは全くの初心者です。
十級から登録すれば良いですか?」
「は、十級?
しょ、少々お待ちください」
アレクシアさんが一旦どこかの部屋へ引っ込むと、しばらくして別の人が出てくる。
中々堂々とした壮年の男性で、いかにも歴戦の勇者という風格だ。
その人物が出てくると、周囲が突然ざわつく。
「おい、グレゴールさんだぞ!」
「あの人自らが出てくるなんてどういう事だ?」
「一体、何があったんだ?」
どうやらこの人は組合のお偉いさんらしい。
周囲がざわつく中、今度はその人が俺たちに近づき話しかけてくる。
「皆さん、こちらへどうぞ」
案内するその人を見ると、首からは黄色に光り輝く板を下げている。
これはゴルドハルコンだ!
俺は自分が持っている物以外で、ゴルドハルコンを初めて見た。
ゴルドハルコンはオリハルコンの上級金属で、魔法力を持っている物が身に着けていると、黄色に光り輝く。
俺は思わずこの人物を鑑定してみた。
何とレベルは587だ!
俺はエレノア以外にこんな高いレベルの人を初めて見た。
レベルと言い、周囲のざわつき方からしても、この人物はよほどの大物に違いない!
その人物が俺たちに話しかけて来たので、周囲は一層ざわつく。
「あいつら一体何者なんだ?」
「あの人がわざわざ声をかけて案内していたぞ?」
「しかし、三人とも登録証をつけていなかったよな?」
「ああ、あいつら、ついさっきまで新規登録窓口にいたんだからな」
「一体どういう事だ?」
「わからん・・・」
俺たちはそう言ったざわつきの中、その人についていった。
応接室のような場所へ連れて行かれると、挨拶をされる。
「初めまして、私はこちらで組合長をしているグレゴールと申します」
この人はここの組合長さんだったのか!
道理でレベルが高い訳だ!
「初めまして、シノブ・ホウジョウと言います」
「まずは3人ともお座りください」
「はい」
俺たちがソファに座ると、グレゴールさんはエレノアの胸に留めてある魔法学士章を、チラリと見てから話し始める。
「それで?皆さんは当組合の組合員として登録したいと?」
「はい、何か問題が?」
俺がそう質問すると、グレゴールさんは苦笑いしながら答える。
「そうですな、あなた方が、少々、いや大幅にレベルが高すぎるのでしてね。
それが問題といえば問題です」
「レベルが高いと、何かまずいんですか?」
「いえいえ、そのような事はないのですが、少々問題がありましてね」
「?」
「うちは当然初心者には十級から登録していただくのですが、レベルが高い方の場合は、初めての登録でも、それ相応の等級で登録をしていただいております。
それでも上限が四級なのですよ。
しかしそれでも皆様のレベルが高すぎましてね」
「別に本当に初心者なので、十級でも四級でも構わないんですが?」
俺が素直に本心でそう言うと、グレゴールさんは頭を横に振って答える。
「そういう訳にも参りません。
これほどのレベルの方々を十級などに登録をしたら混乱が起きます」
「はあ・・・」
俺の曖昧な返事にエレノアが説明をする。
「申し訳ございません。
私が少々この御二人を鍛えてから登録をしたいと考えていたものですから」
そういや、ここに来る時、そんなような事を言ってたっけ?
エレノアが謝ると、グレゴールさんが慌てて説明をする。
「あ、いえいえ、そういったそちらの事情もございましょうから、その辺は一向に構わないのです。
確かにそうして秘蔵のお弟子さんを、いきなり高レベルで登録しようとする方も、たまにいらっしゃいますのでね。
こちらとしても高いレベルの組合員が増えるのは喜ばしい事なので、むしろそういった事は大歓迎なのです。
ただ、高いレベルと言っても、せいぜい70か、80ほどのレベルが限界で、あなた方のようなレベルで登録に来た方々は初めてです。
何しろアレクシアから新規登録で全員レベルが100を超えていると聞いて驚きましてな。
ましてやその中の一人が組合長である私よりレベルが高いと聞いて、正直まさかと思いましてね。
それで私自らが確認のためにもこうして出てきた訳です。
そして私も今あなた方を鑑定させていただいて驚きました。
あなた方のようにレベルの高い方々が登録していただけるのは、非常にありがたいのですが、あまりにも高すぎるので、うちとしては嬉しい悲鳴という所です・・・
ところでエレノアさんでしたかな?
