いっぱい嵌めて宝石を叩け!指輪魔術伝説 ~入門編~

SUMIYU

序章 声を奪われた魔術師

 あの日、俺たちは敗れた。冥王ダーク・ロードアンガリムの力はすさまじかった。俺たちは奮闘むなしく、完膚なきまでに叩きのめされたのだ。


 冥王のあやつる魔剣は突風となって襲いかかり、愛すべき仲間である剣士ガイオの剣と盾を、左右の腕ごと吹き飛ばした。


 破壊の隕石と化した冥王の戦棍メイスは、我らが勇者イチハルの聖なる鎧を砕き、彼の真なる武器である不屈の精神くじけぬこころをも打ち砕いた。


 冥王の苛烈な邪竜獄炎ドラゴン・ブレスは、気高き僧侶クロエの張った魔術防御壁シールドをことごとく打ち破り、彼女の両目を焼いた。


 そして暗黒束縛呪ダーク・レストレイントが冥王の手から放たれると、俺は声を失い、魔術師の力が一瞬にして無に帰した。


 勇者以下四人は絶望に言葉を失い─俺だけは物理的にも失っていたが─冷たい石の床に膝をついた。冥王の発散する恐るべき破壊力と衝撃波に宮殿のホールは震え、壁石の破片が剥がれ落ち、恐ろしい魔物を模した彫刻や柱がガラガラと崩れ落ちた。

 冥王アンガリムは底意地の悪い目で俺たちをかわるがわる眺め渡すと、満足そうにゆっくり手を叩いた。鍛えた鋼のような顔に凶暴な笑みが浮かぶ。


「私は…慈悲深い。」冥王は大げさに口角を上げた。「はるばるここまでやって来た勇者たちを殺しはせぬ。そんなむごいことが私にできるものか…。」

 冥王は芝居がかった調子で語りながら歩き回り、鋭い足音をホールに響かせた。そして振り返り、優しげな声で俺たちを指さした。

「さあ、長い余生を生きるがよい。貴様たちには、この私に挑んだ愚かさと浅はかさを死ぬまでじっくり悔いてもらうとしよう。」


 冥王がパチンと細長い指を鳴らすと、憔悴しきった勇者イチハルが不可解な閃光に包まれ、忽然と姿を消した。

 パチン。剣士ガイオが逃れようともがく・・・が、足掻き空しく彼も消える。

 パチン。僧侶クロエの悲鳴も中断された。彼女もいなくなった。


「貴様、まだ恐い顔をしているな。」冥王は俺を見て言った。「その立派な闘志は褒めてつかわそう。だがいくら私を睨んでも、もうできることは何も無いぞ、元・魔術師よ。貴様は二度と詠唱できぬ。貴様の祈りは二度と神々に届かぬ。冷たい牢獄で無念のうちに朽ち果てるがよい。さらばだ。」


 冥王の指が鳴ると同時に、俺は光に包まれ意識を失った。

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