0109 2番目の奴隷

「え?」


まだ寝ぼけていた俺に、エレノアがもう一度同じ事を言ってくる。


「以前にもお話しましたが、そろそろ、奴隷を増やした方が良いかと思います。

たまには奴隷商館を訪ねてはいかがですか?」

「え?僕は別にエレノアがいれば、それでいいんだけど?」

「いいえ、確かに我々2人のレベルは高いですが、場合によっては我々二人で対処出来ない場合もあります。

奴隷はまだ数人いた方がよろしいですし、御主人様の場合は購入費用にも困ってない訳ですから、そのために良い奴隷を手に入れるために、最低でも月に一度は尋ねた方がよろしいですよ」

「まあ、エレノアがそういうのであれば」

「ええ、もちろんある程度の水準は欲しいですが、もう少し仲間がいた方が良いですからね」


エレノアが言うのであれば、間違いないであろう。

それに確かにまだ数人は仲間を欲しい所だ。

慌てる必要はないが、奴隷商館をたまには覗いた方が良いのは賛成だ。

俺は起きて昼食を食べると、ペロンを誘ってみた。


「ペロン、これからエレノアと一緒に奴隷商館に行くんだけど、一緒に行ってみるかい?」

「はい、そうしますニャ」

「そうか、では一緒に行くか」


俺たちが外に出て行くのを察したのか、その辺にいたハムハムも、俺の体を駆け上がり、肩に座る。


「おっ?ハムハムも一緒に行くか?」

「ウキュ」


俺の言葉にハムハムはうなずくと、俺の左胸のポケットにスポッと入る。

こうして俺達は久しぶりにバーゼル奴隷商館を訪ねる事となった。



「これはシノブ様」


俺とエレノアを見ると、奴隷商人のアルヌさんはすぐさまに近寄ってきた。


「今日はいかがされました?」

「いや、新しい良い奴隷がいれば、買おうとエレノアに薦められましてね」

「それはそれは・・・では早速ご覧になりますか?」

「うん」

「種別は?」

「まあ、以前と同じで一般の中と上かな?」

「では一般の女性の方で?」

「そうですね・・・それで良いです」


一瞬、男の方も見てみようかな?と考えたが、どちらにしてもまずは女の方を見てみようと思った俺は、素直にうなずいた。


「かしこまりました。

・・・ところでこちらの方は?」


二足歩行をするペロンを見て、アルヌさんが質問をする。


「ああ、これは最近うちの同居人になったケット・シーのペロンです」

「ペロンですニャ」

「なるほど、ケット・シーと同居とは・・・さすがはシノブ様でございますね?

ペロンさん、私は当奴隷商館の主人で、アルヌ・バーゼルと申します。

以後、お見知りおきを」

「こちらこそ、よろしくお願いしますニャ」

「はい、ではどうぞこちらへ」


そう言いながらアルヌさんは俺たちを案内する。


一般の中の部屋で、何人かいた奴隷のうち、早速一人の少女が俺の目を引いた。

それは可愛い顔の上に、これまた可愛い犬耳をピョコンとつけた、年齢が17・8歳の少女だった。

しかも可愛いだけでなく、スタイルもよく、胸も大きい!

気になった俺が質問をする。


「彼女は?」

「これはさすがにお目が高い。

これは獣人じゅうじんの狼族の少女で、一般用の中ですが、実際にはそれこそ特上にしても良いくらいです」


ほう?中の部屋にいるのに、特上にしても良い位とは?


