第一章.4
「
「はいはい!
この世界では二人以上の子どもを同時に身籠ることはない。
もし己と瓜二つ、且つ同じ年齢の兄弟姉妹が居たならば、どちらかはまごうことなき
ゆえに
しかし
そのため二人は《どちらも
町の神社では毎年一回、
幼い頃は両親同伴の元、やがては
外では気を張ってばかりいるようになり、ありのままの
特に
しかし――。
「お互い、自由に生きてみようよ」
しかし当時のことを何度も思い返してみても、納得のいく結論が出たことはない。
→→→
白銀髪の女性が消えてまもなく事態は終息した。
大通りにあふれ出ていたイリュオートの群れは、二足歩行になる前の液状へと戻り、地面に溶けて消えてしまった。遠くで飛び交っていた魔術の爆発音もいつの間にか消え、商店街は久方振りの静寂に包まれる。
やがて、これ以上の侵攻がないと判断した
そして
いたたまれない心地を誤魔化すように、ガスパーニュのことを改めて眺める。年の頃は
耳には小さな石のついたイヤリング、手首には同じような小ぶりの石がいくつか留められたブレスレットが備わっている。しかし、どの石も煌びやかさはなく、炭化し、くすんでいた。
「そういえば
「え……あ、はい」
不意にガスパーニュから話しかけられ、
「さっき襲ってきた奇妙なやつらが消えたということは……俺のことを助けてくれた人達も、無事ということでしょうか」
だが、ガスパーニュにとっては意外な質問だったらしい。彼は目を丸くしてから、ははは、と嬉しそうに笑った。
「
そう言うガスパーニュの案内で、
代わりにベンチと自動販売機がひとつずつ設置されていた。ガスパーニュは迷わず自動販売機の前に立つ。
「お茶で良いかな」
「あいつらは殺そうと思ってもなかなか殺せねーから大丈夫だよ。心配してくれてありがとうな。後で伝える」
ペットボトルを差し出して言うガスパーニュ。
「まぁ座って。お互い聞きたいことは山程あるだろうけど、相棒の居ないところで話を進める訳にはいかないからさ。一息つくと良いよ」
そう言ってガスパーニュがベンチの端に座る。
貰ったペットボトルを両手で包み、その感触を確かめているうちに自分が発汗していることに気付く。
鼓動はすでに落ち着きを取り戻し、精神面も平常に戻っている。それでも鳩尾でわだかまる苦しさだけは消えなかった。地面の感触はあるはずなのに浮遊感が拭えず、頭の中では白銀髪の女性と
だが不思議なことに、殺す、という言葉には何の感情も抱かなかった。見ず知らずの相手に名指しされた以上、何が起こるか判らないという恐ろしさはあるものの――命を狙われる、殺されそうになる、死ぬかもしれないといった感覚にいまいち現実感が付いてこない。
奇怪なイリュオートを見て、殺意に満ちた白銀髪の女性を見て、殺すとまで言い放ったあの冷徹な声を聞いたというのに。
そんなことよりもっと大切なことがある。
あいつは今回の騒ぎに絡んでいるのか、今は何をしているのか、会えるのか。様々な思いと情動が
その不快感が喉元までこみ上げたため、溜息にて外界へ送り出そうとする。だがこぼれたのは吐息だけで、不快感は喉と胸元にこびり付いたままだった。
わふ。
犬の鳴き声を聞いたのはそんな時である。顔を上げると、反対側の通りから一匹だけ歩いてくるのが見えた。
「レオンじゃないか」
ガスパーニュが言うと柴犬は一度立ち止まり、わふと再び鳴いた。まるで返事をしたかのようである。
「名前、あったんですか」思わず
「あるというか、みんな適当につけて呼んでる感じかな。タロキチとかシバコとか、タマ、リューセー、マメノスケ、プードル、ポポンタ……。俺の周りはレオンって呼んでるから、俺もそう呼んでる。好きに呼んで良いと思うよ」
つまりは町の看板犬のような扱いなのだろう。名前が複数あるなんて自分ならば混乱しそうだ、と
「
「はい。もともとこの町には何度か来ることがあって……いつもどこからともなく現れて、俺の後を付いてくるから覚えたんです」
その仕草を見ているだけで、
さきほどの出来事に整理がついていないこともあるが、ガスパーニュという警察機構の隊員と行動を共にすることで、無意識のうちに気を張り続けていたのだろう。レオンは
身を乗り出してさらに甘えてくるレオンの仕草に、ようやく
「レオン」
ガスパーニュにならって名を呼ぶと、レオンの尾がますます激しく揺れ始めた。喜んでいるのだろうかと推察する間もなく、目前にレオンの鼻頭が迫る。
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