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「蘇芳さん。今までの君の話からすればそう簡単に転生はできないし、できたとしても再び自分となってほとんど同じに見える異世界で生きていくことは難しいというより、ほぼ無理なように思えるが、何故俺はそれを何度も体験しているんだ?」

「それは信永さまがマイロードだからです」


 結局その言葉に辿り着くのか。


「今までに何度か尋ねた。だがもう一度問おう。その“マイロード”とは何なんだ? 転生族のことか?」

「マイロードを他の言葉で説明することは難しいのですが、信永さまたちの世界で通用する言葉を敢えて探すとするなら……世界の創造主、あるいは神、でしょうか」

「か、神……だと」


 思わず口にしてしまった。

 想像していたのは彼女たちの王国の国王であるとか、その世界の支配者的な立場であるとか、そういったものだ。あるいは蘇芳エルザの婚約者に当たるという説明なら、彼女が命を懸けて守りに転生してくるのも多少は納得できる。しかし「神」という、もうそれ以上説明しようのない言葉を持ち出されると、思考がそこで停止してしまう。


「はい。神です。信永さまはご自身に転生するだけでなく、ご自身が亡くなる運命を排除した異世界へと転生されるのです」

「そんな都合が良いことが何故起こる? それでは俺は一生死なないということか?」


 ただ、彼女が言ったことを受け入れると確かに記憶の奇妙な齟齬や、何度も殺された夢を見たことなどの説明もついてしまう。


「寿命による死以外は、信永さまを殺すことは有り得ません。それに寿命によって死んだ後も、また赤ん坊から新しい信永さまの人生が繰り返されるだけです。そもそも完全な輪廻転生の世界では死は訪れません。死とは新たな生のスタートでしかないのです」

「ちょ、ちょっと待ってくれ」


 ずっと右のこめかみがじんじんと痛んでいたが、ここにきてぐっと何かを押し付けられたような痛みに変化した。俺は低く呻きを漏らし、席に座る。右手で頭を押さえる。


「信永さま?」

「もし、だ。この場で俺が自殺しても、それは俺が死なない新しい世界が作られるだけで、その自殺はなかったことにされる。そうだな?」

「はい」

「何故俺だけがそんなことになっているんだ? 俺は、凰寺貞家と市乃の子、信永だ。普通の人間だ。それがどうして」

「わたしはまだ市乃さましか存じませんが、彼女もまた、転生族です。おそらく凰寺家はずっと転生族の血を引いている家系なのだと思われます」

「そんなはずはない。そんなはず……殺しても死なない特別な家系だなんて」


 言われてみれば祖父もそのまた親も、事故や事件で亡くなった人物はいない。病気もない。全員が老衰だと言われていて、長生きの家系なんだと父親は笑って話してくれた。けれどもしそれが、殺しても死なない特別な力があったというのなら納得できる。

 蘇芳エルザの話を聞けば聞くほど、彼女の言葉を信じざるを得なくなる。

 だがそれは同時に、俺という人間が築いてきたはずの十七年の小さな積み重ねを破壊する行為でもあった。


「それだけではありません。信永さまは自分が思うような世界をお創りになる力があります。わたしがお見受けしたところ、その力は市乃さまにはございません。信永さまだけです。何故なら、あなたがマイロードだからです」

「俺が、マイロード。つまり神だというのか? しかし俺に自分の思い通りの世界を作る力があるというなら、どうしてこんなにも世界は俺の思うがままになっていない? 何故俺は君や黒尽くめの女たちに狙われ、何度も殺されなきゃならない? 説明してくれよ!」


 頭が痛い。

 俺は、俺の内側から溢れ出ようとする何かを抑えられなくなっていた。


「俺はただ何事もなく静かに、自分の時間を過ごしたいだけなんだ! 世界とか、異世界とか、そんなものは知らない! 君がどこの国の姫だってそんなもの関係ない! 命を懸けてこの世界に転生してきた? 俺を守るだ? 全然守れてないじゃないか! 一体何が目的なんだよ! 転生者はさ!」


 がらり、と教室の後側の戸が開けられた。

 振り返るとそこには、もう一人の蘇芳エルザが立っていた。彼女は赤い目を微笑ませ、俺に向けてこう唇を動かしたのだ。


「この世界を、変えたくないか?」

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