第20話 防衛省での陳謝と報告

 慶次と真一郎は、市ヶ谷にある防衛省を出て、近くのコーヒーショップに立ち寄った。真一郎は担当官に説明して喉がカラカラになっていた。


 緊張したせいもある。普段この建物を訪れるのは、説明や契約に関することが殆どだが、その日の防衛省はことさら大きく、別の建物のように見えた。店の中から見る道路から、ガラスごしに燦々さんさんとした太陽の光が差し込んでいる。


義父おとうさん。喉が渇きましたね。この喫茶店でコーヒーでも飲んでいきましょうか?」

「そうだな。わしも喉がカラカラだよ」


 慶次は運ばれてきたコーヒーにクリープと砂糖をたっぷりと入れて飲んだのだが不味まずい。いつも秘書の青木ひろみが入れてくれる特製のコーヒーとは全然味が違うのだ。あらためてひろみが入れてくれる味が恋しくなってきた。


(今日は疲れたから、帰ってからひろみでも抱いてみるか)

 真一郎は慶次がそんなことを考えているとは想像さえ出来なかった。二人はコーヒーを飲んでようやく落ち着いてきた。


「真一郎、やっと報告書を受け取ってもらったな」

「はい。ご迷惑をおかけいたしました」

「しかし、外部からの告発で不祥事を知るとは全く情けない」

「はい。全くそのことに気がつきませんでした。いつも外回りをしていましたから」

「しかし。その告白した者が誰だかまだ分からないようだな」

「はい」


「しかたがない。誰にせよ、言っていることは事実だし、いつかは分かってしまうことだ。それが早いか、遅いか、それだけのことだよ」


「はい。申し訳ありません」


「まあいい、しかし、もうお前もそろそろ営業活動よりも、もっとしっかりと社内を取りまとめることに専念することだな。こんなことが起きないように、もうお前も役員だし」


 元々経営者だった真一郎の実父は年齢的な所もあり、すでに引退して久しい。経営に口を出すこともなく、実質的には息子が事業部長になっていた。

 他の事業部も含めた総括経営者が浦島慶次なのだが、その慶次もその座を譲ろうとしている。その候補の一人が真一郎である。


「はい。義父さん。そのようにしていきます」

「そうだな」

 こんなこともあっても、やはり義理とは言いながら息子は可愛いものである。


「ところで、愛子とは、うまくいっているのかな?」

「はい。なんとか……」

 愛子とは慶次の娘で真一郎の嫁である。


 今回の件についても、妻がそれを話題にすることはなかったし、真一郎が自分から言うことも無かった。


「それならいいが、これからも仲良くやってくれ」

「はい」 もうその時には、二人は普通の親子の会話になっていた。



 慶次と真一郎が防衛省を出た頃、事務官の冴木淳三郎は彼等が提出した書類を前にして、別のことを考えていた。


 それは最近できた彼の若い恋人のことである。目を閉じると色々なことが頭に浮かんでくる。


 事務官の冴木は四年前に長年の念願である妻の希望で、マンションを購入した。

 事務官は防衛省職員として転勤がある。その転勤先は全国基準であり、また昇任を考えるなら異動は条件の一つになる。


 その時期は、およそ三年と言われており、自分にもそろそろその時期が来るかも知れず、やきもきしているところだった。





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