DAY1-3 花田

八月十七日 花田直哉


「花田チーフ、神谷くんの代理の派遣さん明日に来られるとのことです」


「ありがとう駒崎ちゃん、新人君に。ノートパソコン持ってきてもらっていいかなって。お願いしておいて」


「ああ先に言っておきましたよ。神谷くんのパソコンは遺族に引き渡すことになっています。何しろ北海道の人だから。大学は東京だったみたいだけど。葬式は代行でやるみたいですよ。私たちは行けないけど大学の友人が快く引き受けてくれました。野球マニアの有坂さんが連絡をとってくれたらしいです」


「それはひと段落ついたな。でも夜勤が一人いなくなると大変だな。深夜勢に野菜ジュースを箱で買っておいた。差し入れようかなと思ってささっきアリゾナで注文しておいたわ。明日届くと思う。あとは任せておいて警察の人の名刺もあるし大体のことは他所でやってくれるはずでしょ」


「お疲れ様です、アリゾナ繋がりというのもなんですけど今から予算一万円ファッション向上委員会企画の取材に行ってきます。すぐそこのアリゾナ支社で自社生産のベーシックアイテムのことを聞いてくるので。デスクを出ますね」


「うーっす。アリゾナ様様だよな。はっは」


駒崎は他とは違う清潔なデスクの足元からバッグを取り出す。リッチなそれでいて目立たないブランドロゴが敷かれている茶色いバッグは一線を画すクオリティに見える(おしゃれはわからないのだが)大体いつの時代のOLが着ているように思えるベージュのブラウスに白のスカート。ハイヒールを履いた姿で茶髪のポニーテールを右手で触った。そして颯爽とのデスクの間を通り過ぎていった。横目で見送った後城島に渡された神谷のパソコンのバックアップを引き出しにしまった。そして神谷の個人情報の記載がある書類に目を通しつつ桜庭とかいう刑事の変わった雰囲気が頭に残っていることを煩わしく感じていた。


「刑事ってエンタメには興味なさそうだよな。そういえば神谷が呪いの映像をみていたって話だったな。いや呪いの映像ってエンタメじゃないか。ははは。本当に公安とかがテロリストを追っかけているのかな。まあ歌舞伎町とか新宿は酷い有様だからな。馬鹿ばっかりだから世の中。幽霊くらいいるかも。うん」

今日はクロックイズヘッドを国営テレビが取材に来る予定がある。


「国営さんの取材ってお昼過ぎだよな。俺だけでいいのか。番組は「プロの真髄」…ではないか。ああ夕方の報道特集か。フン、いや俺は有名人じゃないからまだ先の話だな。プロになりたいな」


 スーツの上着とネクタイを整えながら窓の前に立つと救急車がサイレンを鳴らして近づいてきたことがわかった。


「おお、事故か駒崎大丈夫か。少し見にいくか」


 オフィス前の扉を開けて通路を通って自販機の前を通る。駒崎がエレベーターから走って出てきた。


「おお、駒崎。忘れ物?外で事故‥」


「外の事故、城島さんです」


「本当に厄介だな。また刑事が来るな。まさか死んでないよね」


「いや多分もう助からないかと」


 自販機に腕をついた俺は少し躊躇って握り拳で音を立てた。社員が二人いなくなるのは大損害だった。

 

 国営テレビの取材は予定通りこなすつもりではあるが。こういった不幸の連続に対応策があるとは思えない。鈴井が休憩所手前のトイレから出てきた。


「何かあったのですか花田さん」


 駒崎が説明をしようと前に出たようだったが割って入る。絶対にアレが原因だそうとしか思えない。喫煙所のメンツは出払っている。今手の空いている社員を使って霊能力者でも占い師でもなんでもよいからクロへに呼ぶしかない。その為にはこの一日の午前。神谷とも城島とも接点のあった鈴井と。そして城島の言っていた恐怖映像を処分したほうが良いのかも知れない。


「あのさ、さっき城島と話したけど神谷くんが間違ってはったリンク先映像って鈴井さんは見たのかな」


 鈴井は腕を組んで怪訝な表情をしている。結果映像をみても影響のない人間が目の前にいるわけだ。きっと偶然が重なっているだけだ。


「いや、半分以上は見ていないです。もしかして城島さん」


「落ち着け鈴井。事故にあったらしい。即死だった」


 取り乱しはしないが、中々に力のある映像であったことは間違いないようだ。鈴井はどうやらアレの力を体感しているようだ。


「まずいですね、午後の天気予報までに片付けないとなあ。神谷くんのパソコンを再起動するのは嫌ですね」


「ううん厄介なメンタルに来る映像であることに間違いはないし。なるべく触らずにすませてしまおう。今デスクにインターネットウイルスに詳しい奴がいないか聞いてみる。不幸の手紙でもなく映像をみるだけで意識していないストレスが呼び起こされるのかも知れない。世の中にだしてバズらせるようなものじゃない逆に処分するか世間に警告するところまである。さっさと処分しよう」


 駒崎が深呼吸している。先程の寝言だと思われた城島の叫びは別のものだったことを思い出してしまっているようだ。


「なんですか?その映像って。グロ映像とかってことですか。神谷くんもそれをみていたと。流行っているのではないですか。ほら噂話くらいどこかに転がっているはず」


「確かに」


 鈴井と花田は声を合わせた。


「まず調べよう。城島の件は。桜庭とかいう刑事がまた来るかもしれない。ひょっとすると刑事達の間ではマークしている問題かもしれないな。よし俺は取材を受けに行ってくる。駒崎も仕事に戻れ。藍田がいたな。あいつは今事務処理しているだろうから話をしてくる。ホラー映画の論文を書いたとか言っていた。何かしら詳しいだろ。鈴井。君は自分のデスクに戻らずにスマホで業務用ツイットは休まずにやってくれ。神谷の席には近づくなよ。城島の横にいる映画評論の内村にも話を聞くあいつの専門は映画配信ニュースだ」


 花田は少しイライラしているのか大股気味でデスクルームに戻っていった。

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