渡る世間に鬼話

木ノ木火

第1話

 この日本には鬼憑きと呼ばれる鬼の血を有した人種がいる。

 鬼憑きは鬼の子孫とされ、人々から畏怖の目で見られていた。

 鬼憑きの最大の特徴として頭に角が生えていることが上げられる。




 ***




 4/14 (木)


 自称、冴えない男子高校生――加賀智 結空(かがち ゆら)は使われていない空き教室にクラスメイトの女子――黒坂 百合(くろさか ゆり)と二人きりだった。


 黒坂はサラサラなショートヘアの黒髪、シミ一つない白い肌を持ち、顔たちも整った美少女だった。

 だが、彼女を見た際、顔よりも先に目が行く箇所があった。


 

 彼女の頭頂部には二本の角が生えていた。

 


 「結空君、来てくれてありがとう」


 黒坂は笑顔で言った。


 「……あれ書いたの黒坂さんだったんだね」


 結空がもらった手紙はピンクを基調とした色に女の子っぽい丸っこい字で『話があります。今日の放課後空き教室に来てください。』と書かれていたので女子からのラブレターに違いないと期待に胸を膨らませていた。


 「うん。手紙に書いた通り、人前で言えない話があるからここに呼んだんだ」


 結空の想定通り、女子からではあったが、鬼憑きである彼女からだとは思ってもいなかった。


 結空は今すぐこの場から逃げ出したかった。


 「結空君、帰ろうとしてるでしょ」


 目線を泳がせただけで黒坂に心の中を読まれてどきっとした。


 「……うん。できることなら帰りたいね。何されるかわからないし」


 「それは大丈夫だよ。木島先生に許可とってるから」


 彼女の一言がますます結空を追い詰めた。


 この場から逃げ出したい気持ちでいっぱいになるが、今逃げたところでどうにもらないことを結空は理解していた。


 「なんで綾瀬先生に?」


 結空はダメ元でシラバっくれた。


 「もー結空君だってわかってるでしょ」


 黒坂はぷくっと頬をふくらませた。

 本当に顔がいいとどんな表情でも画になると結空は思った。


 「わかってるなら話す必要ないんじゃない?」


 「本人の口から聞かないとダメなんだよね。こういうのさ」


 「どういうこと?」


 結空は何を聞かれるか予想はできていたが、あえて知らないフリをした。


 「もう聞くね。ずばり、結空君って鬼憑きだよね?」


 彼女の発した言葉は結空の想定通りのものだった。


 「……俺、角生えてないよ?」


 その言葉に嘘はなく、結空に角は生えてない。


 「角が生えてなくても、鬼の血が混じってれば鬼憑きなんだよ。それに見た目は関係ないって結空君も前言ってたでしょ」


 黒坂と初めて会話したとき言った言葉がブーメランのように返ってきた。


 「……」


 結空は答えに詰まった。

 今すぐにでも逃げ出したかったが今ここで逃げた方がより悪い方向に行くのはわかりきっていた。


 「もー……あんまりこういうことしたくないんだけどね」


 彼女はタンと地面を蹴り、一瞬で結空の目の前に移動した。

 結空は逃げようと思ったが、行動するより早く黒坂に手首を掴まれた。

 同級生の女子に初めて触れられ一瞬だけドキッとするも、すぐに我に返るり、黒坂の手を振り払おうとする。

 だが、彼女の手はびくともしなかった。


 「無理だよ。結空君だってわかってるでしょ? 鬼憑きの身体能力を」

 

 鬼の血は肌や髪の免疫機能だけでなく、肉体の筋力にも影響が及ぶ。

 それは彼女も例に漏れない。

 

 「あんまりこういうことはしたくないんだけどね」


 黒坂はつかんだ手首を捻って背中に回した。


 「いててて!」


 関節が悲鳴を上げ、声を出さずにはいられなかった。


 「もう一度聞くよ」


 黒坂は数秒の間をおいてから再び口を開いた。


 「結空君って鬼憑きだよね?」


 数秒の間を空けた後に結空はゆっくりとうなづいた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る