あなたは魔法学士のようですが、一応、魔法学士番号をお聞きしてもよろしいですか?」
「はい、私の番号はMGA00の17です。
ですが、出来れば、これは内密にしていただきたいのです」
エレノアの説明に、グレゴールさんが驚きながらもうなずく。
「何と!ゼロゼロナンバーの17番ですか?
では、やはりあなたが「あの」エレノア・グリーンリーフさんでしたか!
アレクシアから御名前を聞いて、もしやと思っていたのですが・・・
いや、御高名はかねてより伺っております。
御会いできて光栄です。
確かにそれは周囲には知られない方がよろしいですね?
承知いたしました。
それは私の胸のうちだけに収めておきましょう」
「御配慮ありがとうございます」
俺は今の会話の意味がわからなかったので、エレノアに聞いてみた。
「え?どういう事?
エレノアの魔法学士番号って、あまり知られてはいけない物なの?
そう言えばメディシナーでも、レオニーさんたちに最初は隠していたみたいだけど?」
「いえ、そういう訳ではないのですが・・・」
「私が御説明をいたしましょうか?」
「あ、いえ、御二人には私が説明させていただきます。
少々お時間をいただいて構いませんか?」
「ええ、どうぞ」
グレゴールさんの許可を取ると、エレノアが俺たちに説明を始める。
「御主人様、ミルキィ、魔法学士番号と言うのは、本来は高等魔法学校を卒業しなければ、もらえない物なのです」
「うん、エレノアは以前、そう言っていたよね?」
「ええ、私もそういう話は聞いた事があります」
「しかし、一つだけ例外があるのです。
まず、高等魔法学校というのは、今から約300年ほど前に出来たのです。
それ以前には魔道士という称号はありましたが、まだ魔法学士と言う称号はなかったのです。
高等魔法学校が創設された時点で、初めて「魔法学士」という称号が作られました。
そして魔法学士の番号というのは、出身校と卒業期、卒業時の成績順の3つで番号を割り振る事となったのです。
例えばマジェストンの高等魔法学校を第一期に成績一番で卒業した場合は、MA001の1です。
帝都アムダールで120期の卒業で、成績が15番の場合は、AM120の15のように番号をつけられます。
ですが、高等魔法学校が創設以前に、協会員の中で、すでに魔法学士の条件を満たしていた者には、マギア00、すなわち「MGA00」と言われる符号が付与されたのです。
そして、最初の出身校の部分と卒業期の番号の代わりに、魔法協会0期卒業という意味で「MGA00」と言う記号で表記される事となりました。
さらに成績順の代わりに、その時点での魔法協会に登録されていたレベルが高い順に、1から番号を割り振られました。
私はその一人に入るので、魔法学士としての番号は、MGA00の17と言う事なのです」
「え?じゃあ、その時点でエレノアは魔法協会で17番目にレベルが高かったの?」
「はい、そうです。
ですからこの番号は珍しいので、あの時、メディシナーの第三無料診療所の面接で私の番号を言った場合、私の正体がすぐにレオニーたちにわかってしまうので、番号を言えなかったのです」
「そういう事だったのか・・・」
俺はエレノアがメディシナーで、面接の時に魔法学士の番号を言わなかった理由がやっとわかった。
さらにグレゴールさんが、説明をする。
「ええ、そして、当然の事ながらMGA00の人は非常に珍しいので、知られると、色々と厄介な事に巻き込まれる事が多いのですよ。
そういった人たちの権威や名声を利用しようとする輩が、どこにでもいますからな。
ちなみにMGA00の人を別の呼び方で、ゼロゼロナンバー、ゼロナンバーとも言います。
この世界では魔法学士のゼロゼロナンバーと言えば、珍しい物の代名詞のように言われるほどです。
ましてやゼロゼロナンバーで、番号が二桁の人など、滅多にいるものではありません。
おそらく現在では20人も残っていないでしょう。
ですから周囲にはこの事は内密にしておいた方がよろしいでしょうね」
「恐れ入ります」
「なるほど」
「私もわかりました」
グレゴールさんの説明で、納得した俺とミルキィが答える。