「何が出きるのかな?」

「一般用ですから家事は当然として、獣人なので、戦闘に向いているのです。

肉体的な戦闘に関しては、もちろん我ら平人へいじんの及ぶ所ではございません。

しかも性格は従順にして温和、頭も良い事は保証いたします」


平人へいじんと言うのは、我々いわゆる普通の人間の事だ。

獣人じゅうじん魔人まじん、エルフ等と比較してこれと言った特徴がなく、もっとも数が多いのでこう呼ばれている。

さらにアルヌさんの説明が続く。


「伸び代が非常に高く、シノブ様やエレノアさんでしたら、魔法などを覚えさせる事も可能かと存じます。

現在は一般の中の部屋にはおりますが、それはまだこれと言った技能がないためで、才能的には間違いなく特上です。

これから色々と鍛えれば、間違いなく伸びるでしょう。

ですから、出来れば単なる奴隷ではなく、この娘の才能を開花させて上げられる方に購入していただきたいのです。

その点ではシノブ様はエレノアさんも御一緒なので、この娘の主人には、まさにふさわしいと存じます」


これはまた驚くほどの熱心な売り込みっぷりだ。

俺はエレノア以外の奴隷は、まだ購入した事がないので、よくわからないが、この人はいつもこんな感じの売り込み方なんだろうか?

・・・いや、サーマルさんの時はこれほどではなかったはずだ。

するとやはりこの犬耳少女は、かなりのお買い得品なのだろうか?


「では値段も結構するね?」

「はい、金額は本来でしたら金貨280枚と少々お高めですが、シノブ様でしたら今回に限り、特別に無料と言う事にさせていただいてもよろしいです」


確かに金貨6万枚以上に比べれば、家屋敷の他に、金貨280枚分の奴隷など一人くらいはオマケにつけても良い位だろう。

しかし俺は断った。


「いや、それは御容赦願いたい。

エレノアはエレノア、今回は今回として、きっちり金額は払いたい。

それに口はぼったいが、それはエレノアと、そこの彼女の双方の価値を貶める事になると思う」


俺は本気でそう思っていた。

エレノアを購入する時も、そのつもりで本当の自分の全財産額を言ったのだ。

それがこの娘をオマケに付けてもらうような事になっては、エレノア自体の価値も下げるような気がするし、何より、この娘に自分はオマケで購入されたのだと思われるのは嫌だった。

そもそも偽善者と言われても仕方がないが、人を金で買う事に、まだ抵抗があるのだ。


「これは申し訳ございません。

つまらない事を申しました。お忘れください」

「いえ、気を使っていただいた事は感謝します」

「はい、それでいかがいたしましょう?」

「う~ん、そうだな、名前は?」

「はい、ミルキィと申します。

年は17歳で、獣人の狼人種です」


俺より2歳年上か、もっとも実際の俺は40歳以上で、連れのエルフは560歳だ。

17歳では年下の感覚だ。

俺は本人に直接尋ねてみた。


「どういった事ができるのかな?」

「はい、炊事洗濯と言った家事全般はできますし、料理もある程度できます。

御主人様のお好みを教えていただければ、その通りに作る事もできると思います。

それと戦闘もそこそこできるので、迷宮や魔物地帯ではお役に立てると思います」


中々ハキハキと答えて、返事も好感が持てる返事だ。

声も見た目どおりな感じで、かわいらしい声だ。

俺は鑑定をしてみる。


獣人 女 レベル18 年齢17


才能

知力45、魔力量35、魔法感覚38、体力67、力63、敏捷性91、格闘感覚86


何っ?!

これは凄い!

他の数値も中々凄いが、敏捷性は俺やエレノアよりはるかに上だ。

格闘感覚も86なら俺やエレノアよりも上だ。

これなら確かに鍛えれば、迷宮で魔物相手に大活躍するだろう。

これほどの才能の持ち主は滅多にいないだろう。

確かに才能は特上だとアルヌさんが言うのももっともだ。


「なるほどね、他には何かできる事はあるのかな?」

「後はこれと言ってありませんが、もし教えていただければ、色々と覚えてお役に立ちたいと思います。

それと・・・」

「それと?」

「あの・・・その・・・もちろん、夜のお相手もさせていただきますが・・・その・・私はまだ経験がないもので、そちらが下手なのは御容赦いただければと・・」


うほっ!つまり処女のケモノ娘、しかも巨乳美少女ですか?

