絶対負けないキズナマキナ! ─闇落ちなんかしない! 愛する人との絆は絶対壊されないんだから! とか言ってた少女達は男を絆の間に挟み込むことに─

福朗

序章。あるいは未来の彼女達の運命

 前書きと注意

 ランキングを見て触発され、俺だってこういうの書けるんだと、今年の二月ころに某所で投稿したものの、無茶苦茶怒られて停止してた作品になります。百合の間に挟まる男が許せない方は戻るをお願いします。住み分け大事。普段の私の作風と大分違うので、イメージを損なう可能性もありますのでご注意ください。最近やる気が戻って来てて、こちらでも投稿することにしました。



 この世界では古来よりあやかしと呼ばれる者達が存在していた。それは妖怪、悪魔などの魑魅魍魎で、人々を惑わし、害し、堕落させるモノ達だった。


 勿論人類も黙ってはいない。日夜妖達と戦いを繰り広げ、それを討滅する者は魔気を無くす異能者、通称、魔気無異、マキナイと呼ばれていた。


 そんなマキナイ達は、特別な絆を結んだ者同士が互いに力を交換して増幅できる、絆システムという力を使用できた。それは左手の薬指に嵌められた、専用の絆指輪を介して行われ、指輪の宝石の色はパートナー特有の色に光輝き、機械の力を手に入れることが出来る。


 そして機械の力を操るマキナイは、特別にキズナマキナと呼称されていた。


 ◆


 邪なる神を中心としたサバトは終わった。


 かつて煌めいていた8人の少女達は、闇に溺れベッドに倒れ伏している。


 善の力の象徴であった、左手の薬指に嵌めた指輪の宝石は、最愛の女性との絆の色を宿していたのに、今や全員の指輪がドス黒く染まっていた。


 その邪な者に身を捧げてしまった全ての少女達がマキナイであった。


 ◆


 例えば伊集桜。


 小柄な桜色の短い髪をした彼女は、誰とも距離が近く、明るい性格で、皆と笑顔で笑い合っていた。


『皆の思いが私を強くする!』


 それがかつての彼女だった。


 しかしいつからか、彼女が通う学園の男子生徒達は気が付き始めた。


『あれ? 桜、急にスカートが長くなった?』


『う、うん!』


 明るい性格通り、活発に動く桜は動きやすいからと、男子からの目も気にすることなく、短いスカートをはいていたのに、ある時から急に長いスカートを履き出したのだ。


『桜ちゃん、カラオケ行かね?』


『えーっと、ごめん!』


 例え男ばかりでも、カラオケやボーリングに誘えば参加した桜が、ある時から急に付き合いが悪くなった。


『皆の思いを込めて! ビッグパーンチ!』


 マキナと呼ばれる機械の力を使う彼女は、周りからの思いの強さによって巨大な機械の拳を召喚でき、それを妖に叩きつけていた。


 しかしそんな彼女の力は、邪な力で変質してしまった。


『男の人が私に向けてたのは思いじゃない! 肉の欲だったんだ!』


 真実を知った彼女は周りへの思いを捨て去った。


『あの人への私の想いが、私を強くする!』


 そして、その分け隔てなかった輝きを邪な者だけに向けた。


『これで全てを破壊する! 邪拳滅殺!』


 結果、脱ぎ去った金属の装甲は、今や黒くべた付くナニカが取って代わり彼女の体を蝕み、機械の巨碗に頼らず、その黒で包まれた己の拳で敵を粉砕する事となった。


『ゆ、指輪が黒くなってる!?』


 勿論桜にも葛藤があった。愛していた女性の色である、赤に輝いていた指輪が、邪な者の黒に染まった時だ。


『そうだ! 赤奈先輩も一緒にいたらもっといいよね!』


 しかし彼女は、愛した女性すらも邪な者に捧げたのだ。


 散った桜は元には戻らず。


 ◆


 伊集桜のパートナー、野咲赤奈。


 赤い髪を腰まで伸ばした彼女は、少女と呼ぶより女性と表現する方が似合っていた。スタイルがよく陰鬱、もしくは影がある色っぽさを持つ彼女は、それ故大勢の男から言い寄られていた。


