第38話、女神様のささやき♡(異世界編)その5
──俺がこれまで授かってきた、女神様からの『お導き』が、すべて『呪い』や『悪意』でしかなかっただと⁉
「そりゃあ、末子のくせに長男たちを差し置いて、実家を乗っ取ったり、ゲンダイニッポンの知識を笠に着て、周辺貴族領を併呑したり、しかも最終目標として、国家そのものや大陸全体を支配下に置こうと陰謀を張り巡らせていたりするんだから、あなたの行動原理なんて、『神のお導きや祝福』などよりも、『呪いや悪意』に基づくもの以外の何物でも無いでしょう」
──しかし現時点においては、俺の『NAISEI』のお陰で、むしろ我が王国は、より豊かになっているではないか! それに確かに俺は大陸制覇の野望を持っていたが、いまだ具体的な行動は起こしていないぞ⁉」
「それは転生教団から派遣された私が、手助けしたり助言を与える振りしながら『監視者』として、常にあなたの側に張り付いて、その言動を巧みにコントローして、王国に損失が及ばないように誘導しつつ、あなたがいざ陰謀を実行しようとした際には、こうして教団直営の『転生病監察医務院』に強制収容して、事無きを得たのではないですか?」
──な、何だと⁉ だったら俺のこれまでの行動は、すべておまえに操られていたようなものであって、もし本当に俺の行動基盤が『呪い』や『悪意』であるとしたら、それはおまえら教団がもたらしたとも言えるじゃないか⁉
「いえいえ、人間のあなたはどうにかコントロールできましたが、現在この病棟に同様に収容されている、蜘蛛やスライムやドラゴンの卵については、とてもコントロールなんかできませんから、前世──すなわち、狡猾かつ残虐極まる『ゲンダイニッポン人としての記憶や知識』に目覚める前に、先手を打つことによって、こうして拘束できているわけなのですよ」
──人間みたいに知性や理性の無い、蜘蛛やスライムやドラゴンの卵までもが、『呪い』や『悪意』によって、ゲンダイニッポン人としての前世の記憶に目覚めかねないだと、そんな馬鹿な⁉
「……だ・か・ら、あなたも含めて、この病棟に収容されている者たちは、みんな『転生病』という病気に罹っているって、何度も何度も申しているではありませんか? この病気に罹ると、人間だけではなく、蜘蛛やスライムやドラゴンの卵すらも、自分のことを異世界転生してきたゲンダイニッポン人だと思い込むようになって、あなた同様に、前世仕込みの最先端の知識と、ゲンダイニッポン人ならではの狡猾かつ残虐さによって、周囲のすべてを次々に軍門に下していって、果てしなき欲望に駆られるままに、大陸全体をも支配下に置こうとしているのです。こんなとんでもない病気が、『呪い』や『悪意』に拠るもの以外の、何物だと言うのですか?」
──病気だと? 事実上の異世界転生を実現させるなんて、そんな病気があるものか!
「十分にあり得ますよ、何せこれって、あなたやモンスターたちみたいな『罹患者』を、先ほど申しました、我が教団における信仰心の集合体としての『女神様』と、アクセスさせているようなものなのですからね」
──なっ、人の信仰心に、アクセスさせる病気だと⁉
「厳密に言えば違います、結果的に同じ『なろうの女神』へのアクセスなのですけど、あなたたちがアクセスさせられているのは、けして『信仰心の集合体』のような清廉なるものではなく、まさしく『呪いや悪意』の塊そのものなのです」
──同じ『女神』なのに、片方が『信仰心』の集合体で、もう片方が『呪いや悪意』の塊なんてことが、本当にあり得るのか⁉
「そりゃあ、清らかな信仰心と、人の雑念の塊とでは、違いが出ても当然では?」
──人の雑念の塊、だと?
「信者の皆様の信仰心のみから生み出された女神様とは違って、あなたがアクセスしたのは、ゲンダイニッポンにおいては『集合的無意識』と呼ばれる、ありとあらゆる世界のありとあらゆる時代のありとあらゆる存在の『記憶と知識』が集まってくるとされる、いわゆるユング心理学で言うところの『超自我領域』なのであって、そんな混沌とした精神体の集まりなんて、『呪いや悪意』の塊そのものと言っても過言ではないでしょう?」
──あらゆる世界のあらゆる存在の記憶と知識だと? それが俺に、ゲンダイニッポン人としての前世の記憶を与えたというわけか? つまりそれって、俺は集合的無意識とやらにアクセスしながらも、その中でも特に、ゲンダイニッポン人の記憶や知識の影響を、より多く受けたってことなのか?
「惜しい、単なるゲンダイニッポン人の記憶や知識ってわけじゃないんですよねえ。言ったでしょう、『無自覚な呪い』に『悪意無き悪意』って」
……何、だと?
「──そう、集合的無意識とのアクセスを介して、あなたの脳みそにインストールされたのは、ゲンダイニッポン人そのものの記憶や知識ではなくて、ゲンダイニッポンで生み出されたWeb小説内において、『異世界転生を行う
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