メディシナーの事と言い、今回の事と言い、俺にはエレノアがなるべく正体を隠したがる理由がわかってきたような気がした。
きっと今までも俺の想像も付かない事に巻き込まれた事もあったんだろうな。
「ところでそちらのケット・シーは?」
グレゴールさんが俺たちについてきたペロンの事を尋ねる。
「あ、このケット・シーはペロンと言って、うちの同居者なんです。
今回は別に登録する訳でなく、本人が見学したいと言うので連れて来たのです」
「なるほど、そういう事ですか」
グレゴールさんがペロンを見て感心したようにうなずく。
「さて、ところで皆さん、今日お時間はございますかな?」
「はい、今日はこちらで手続きや色々な事をする予定でしたから、一日空けてあります」
俺の返事にグレゴールさんも一安心したように答える。
「それを聞いて安心しました。
それではまずは登録を四級でしていただきましょう。
その後に昇級試験を3回受けていただいて、今日中に最低でも一級になっていただきましょう。
それならば上級者扱いですから、皆さんが登録するのに相応しい等級でしょう」
いきなり上級者扱いというのも驚きだが、今日一日でそんなに昇級試験も行うのか?
「3回ですか?」
「ええ、四級も含めて四回です。
申し訳ございませんが、うちの組合では最初の登録以外には、級を飛ばすという事は、やっていないので、昇級の度に試験を受けていただく事になっています。
ですから四級で登録をして、その後各自試験を3回受けていただければ、今日中に一級になれるので、とりあえずはそれで宜しいかと」
「はい、こちらはそれで一向にかまいません」
「では、まず四級の等級試験からお願いします。
試験官は私が務めさせていただきます。
あなた方にはこの後、3回試験を受けていただくので、最初から私がついておきます。
また通常ですと、四級はまず迷宮に行って、所定の魔物を倒していただくのですが、今回は時間節約のために、それは飛ばして、うちの闘技場で等級試験を受けていただきます。
その辺は私の権限で許可するので大丈夫です。
それと通常でしたら昇級試験には受験料金がかかるのですが、皆さんの場合はこちらの都合で受けていただくという事で、今日受ける試験は全て無料という事にさせていただきます。
それで構いませんね?」
なんだかよくわからないが、本来有料の受験が無料というのであれば、ありがたい事だ。
俺はもちろんそれで構わない。
「はい、別に問題はないです。
試験の時の武器や防具は、どうすれば良いのですか?」
「装備に関しては、特殊効果のある武器防具以外ならば、特に制限はないので、何でも構いません。
但し、魔法結晶による魔法や、マギアグラーノによるタロスや、ジャベックの攻撃は禁止となっております」
「なるほど、自分の魔法でタロスを呼び出すのも禁止ですか?」
「いいえ、それは大丈夫です。
それは受験者自身の能力ですから問題はありません。
要は受験者の能力以外の魔法や特殊効果などを禁止しているのです。
そのような事を許せば、大金を積み、高位魔法結晶やレベルの高い戦闘タロスを買ってきて、相手を倒す事も可能になってしまいますからね。
それでは本人の実力がわかりません。
その理由から、特殊効果のある武器防具の類も禁止させていただいております。
実は以前はそれに関しては許可していたのですがね。
元々その件に関しては賛否両論だったのですが、最近ある理由により、完全に禁止となりました。
その結果、各昇級試験が少々難しくなってしまいましたがね。
また、もう一つそれに関連して、これも最近出来た項目なのですが、15分以内に相手を倒せなければ、試験は無効となります」
分かり易く言えば、特殊効果のある武器や防具に頼らず、自分の力だけで、15分以内に相手を倒せと言う事か?
「わかりました」
「では別棟にある闘技場へ向かいましょう。
そこで試験を行います」
「はい」
俺たちはそのままグレゴールさんと一緒に、試験が行われる闘技場とやらに向かった。
昇級試験というのは、どうやら魔物と戦わされるらしいが、一体どんな魔物と戦わされるのだろうか?
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