『ごめんなさい。私には桜がいるから』


 しかし、女性である桜をパートナーとして選んだ彼女は、その全てを断っていたのだが、律儀にも呼び出された場所に出向いていた。


『野咲さんが来てくれなかった……』


『一個下の伊集と付き合ってるんだから、もう態々出向くのは止めたんだよ』


 しかし、ある時からそれすらもしなくなった。元々、桜と交際していたのが知られているのに、それでも声を掛けて来た者に、面倒を感じたからだと思われていたが真実は違った。


『あの人に、自分以外の男と一緒にいたと思われたくないもの』


 呼び出しに対して出向いていたのは、それに対してどちらでもいいと、ある意味無関心故での行動だったのだが、邪な者と出会って赤奈は変わった。それがマイナスになると判断して、出向くことをすっぱりとやめたのだ。


『この鉄の花びらの中に入っていいのは桜だけ。退きなさい、リフレクションコローラ!』


 マキナの力で金属の花びらを装甲として、己と桜を包み全てを拒絶していたのはもう過去の話。


『ああ……なんて香しいリコリスの花……これが貴方を彼岸に誘う。彼岸誘界の香』


 最愛の人、桜色であったピンクの指輪は黒く変色して、自分の赤い髪から咲き誇る赤い花。


 邪な力は冷たい金属の花弁を、黒い蜜を滴れたリコリスの花へと変貌させて、拒絶ではなく死へと誘う香と化した。


『折角雌しべが2本あるんですよ。雄しべもないと。さあどうぞ』


 赤奈は自分を陥れた桜と抱き合いながら、邪な者を愛し受け入れ、高嶺の花はたった一人を誘う食虫花に変貌してしまったのだ。


 花が毒をまき散らす。


 ◆


 ◆


 ◆


 例えば、鏡谷真黄まお


 褐色の肌に長い金の巻き毛。少女達の中で最も胸が大きい事が密かな自慢の彼女は、世間ではギャルと呼ばれる種類だった。


『ねえ見てみて心白! あたしのブログの投げ銭、ちょっと胸元見せたらこんなに! 真黄ちゃん愛してるって書かれてるけど、このお金があたしらのデート代に使われてるって知ったらどんな顔するかな。にひひ』


 容姿にも優れている自信があった真黄は、自分のブログで稼いだお金を、パートナーである針井心白とのデート代に使用していたが、心白が女性であった事から男の影がなく、同じ学園に通う男子生徒もチャンスがあるのではと、ブログに載せられた自撮りの写真を見ていた。


『あれ!? ブログがない!?』


 しかし、ある時からピタリとブログそのものが消えてしまった。


『ブログ? あれやめたし。飽きちゃったんだよね』


 そう言ってあっけらかんとしていた真黄だが、真実は全く違う。


『もうダーリン以外にあたしの肌見せたくないし』


 邪なる者以外に自分の肌が見られている事に嫌悪を感じて、以前は開いていた胸元もぴっちりボタンを留めていた。


『いえーい! ミラーアバター! あたしが一杯! さーて本物のあたしを見分けられるかなあ?』


 自分を何かに映す事が好きだった真黄のマキナ状態は、多数の金属の鑑、ステンレスに自分の姿を映し、そこから生まれた分身達と共闘して、相手を翻弄するスタイルだった。


『あたしが映したいのは、ダーリンとあたしと仲間だけ。あんたはあんたに殺されろ。鏡面世界対獄ついごく曼荼羅まんだら万華凶まんげきょう


 真黄が映して残したいのは、邪な者とそれを取り巻く自分達で、それ以外は必要ないと悟った彼女は、黒いドロリとしたナニカを瞳から溢れさせると、そのナニカは敵を完全にコピーして、両者共倒れになる泥試合を強制する。


