0118 登録をしよう!
エレノアに案内されて、俺たちはアースフィア広域総合組合に到着する。
それは魔法協会のロナバール支部にも劣らないくらい大きな建物だ。
いや、それ以上の大きさだ。
驚いた俺がエレノアに尋ねる。
「凄く大きな建物だね?」
「ええ、ここはアースフィア広域総合組合の総本部でもありますからね」
「え?ここが総本部なんだ?」
これが総本部とは・・・道理で大きな訳だ。
「はい、そうです。
ロナバールは大都市で、迷宮が二つもあるので、昔から迷宮探索者や魔物狩人が多かったのです。
もっとも正確には逆で、ここには二つも迷宮があるので、都市が作られたのです。
そこで組合総本部、当時は迷宮探索者組合でしたが、ここに本部を設置したのです。
首都が今の帝都に遷都した時に、総本部の移動も考えられたのですが、結局はこの場所のままとなって現在に至ります」
「そうなんだ?」
「ええ、やはりこの組合の一番の主目的は、迷宮探索と魔物退治ですから、総本部がここにあった方が都合が良いと判断したのです。
現在の帝都の近くにはこれといった迷宮はありませんからね」
「なるほど」
入口の外には屈強そうな衛兵のような人たちがいた。
俺たちは入口の戸を開けて、受付に向かう。
大きな扉が透明なので、ガラス戸かと思いきや、何とアレナック製だ!
扉にずいぶんと、お金かけているなあ・・・
俺たちはその扉を開いて中に入る。
広い!
建物が大きいのだから広いのは当然かもしれないが、中に入ると、3階層くらいは吹き抜けの広いホール状の場所になっている。
周囲を見ると、男女問わずに中々屈強そうな連中や、魔道士の格好をした連中がたくさんいる。
この場所は休憩所と待合所、食堂のような場所を全て兼ねている様子で、思い思いにテーブルについて飲み食いをしたり、話をしている。
壁にはたくさん張り紙がしてあって、それを真剣に眺めている人々もたくさんいる。
全体的には役所の窓口と、フードコートを混ぜたような感じだ。
そしてそこにいるほぼ全員が、首から紐や鎖で、何か板のような物をぶらさげている。
そのほとんどは、名刺より少々小さい大きさの木の板や、さらに小さい白い陶器のような板で、その2種類をぶらさげている者が一番多い。
俺はその両方とも見た記憶があった。
その二つは別物だと思っていたのだが、どうやら同じような物を示す物の様だ。
しかし、中には銅の板のような物を下げている者たちもそこそこいるし、ごく少数だが、銀色の板を下げている者たちもいるようだ。
おや?一人金色もいるな?
しかもよく見ると、それぞれの板に様々な色の横線が入っていたり、赤や緑や青の宝石のような物がついていたりして、さらに細かく種類が分かれているようだ。
それは今まで街中でもチラホラ見かけた事があったが、ここでは全員がそれを下げている所を見ると、おそらく組合員の証明証か、何かなのであろう。
そういえばバロンも銀色のを下げていたな。
あれもコレの一種だったのか?
その組合員、いわゆる冒険者たちが、歩いている俺たちの姿を見ると、少々場の雰囲気が変わり、周囲がざわつく。
エレノアが絶世の美形エルフなので、街でもよく注目はされるが、微妙にそれとは違う視線の気がする。
「何かいつもと違う視線を浴びている気がするんだけど、気のせいかな?」
「いいえ、気のせいではありません。
おそらくここに来る迷宮探索者で、我々のような組み合わせが珍しいので、興味を持たれているのでしょう」
「なるほど」
確かに女エルフ、獣人の少女、平人の少年、ケット・シーと言うその組み合わせは珍しい。
そもそも迷宮どころか、街中でも珍しい・・・と言うか、おそらく広いロナバールでも、その組み合わせは俺たち以外にいないに違いない。
ならば視線が集中するのは当然か?
