AFTER WEEK DAY3-6 藍田

 デスクのノートパソコンの上には袋から抜き出された英字パッケージのビスケットが一袋とメモ書きが書かれた黄色いポストイットが置いてあった。


「鈴井です!明日の朝9時半に山野さんのお見舞いに行きまーす。行けるならこのメールアドレスに返信をお願いします。刑事の烏丸さんも参加するのでリンクスではなくこちらで連絡してください。お疲れ様です Clockismail202308@〇〇〇〇.com

      よろしく!」


 そういえば鈴井とはリンクスというSMSアプリで連絡先を交換していたのだった。夜勤になってからは誰かと連絡する機会がめっきり減ってしまった。スマホの画面を改めて見ると隅から隅のアプリに通知が溜まっていた。通勤時間が変わり新しい仕事を覚えているうちにスマホで繋がっている世界から置いてけぼりになった気分だ。そんなことは大した問題ではない、もう時期夜勤にも慣れる。


「はいはい、朝って面会できるのかな。ああそうか烏丸って人がいるからオッケーなんだ。ういーす」


 先ほど長野が語っていたリンクスの重役と思われる後藤という人間も身近な人間だったのかもしれない。友人の少ない藍田にとってはSMSとSNS、メールは連絡手段としては全て同じようなものとしか思えなかった。大学時代からオカルトに興味があったのだが、就職活動をする時期までに動画配信や創作などに携わるような現代的で充実した活動などはできずホラー小説や漫画、映画を読み漁っていただけで俺の青春は終わってしまった。  

 

 元々自分が何かを作る側になる夢は持っていなかったからクロックイズヘッドの入社試験も事務を志望して結果内定を得た。面接の際に部長の花田とオカルト話で盛り上がったことは今でも覚えている。


「まあさ、事務をやりながら、誰かの代打で記事書いちゃってみれば?オカルトの件は事故のほとぼりが冷めたらなんかやるかもしれないからさ」


 あの時花田は怪我や病気の同僚の代わりにという意味で代打という言葉を選んだのだろうけど神谷がAIに殺されるとは思いもしなかっただろうな。ウォッチングスパイダーの調査に参加していた俺はいつの間にか深夜のバッターボックスに立つことになってしまった。


 クロックイズヘッドのオカルト記事は廃止になってしまったが今はシーイングスケアリーの特集企画が考案されており第一弾として「@ユーハレイチャン@youwareichan」というブランチューバーのインタビューを皮切りにポータルサイトでオカルト系記事の連載が始まるらしい。昼間の勤務に早く戻ってオカルト取材に参加したいけど今は参加できない。新しいポストを得たとはいえ俺の人生はいつも創作や制作といったものに縁がない。


 夜勤の担当になってからはネットニュースや話題を集める仕事がメインになり。コピーライトが多いとはいえ作り手としてのキャリアが始まった気がしてここ数日は自分が成長した感覚が強かった。結局人に伝える物事は自分の才能よりも地道な努力の方がずっと役に立つのだ。文章を間違えたりテンポが悪いとをメールで指摘を受けることもあるがそれもいつもと違う仕事をしているという新鮮味に満ちていた。過去のクロへのニュース記事を見て勉強していくうちに死んだ神谷と城島、内村がどれほど素晴らしい仕事をしていたのかも理解できた。


 今日はユーハレイチャンの動画が更新されるからクロへのサイトで紹介する必要がある。これからはコラボ企画があるからこのタレントのニュースはメインの記事と言っても過言ではない。ユーハ(ワ)レイチャン、略してユレチャンの動画紹介のキャッチコピーを考えないとな。長野さんに校正してもらわないと。


 それと無動明神というブランチューバーの有名人の暴露動画の予告。海外のロックバンド「ERA Stone」が来日したことの紹介。そしてネットで噂されているシーイングスケアリーのツイットの中でも数字が伸びそうなコメントを探す作業。あとは先ほど長野が話していた「LINKS」の後藤とかいう男の記事を書くかもしれない。


 俺はリュックからアルミホイルに包まれたおにぎりを取り出して机の奥に置いた。自動販売機でスナック菓子を買って食べるのは好きなのだが、清涼飲料水があまり好きではないので麦茶の入った大きな水筒を持ってきている。それをデスクの隅に置いてからノートパソコンを開いた。


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