『ほらダーリン、心白、ぴーすぴーす』


 かつては最愛だった女性とのツーショットの自撮りにも、いつの間にか入り込んだ邪な者が中心で、それは真黄が両方の耳にしていた白いイヤリングが、いつの間にか左右で白と黒に分かれていた時のような自然さだった。


 鏡は元の明るさに戻らない。


 ◆


 そして鏡谷真黄のパートナー、針井心白こはく


 名前通り真っ白な肌と、同じく白い髪をボブカットにした少女。真黄とはかつて最も愛し合っていた関係で、指輪も真黄のパーソナルカラーである黄色に光り輝いていたが、今は真っ黒に淀んでいる。


『新作のへそピがいまいち』


 以前は学園の制服を改造して、常日頃からお腹を露出させ、そこに嵌められた自分の色である白と、真黄の色である黄色で真ん中から色分けされた、ハートマークのへそピアスを見せつけていた。


『あれ、へそピ変えた?』


 勿論男子生徒はそれに釘付けで、常日頃から注目していたためすぐに気が付いた。


 ある時からへそピアスが変わっていたのだ。形は同じハートマークでも、左右から黄色と白が包み込むようにして、真ん中に不吉なまでの黒が渦巻いてたのだ。


『あの人と、ウチと真黄。流石にあと6色は無理』


 それが何を意味するかは、極限られた者しか知らなかった。


『エンジェルニードル。ピアスの穴をあけてあげる』


 マキナとしての彼女は、まるで機械で出来たナース服を身に纏い、複数の巨大な針で妖を刺殺していた。


『あは。あはは。私の肌があの人に染められてる。じゃあ死んで。四肢しし絵怨ええん死屍しし針侵しんしん


 しかし歪められた心白は違う。巨大で兵器のような金属の針ではなく、古来からの縫い針を自らに刺すと、それは彼女を一切傷つけることはなかったが、真っ白な染み一つない肌を、まるで入れ墨針であったかのように黒く染め上げ、全身に巻き付いた蛇のようなモノを描いたのだ。そしてそれを用いて呪殺を行う彼女に、敵は純白を汚して蠢くナニカを見るだろう。


『へそピの下に専用って刺青入れていい?』


 白は黒に塗りつぶされてしまったのだ。


 ◆


 ◆


 ◆


 ◆


 例えば、戸鎖銀杏。


 少女達の中で最も背が高く、白ではない鈍く光る銀の髪は、短く後ろへ向くよう整えられている。しかし、一番特徴なのはその目つきだろう。鋭利、刃物のようなと表現出来る程その目つきは悪く、実際非常にガラが悪かった。