俺は入口から入ったすぐの場所にあった、総合受付につくと、3人いる受付嬢の一人に尋ねる。
受付のお姉さんたちも、三人とも小さな銅の板を首から下げている。
特に俺が尋ねたお姉さんは、青・緑・赤と3つの綺麗な石が、銅の板に埋め込まれている。
「あの~登録をしたいんですけど?」
「はい、どうぞ、初めての方ですね?」
「はい、そうなんですけど、どうしたら良いか全然わからなくて・・・」
「皆さん、初めてですか?」
受付嬢の質問にエレノアが答える。
「私は以前登録した事はありますが、すでに十五年以上経っているので、記録は抹消されていると思います。
それとこちらのケット・シーは単なる見学者で登録はしません」
「なるほど、登録には各自読み書きが出来て、御一人様につき、大銀貨1枚が必要ですが、大丈夫ですか?」
「はい、大丈夫です」
「基本的に最初の登録は仮登録で十級から始めますが、レベルが高い人は、場合によってはもっと上の等級から本登録できる場合もあります。
また、当組合で運営している訓練所に入って、無事卒業出来れば、七級や五級から登録する事も可能です」
その受付嬢の説明にエレノアが軽く驚いて質問する。
「あら、そのような物が出来たのですか?」
「はい、ここ数十年は比較的大きな戦争もなく、平和も続き、初心者の登録が急増したのですが、逆に平和だったせいか、あまりにも無鉄砲な人たちが多いために、十年前に実践的な迷宮探索を教えるために創設されました。
初等訓練所を卒業すれば、レベル30は保証されて七級から、中級訓練所を卒業できれば、レベル50は保証されて、五級から登録する事ができます。
また、場合によっては、初等訓練所卒業が必須な場合もありえます。
期間と費用は、初等訓練所が1ヶ月で大銀貨5枚、中級訓練所が3ヶ月で金貨3枚となっております。
他の町からいらした希望者には、格安の寮も用意してございます。
訓練所や寮を希望の場合は、用紙にその旨を記入してください」
話を聞いた限りでは、どうやら初心者がいきなり魔物に挑んであっさりやられたりしないように、色々と教えてくれる場所のようだ。
まあ、確かに地球のRPGゲームでも、世間で流行っているからと何も考えずに始めて、何も人の話を聞かず、装備もせずに城の外に飛び出して、最弱モンスターにやられたりする、何も考えていないプレイヤーとかも結構いるからなあ・・・
ゲームなら良いけど、この世界ではそれは死を意味する。
そういう初心者が下手に死んだりしないように色々と教えてくれるんだろう。
良い事だと俺は思った。
「なるほど、わかりました」
「では皆さんそれぞれ、こちらの登録用紙に記入して、書き終わりましたら、大銀貨と一緒に、あちらの新規登録窓口に提出してください」
「はい」
俺たちは登録用紙をもらって、受付のそばにあったテーブルに行くと、それぞれ登録用紙に記入をした。
記入する事は名前、年齢、レベル、連絡先、登録職種、特技、訓練所希望の有無だ。
他の物はわかるが、登録職種という物がよくわからない。
項目には「
俺はエレノアに聞いてみた。
「この登録職種というのは、どう書けばよいの?」
「それはミッションをする場合に目安になるもので、それぞれの得意項目のようなものです。
戦士というのは魔法が全く使えないか、使えてもごくわずかな程度で、基本は肉体勝負な人たちです。
武器を使わない場合は格闘士とも言います。
戦魔士は剣や格闘技もある程度可能な魔法使いで、私や御主人様はこれに当たります。
魔戦士というのは、その逆で、どちらかといえば魔法も使える戦士といった感じで、ミルキィが相当します。
しかし、この二つには明確な境がないので、基本的にはその人の好みですね。
魔戦士や戦魔士もそうですが、双闘士と言うのは戦士としても相当レベルが高く、魔法も最低でも魔道士程度には使えないと世間に対して恥ずかしいので、最低でも中級程度の実力がないと恥ずかしい職種ですね。
ですから普通はあまり見かけません。
実際に双闘士で登録しているのはよほどの実力者か、自信過剰な者でしょう。
魔法使いは魔法以外では、ほぼ戦闘が不可能な者で、魔士や魔法士、魔道士などの場合が多いですね。
魔法治療士は治療魔法と回復魔法を主とする魔法を使う者です。
ただし、全て自己申告制なので、実際には非常に魔法を使える戦士や、格闘が出来る魔法使いなどもいたりはします。
我々は素直に、戦魔士と魔戦士にしておきましょう」
「うん、わかったよ」
「はい」
俺とミルキィはエレノアの助言に従って書類を記入する。
特技はずいぶんと細かく分かれている。
魔法は特に細かく分かれていて、魔法だけでも、火炎、凍結、電撃、治療、解毒、石化解除、航空魔法、戦闘ゴーレム等々20近くにも分かれている。
まあ、当然か?
他にも魔法以外の項目として、料理、外交交渉、相場鑑定、罠師(解除含む)、釣り、医療(魔法治療以外)、薬師、建築、鍛冶、裁縫、事務(四則演算含む)、高等演算、教育各種など、こちらも結構細かく分かれている。
これから見ても、相当登録者の仕事の幅は広いようだ。
俺はいくつかの項目に丸をつけていった。
すると結構な項目が丸で埋まった。
うん、こうしてみると、俺って意外と使い手があるな?
まあ、昔から器用貧乏の典型とは言われていたが・・・
もっともチラッとエレノアの申込用紙を見てみると、ほとんどの項目が丸で埋まっていた。
やっぱりエレノアすげぇ~!
そして最後の項目で困った俺は、ふとエレノアに聞いてみた。
「この訓練所と言うのはどうする?」
「御主人様とミルキィは私が迷宮探索の基本はしっかりと教えております。
この訓練所と言う物が、どういった事を教えるのかはわかりませんが、おそらく私がお教えした事と大差はないと思いますので、そこは希望無しで良いかと存じます」
「わかった」
もちろん俺たちにはロナバールに家があるので、寮も宿舎も必要はない。
俺たちは書類を作成すると、受付で言われた通りに、新規登録窓口へと行く。
そこにはすでに三人の人間が並んでおり、俺たちはその後へ並んだ。
これで登録すれば、組合員になって、俺も正規の迷宮探索者という事か?
ちゃんと登録できるのか、ちょっと不安になるが、ドキドキしながら順番を待った。
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