心はうつろを舞っていて

正條ろぼ

プロローグ

 制服を着た可愛らしい女子高生は恥ずかしそうに笑って、軽快なステップを踏んだり手をあごに当てたりしながら、いまどきの電子音楽にあわせて踊っている。どこにでもいる普通の高校生といった雰囲気だが、背景に見える染みひとつない白い壁と、いつまでも繰り返される単調なダンスは少し不気味である。

 しかし当の女子高生は退屈そうな様子もなく、まるで操り人形のようにひたすらに踊り続け、画面の前にいる不特定多数の視聴者を楽しませている。

 いきなり、右肘より先がだんだんとおかしな方向に曲がり始めた。表情は相変わらず弾ける笑顔のままだ。左膝より下もだんだんとおかしな方向に曲がり始めた。表情は相変わらず弾ける笑顔のままだ。体重を支えられなくなり、左へと崩れ落ちた。

ようやく彼女の顔に苦悶の色が湧いた。口を開いて、なにか言っている。

 誰も助けに来なかった。影はひとつしかなかった。

床にくずおれてもなお左ひじで上体を支え、捻じれた右腕をゆらめかせて踊ろうとしている。立ち上がろうとしては倒れるたびに弱っていくが、目を細くして口角をあげて白い歯をのぞかせて、状況には似つかわしくない笑顔を作ろうと奮闘している。

 とうとう、うつ伏せになって倒れた。しかし顔だけは前に向けていた。捻じれて皮膚が赤くなった腕で這うようにして進みながらも、腰を上下させて床に打ちつけながら曲のリズムを刻んでいる。瀕死のカエルのような膝を外に突きだす体勢で、カメラへと近づいてくる。

 誰も彼女を止めようとしなかった。

 自分の体に覆われて、彼女の影は見えなかった。

 人工的な白さで毛穴まで隠された苦悶の顔が、カメラのすぐ近くにまで迫った。

さらさらと流れるような前髪が垂れると突然、画面のすべてがモザイクに覆われた。

女子高生の姿はぼやけて、彼女の感情を読めなくなった。

 画面の上部に赤色の字で閲覧注意と表示された。その数秒後に、爆音とともにモザイクのなかで細かな破片が四方へと飛び散った。

 叫び声はなかった。しつこく踊り続けていた女子高生の体は肉塵と化していた。

 そして、画面を埋め尽くさんばかりの大きさで、赤色のテロップが出てきた。

 心配しないでください。これは人間ではありません。

 LUVLUB社の製造している、完全自律型ヒューマノイドロボットです。

 安っぽい流行りの曲は、今もまだひとりでに鳴り続けている。

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