『俺の紫に近づいてんじゃねえぞ!』


 触れる者皆傷つけると言わんばかりの彼女だが、パートナーである石野目紫だけは唯一例外で、彼女達はお互いに深く愛し合っていた。


『あれ? 銀杏ちゃん、そのチョーカーどうしたの?』


『い、いいいやなんでもないぞ! 単なるファッションだよファッション!』


『そ、そう。似合ってるよ』


『だ、だろ!?』


 そのパートナーが気が付いた時には全て手遅れだった。チョーカーの前に、ナニカを留める金具があったことに。


『絞め殺す! 食らえやチェーンスネーク! 』


 銀杏のマキナモードは、全身装甲の隙間から、無限に伸びるのではないかと思うほどの鎖で、金属にも関わらず生きている蛇のように敵を締め付け拘束する。


 だがそれはかつての話。


『ああ……俺、あの人のもんだ……。くたばれ! 永世えいせい怨鎖えんさ殺界蛇さっかいだ!』


 堕ちた彼女の鎖は、拘束なんて生温い事を言わない。その首のチョーカーから伸びた黒い鎖、いや蛇は、敵に噛みつくと、絶死の呪いを注ぎ込み呪殺する。


『な、なあ、このチョーカーどう思う……?』


 気高き餓狼の姿はそこになかった。


 ◆


 そして戸鎖銀杏のパートナー、石野目紫。


 紫のロングヘアを三つ編みで纏めているが、厚着で素晴らしいプロポーションを、顔も牛乳瓶の底のような眼鏡と前髪で隠している。しかし、それは仕方ない事なのだ。


 その体は、何より瞳は、全ての男をオスへと変えてしまう為、何もかも隠して生きていたのが石野目紫という少女で、定位置は図書館の隅の席だった。


 しかしそれもまた過去の話。


『最近図書館に来ないね』


『えっと、その、他に落ち着ける場所を見つけちゃって』


 今の紫は、よりにもよって邪なる者の根城に入り浸っているのだ。


『うわ、石野目、超美人じゃん』


 その上、自分の力を制御出来るようになった紫は、眼鏡を普通の物にして、その変貌ぶりを見せてしまった。


『味方の方、私の方を見ないで! チャームアイ!』


 マキナモードの彼女は、顔を隠したバイザーで魔眼を調整して、敵を誘惑、混乱させていた。


『ああ見える! 私、あの人の目であの人と同じ世界を見てる! 死んでください! 視淵しえん死界しかいの邪眼!』


 だが悍ましき力を手にした彼女は、自分の両眼を覆う黒い泥から開かれた、ぎょろりと血走った一つ目で世界の深淵を覗き、捉えた敵の精神を完全に崩壊させることが出来る。


『今読んでる本ですか? ハウツー本です』


 最早開かれた目が閉じられることはない。


 ◆


 ◆


 ◆


 ◆


 例えば、歌川碧。


 日本の誰もが知るアイドルグループの絶対的エースにして、最も清純と呼ばれるマキナ。セミロングの緑の髪を躍らせながら歌う彼女に誰もが魅了された。


『皆ー! 私達の歌を聞いてくださーい!』


 しかし、歌は全ての人間に聞いて欲しくても、思いは恋人の天海青蘭だけに向けていた。それでも握手会やサイン会には積極的に参加していたのに、ある時からそれがぱったりと止まった。


『ミドリんどうしたの?』


 日本中のファンが心配する中、その時すでに彼女は変わってしまっていた。


『さあ、どうか私の手を握ってください』


 もう清純なんて表現できない様な、歪んだ目で邪な者に囁く碧。


『さあ皆行くよ! パワーソング!』


 マキナとしての彼女は、機械の翼で空を飛びながら。顔の周りに浮いた多数のマイクを介して味方に歌を届け、勇気と力強さを与えるバッファーだったが、最早それは過去の話。


『邪魔する人は私の歌で粉々になって! 怨歌えんか死重葬送!』


 機械の翼は黒き蝙蝠の翼となり、マイクを必要としなくなった彼女は、その喉から滅びの怪音波を発生させて、敵を直接粉々にするのだ。


『あなたの隣で歌います。どこでも。勿論ベッドでも。ね?』


 その歌が聞こえる事はもうなかった。



 ◆


 そして歌川碧のパートナー、天海青蘭。


 人魚姫と称される彼女は、水泳帽に納まる様に青い髪を切り揃え、水着から出ている部分は全て日に焼けているものの、彼女目当てに水泳部に入部する男が後を絶たない程、そのスタイルと美貌は何処までも女性であった。


『ふ、今日も水面と皆の視線が熱いね』


 それを気にせず余裕を持った笑みを浮かべる青蘭は、パートナーである歌川碧がやきもきするほど無頓着だったが……。


『天海さん、最近水泳部に来ませんね』


『ああ。プールがある女性専用のジムに通う事にしてね』


 いつからか彼女は、男達の前で水着姿になることがなくなっていた。


『さあて飛ぼうか! マーメイドタイフーン!』


 マキナとしての彼女は、下半身に機械で構成された魚の尾ひれを身に纏い、空中をまるで海を泳ぐ人魚のように飛びながら、水の力で戦う戦士だった。


『さて溺れようか? 地獄じごく堕魚だご永闇苦えいあんく


 堕ちた彼女は違う。機械の尾ひれは、蠢く黒い8本の触手となり、まるで墨に紛れるタコの様に、闇に、影に沈み込める彼女は、敵すらも地面に引きずり込んで、窒息死させるのだ。