表情に出てしまったのだろう。

横でエレノアがクスッと笑った。

むむむ・・・見透かしたような表情でこっちを見ているな。

エレノア先生、あなたの予想は多分当たっています。


「では、次は一般の上の部屋を御覧になりますか?」

「そうですね」


以前のように案内されて、一般の上の部屋も見たが、全員確かに何がしかの才能と技術を持っているようだったが、これと言って決め手になるような技術を持っている者はいなかった。

ちなみにエレノアがいた部屋は、現在は奴隷たちの衣装部屋になっているようだ。

一通り見た俺たちを、アルヌさんが応接室に案内する。


「ではこちらの部屋で御飲物をだしますので、しばらく検討してみてください」

「わかった」


応接室でレモネードを出されて、奴隷商人がいなくなった所で、俺はエレノアと話す。


「あの犬・・・いや狼か?あの狼娘はどうだろうか?」


俺としては、気になった候補の一人として言った程度だったが、エレノアはすぐさま反応する。


「御主人様、あの娘は買いです」

「え?そうなの?」


エレノアの意外な言葉に俺も少々驚く。


「はい、先ほどの少々の会話でも律儀で誠意に溢れるのはわかりました。

それに御主人様も鑑定したと思いますが、彼女は現在の能力こそ大した事はありませんが、我々が指導すれば、この先は非常に伸びるでしょう。

あれほどの才能の持ち主は滅多にいるものではありません。

奴隷商館に来て、いきなりあれほどの人材に出会えるとは、我々は運が良いです。

おそらく魔法も多少覚えられるでしょうし、金貨280枚なら安いくらいです。

例え金貨500枚でも買いですね」


あの狼少女に対するエレノアの評価はとても高いようだ。


「確かにねぇ・・・

ところで金貨280枚と言うのは、奴隷の相場としてはどうなの?

僕はそういうのがまだ全然わからないんだけど、高いのかな?安いのかな?」


当然の事ながら、俺が買った唯一の奴隷であるエレノアの値段は、無茶苦茶で全く参考にはならない。

そういう意味では、これが俺の初めての奴隷購入なので、エレノアに相場を聞いてみた。


「相場で言うならば、このバーゼル奴隷商館の一般の中であれば、大体金貨50枚から100枚程度までが相場で、280枚は一般の上の相場です。

それも相当な高値です。

そういう観点ならば、あの娘の相場は非常識なほど、高いでしょう。

確かにあの娘は器量も良い方ですが、それだけの理由で性奴隷として買うならば、同じ程度の奴隷が、金貨70枚前後で買えるはずです。

ですからあの娘の価値は、それ以外の部分です。

それがわからない人間には、あの娘は非常に高く感じるでしょう。

しかし相場としては非常に高いですが、あの娘の才能を見れば、それもうなずけます。

決して金貨280枚は高くはなく、むしろ安い位でしょう」


エレノアはあの娘をベタ褒めだ。

確かに敏捷性が90を超えているのは、今までにもお目にかかった事がない。

すばやさだけなら、俺やエレノアより上だ。

しかも格闘能力の才能も俺やエレノアよりも上なのだ。

他の数値も悪くはない。むしろ良い。

現在はもちろん大した事はないが、育てれば伸びるのは、まず間違いないだろう。

その点に関してもアルヌさんが保証していた。

俺がそう考えていると、ペロンも自分の意見を言う。


「あの人は良い人ですニャ。

とても良い匂いがしますニャ。

そばにいると心が安らぎますニャ」


良い匂いか・・・

どうやらペロンも賛成のようだ。

ひょっとしたら俺たちが、今日奴隷商館に来て、いきなりあの才能溢れる狼娘と会えたのは、ペロンの運のおかげなのかな?

確かに才能があるだけじゃなくて、性格も温和そうな上に、可愛いし、胸も大きいしね。

俺がそんな事を考えていると、まるでそれを見透かしているようにエレノアが話を続ける。


「それに御主人様は彼女の体自体にも興味をもたれた様子ですから」

「うっ・・・」

「別に私に気兼ねされなくてもよろしいのですよ?」


うう・・・ばれてーら。

まあいい、エレノアがそこまで言うなら遠慮する事はない、買いだ。


「では買おう」


俺はこの狼獣人の少女ミルキィを買う事にした。


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