整体師召喚!? 役立たずと追い出されたが手に職があったのでどうにかなった。
斜偲泳(ななしの えい)
第1話 10月5日編集
合法的に女体を揉みたい。
そんな不純な動機で整体師になったのがいけなかったのだろうか。
とある商店街で整体院を営む
なんでもこの国には、世界が危機に瀕した際に異世界から英雄を呼び出す勇者召喚の儀式というものが存在するらしい。
それで王様が、特に危機でもないのに自国の戦力を強化したくて儀式を行い、呼び出されたのがイチだという事だった。
最初こそ英雄扱いで厚遇を受けていたのだが、あれこれと検査をするうちに、イチが僅かばかりの魔法の才を持つだけの平凡な人族だとわかると状況が変わった。
話が違う、どういう事だこの役立たずが! と王様が騒ぎ出したのだ。
そんな事を言われても困る。
こっちだって来たくて来たわけではない。
呼び出したのはそっちの都合だろう。
反論しても埒が明かない。
儀式に関わった神官の話による、勇者召喚の儀式は中心となった術者の強い願いに応じた英雄が選ばれるという。
この場合は王様だ。
それでイチはもしやと思って聞いてみた。
王様が腰痛や肩凝りで悩んでいるから、整体師の自分が呼ばれたのではないのかと。
その時の反応を見るに図星のようだったが、王様は頑なに認めなかった。
勇者召喚の儀式は大量の魔石や高価な触媒が必要で大金がかかっているというから、その辺も理由だったのかもしれない。
王様は逆ギレを起こしてイチのせいにしようとした。
こやつは悪魔だ!
勇者召喚の儀式に乗じてこの世界に災いをもたらそうとする邪神の尖兵に違いない!
アホ臭い話だが、相手が国の最高権力者では笑い話にもならない。
危うく打ち首になりかけた所を家臣達に救われた。
どうやら勇者召喚の儀式はこの国で崇められている女神様の力によるものという事になっているらしい。
一応神聖な儀式なのだ。
それを危機でもないのに行使して、その上呼び出された勇者を処刑してはそれこそ女神の怒りを買って国に災いが降りかかりかねない。
家臣総出で擁護してくれたのだが、それでも王様の怒りは収まらず、ならば出て行け役立たず! と、先程城を追い出されたのだった。
「う~む、困った」
城下町をブラブラしながらぽつりと呟く。
召喚されてからの数日でこの世界や国の事はなんとなく教えてもらったのだが、ドタバタで追い出されたので完全に無一文である。
剣と魔法のファンタジーな異世界なので、通りには冒険者と思われる武装した人間、耳長エルフ、髭面ドワーフにチビの小人なんかが闊歩している。
こんな所で野宿をするのは不安である。
そうでなくても早急に金を稼いで飲み食いしなければ数日中に飢え死にする。
アニメや漫画なら取り合えず冒険者になって食つなぐ場面だろうが、それは無理だろう。
イチはなに一つ特別な力のない普通の日本人である。
大半の日本人がそうであるように、荒事とは無縁の人生を歩んできた。
勇者の資質を確かめる為に鎖でつないだゴブリンと戦わせられたが、ろくに反撃できず危うく死にかけた程である。
さて、どうやって金を稼ぐか。
必死に探せば皿洗いや荷物持ちの仕事くらいにはありつけるかもしれない。
だが、あんな王様がトップの国だ。最低賃金なんて言葉は存在しないだろう。
安い賃金で感謝もされずにこき使われるに決まっている。
自由と女体を愛するイチとしては憂鬱である。
まったくもって、「う~む、困った」な状況だった。
「あ~、腰がいてぇ」
そんな言葉に思わず振り返ると、冒険者らしい三人組が近くを歩いていた。
「格好つけて身の丈に合わない武器使ってるからだろ」
「うるせぇ。お前だって腰がいてぇとかボヤいてたじゃねぇか」
「お前と違って俺のは女遊びだ」
「はっ! ほざいてろ!」
「僕は頭が痛いですよ。怪我みたいに魔法で治せればいいんですがね」
そんな事を話しながら、三人組は冒険者の店へと入っていった。
「…………俺はバカか?」
イチは目が覚めた思いだった。
「異世界人だって肩こりや腰痛で苦しんでいる。なら、俺のような整体師が仕事に困るわけはない」
佐藤一は平凡な整体師である。
化け物を一刀両断するような天才的な剣の腕はないし、一撃で魔物を爆殺するような強力無比の魔法だって使えない。
あるのは人を健康にする為のちょっとした知識と長年培った整体術だけである。
たったそれだけ。
だが、この世界で生き抜く為には十分すぎる力だろう。
(むしろ、鍛え抜かれた女戦士やエルフの美女を揉めるチャンスかもしれないな)
光明を見出すと、イチは一団を追いかけて冒険者の店へと入っていった。
今ここに、整体師佐藤一の第二の人生が始まるのである。
―――――――――――
お試し版。反応次第です。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。