『うん? 私の足はここにあるじゃない。おっと、残り6本が絡みついてたね』


 堕ちた人魚は戻らない。


 ◆


 ◆


 その黒く染まった8の色は、邪なる者の根城、しかもベッドに倒れ伏していた。


 先程まで起こっていたのは……


「にぎゃあああああ!?」


 闇に堕ちた少女達は今日も叫ぶ。


 魔闘士、伊集桜も


「なあにが肉の欲だ猪突猛進娘! 男との距離感間違えたら、そう見られるのは当たり前だろ!」


「いだだだだだだ!? 痛い痛い! 墨也さんやめてえええええ!」


「はーい頭の足ツボが効きますねー。これからは何も考えず突撃する癖は止めましょ」


 ◆


 彼岸花、野咲赤奈も


「ひいいいいいいいい!?」


「一々言動が卑猥なんだよ! 誘ってんのかコラ!」


「誘ってんひいいいいいいいいいいい!?」


「はーいここは首の足ツボですねー。髪が長い分凝ってるんでしょうねー」


 ◆


 万華凶、鏡谷真黄も


「ひんぎゃあああああああ!?」


「やたらと俺に貢ごうとするんじゃねえ! ホストに嵌った駄目女か!」


「ダーリンにならあぎゃあああああ!? DV反対いいいいいいい!」


「はーいここは肩のツボですねー。おおこりゃ凝ってますねー」


 ◆


 絵怨、針井心白も


「ふぎぎぎぎぎぎぎぎ!? そこお腹のツボとみたああああ!?」


「はーい正解でーす。これからはへそ出しスタイルと、刺青なんて馬鹿な事は止めましょうねー」


「それはまた違う話いぎぎぎぎ!?」


「ふん! 最大指圧!」


「ぎゃあああああああああ!?」


「おお凝ってますねー」


 ◆


 呪縛、戸鎖銀杏も。


「ああああああああ!? 俺、普通の事しか頼んでないのにいいいい!」


「なにが普通の事しかだ! 上目遣いでなんだと思ってたら、リード渡してきやがってからに! お前も桜と一緒で頭のツボが効くなコラ!」


「うがあああああああ!?」


「はーい暴れないでくださいねー」


 ◆


 邪眼、石野目紫も。


「ひううううううううううう!?」


「ハウツー本って、それウスイー本だろうが! なに勉強するつもりだむっつり娘!」


「なにってナきゃあああああああああああ!?」


「はーい言わせませーん。やっぱり目が凝ってますねー」


 ◆


 怨歌、歌川碧も。


「握手会とかサイン会に行かないのは……まあ……うーん……」


「あれ!? ひょっとして独占欲ですか!? 嬉しいきゃああああああああああ!?」


「ここは肺のツボですねー。いやあ、歌手らしい叫び声だ、肺活量が凄い。うんうん」


「足ツボのせいで最近鍛えられてるいたたたたたたたたたたたた!?」


 ◆


 堕魚、天海青蘭も。


「いっだああああああああ!? 私の足、ひょっとして8倍痛くなるんじゃ!?」


「全身運動の水泳してるから、その分体中凝ってるのかもしれませんねー。別にタコとか関係ないですよー」


「あだだだだなるほど!? ところで今晩、タコみたいに絡みついってえええええええええええ!?」


「はっはっは。本当に何処押しても効きますねー」


 ◆


 邪なる者の根城、その診療台の上で倒れ伏す彼女達。


 その万魔殿の名は


 一条足ツボマッサージ店といった。


 足ツボマッサージである。


 足ツボマッサージである。


 あしつぼまっさーじである。


 邪なる者の正体、一条墨也という名の男は追放者であった。


 気や魔力、霊気といったものが存在するこの世界において、指圧や鍼灸でツボを刺激するのは、体の気脈を整える手段であり、それ専用の大病院が存在する上、施術を行う者の地位も高く気圧師と呼ばれていた。


『一条君、君をこの病院から追放する』


 しかしである。この墨也は気圧師であるにもかかわらず、世界的にも有名な病院から追放されたのだ。


『そ、そんな!? 何故なんですか!? 自分は真面目にやって来たじゃないですか!』


『もうこれは決定事項なのだ』


『そ、それならせめて理由を教えて下さい!』


『いいだろう……君をこの病院から追放する理由……それは!』


『ぎゃああああああああ!?』『いだあああああああい!』『やめてええええええええええ!』『ごああああああ!?』『ひいいいいいいいいいいいい!?』『いっそ殺せえええええええええ!』


『君の力が強すぎて、ツボを刺激されたらくっっっっっっっっっそ痛いからだ!』


 身長は170と160の間で、まあ平均的な墨也だったが、その体は、え、本当にこれ有機物? 叩いたらカンカンって音しない? と思ってしまう様な鋼の肉体で、筋肉は油圧シリンダー、血液は油、盛り上がってる筋はカーボンチューブなんじゃないかと噂されていた。


『もうこれ以上、クレームに対応できないのだ……分かってくれ』


 しかもこの男、気脈を整える必要があるような、妖と戦っている丈夫な連中ですら、ぶっ壊されかねない力で指圧する癖に、腕はまあ……普通? といった程度でしかなく、どう考えてもマイナスの方が大きい為、病院ではクレームの電話が常に鳴り響いていたのだ。


『お世話に……なりました……』


『ああ。達者でな』


 ガックリと項垂れた墨也はこの日、世界に名だたる病院から……。


 追放されてしまったのだ!


 ◆


 自分不器用っすから。と言っておけば、納得してくれると信じていた、同僚や上司に裏切られた墨也が、一体どうすればいいんだと、途方にくれていた時


 運命の歯車が回り出した


『いやあああああああ!? 妖の赤ちゃんなんて産みたくないいいいいい! 赤奈先輩助けてえええええ!』


 伊集桜の悲鳴を聞いた時から。


 いや


『変身』


 墨也の影から伸びる黒、怨、呪、死、恩、祝。


『邪神形態』


 あるいは彼が産まれた時から。


 祖に邪なる者、いや、大邪神を頂く者の末裔として。


 石ともいえる様な墨也の体を、黒が締め搾っていく。


『今行くぞ』


 無理矢理体を搾り、恐るべき筋肉の密度となった墨也が、黒として、怨として、呪いとして、そして何より邪神として、悪の手に落ちようとしている無垢なるものを助けに向かう。


 肘あり膝あり手あり足あり。


 鼻なし口なし耳なし。ただ眼だけが燃ゆる深紅の瞳。


 夜の世界をナニカが駆ける。


 この物語は、正義の少女達を守るため、悪へ堕とさぬため、その力を振るう者と、それに惹かれるも、立場故に彼を撃たなければならない、少女達の悲しき物語。


「赤奈先輩! 既成事実を作りましょう!」

「それはいいわね桜」


「心白、準備できた?」

「ばっちし。針で穴開けた」


「おおおおおおい紫! 赤ちゃんってどうやったら出来るんだ!?」

「え!? 銀杏ちゃんそこから!?」


「妊娠したらアイドル引退するんで大丈夫ですよ!」

「水の中を歩くのもいいみたいだね。おっと、勿論普通の状態でもね」


 なんて話になる訳もなく。


「お前らちったぁ落ち着け!」


 この物語は、闇堕、悪堕ちだけはしなかった彼女達と、一般的感性の邪神がそれに振り回されるお話である。

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