ある少女の記録

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第1話 ある少女の記録

それはある日のことでした...。

とある研究所で一人の少女が作られました。

少女の名前は[k](仮)です。少女はいつも笑顔でした...。

「こんにちは!」

「...」

彼女は元気よく挨拶をしましたが、返ってきた返事はありません。それでも少女は何度も声を掛けますが結果は同じでした。

そんなある日のことです。少女はいつものように研究をしている人達に向かって言います。

「今日も良いことがありましたよ!聞いてください!私今日ね... 」

「...」

やはり、返ってくる反応は無いようです。少女はそれが普通だと思っていました。ですがその日は違いました。

「おや?どうしたんだい、お嬢さん...?」

突然声が掛かり振り返るとそこには眼鏡をかけた白衣を着た男性がいました。

「貴方は誰ですか...?」

「私かい?...私はここの研究者さ。君は誰だい?」

この人が私のことを聞いてくれたのです...!少女は嬉しくなり満面の笑みを浮かべて言います。

「私は...kって言うんです!よろしくね!」

「...そうか、君が噂の子だね。ようこそ」

「噂...?なんのことかな?」

少女の頭には沢山のハテナマークが出てきました。

すると男性はこう言いました。

「いやなに簡単な事だよ、『k』君...君はこの実験をどう思うかな?」

「......え?」

一瞬何を言っているのか理解できませんでしたがすぐにわかりました。そう理解した途端、背筋が凍りつきました。 私は今なんて言われたのでしょうか。

「君のその感情は良い物だ、そのまま続けてくれたまえ」

そう言って男性は部屋から退出しようとしました。少女は呼び止めながら彼に言いました。

「私に名前をつけて下さい。」

「ん?」

「.......私は誰なのか分からないから自分の名前が欲しいな...」

すると彼は微笑んで言ってくれます。

「それなら君が決めてみるといい...君らしい名前を...その方がきっと喜ぶはずだよ...!」

彼の言う通りだと思い一生懸命考えて決めました。

「......名前か.......うんっと.........じゃあ!」

少し悩んでから思いついた名前を声に出します。

「『アヤ』っていうのはどう...?」 私はそう聞くと博士は少し驚いて言いました。 「...ふむ。確かにいい名前だ。ではこれからは君と呼ぼうかね。さて...そろそろ私も仕事があるんでねまた会おう。」

「......はい!」

そして彼が部屋から出ていきました。それからしばらくしてまた部屋に1人入ってきました。さっきの彼ともう2人いたことに気づき驚きます。すると彼はこう言いました。

「やぁ、今日から私が君たちのことを担当することになった。名前は[x]という。よろしく頼む」

「x......?」

「あぁ、そうだとも。だがその前に君にやってほしい事があるんだ」

「.........何でしょう」

嫌な予感が頭を駆け巡ります。でも逃げ出す訳にもいかないので黙って聞くことにします。

「そんなに怖がらないでおくれ。簡単だから安心して欲しい...君はただ私の質問に答えてくれればいいんだよ......」

そう言うと彼はにっこりと微笑みながら言います。

「まず1つ目だ。......君は自分が何者か分かるかな?」

「...分からないです。生まれた時からここにいますしそれに...ここは何処なんですか?何も無いですけど...」

そう。彼女の言う通りここには本当に何も無かったのだ。

「なるほど、なら次だな......君はどうしてここにいるのかな?」

「......分かりません」

私は即答してしまいました。だってそれしか思い出せなかったから。

「それでは次に行こうか。君は自分のことを知りたいと思っているかな?」 「.........」

言われてみればそうです。今まで気にすることはありませんでしたが今は気になってしまいます。何故自分はここにいるのだろう、と。何故自分なのだろうか、と。 「最後に質問しようか......君は何のために生きているのかな?」

「......え?......そ、そんなこと言われても.........」

突然の事で戸惑ってしまい上手く頭が回りません。私は答えられず黙っていると博士は私の手を握ってきて

「大丈夫だ、ゆっくりでいいからね。これから一緒に知って行こうじゃないか。君はどんな自分になりたいのか......それをゆっくり探せばいいんだよ」

優しい声でそう言いながら頭を撫でてくれました。その手は暖かくとても心地よかったのを覚えています。 そうしてしばらく撫でられた後私は眠くなってしまいました。なので私は彼の手を握り返し眠りました.................................

あれから何年か経って色んな事を知りました。私はここが研究所であり研究対象として造られたということ。そして...ここから出ることは出来ないということを聞きました。それでもいつか此処を出てみたいと思って色々な知識を身に付けたりしていました。幸いというかなんというか私には運動能力が高いらしく色々と試したりして鍛えたりしてました。ですが結果はどれも失敗ばかり。そんなある日の事でした

コンコンッ

「失礼します~、誰かいますかー?」

ドアの方から声が聞こえたかと思うと白衣を着た女性が入ってきたのです 。

「......どうしたんですか?わざわざこんな所まで来て...」

そう聞くと彼女は少し笑って言います 。

「それはねぇ、あなたが外に出ようとしていると聞いたからですよ。私としても貴女には外に出ずにずっとここで暮らしていてもらいたいのだけど......それでも貴方は出たいですよね?だったらこれを持っていってください」

そう言うと彼女が懐からカードを渡してきた 。

「.........何ですかこれは?」

突然渡されたものに驚いてしまう私に対して笑いながら彼女は言う 。

「それはここを出るためのキーカードよ。もちろん外に繋がっているわ」

「どうして私にこれを...?」

私が問うとすぐに答えは返ってきました

「あなたのことを調べて貰った時に分かったんだけどね、あなた結構運動できるらしいじゃない。もしかしたらと思ったんだけど正解だったわね。それでどうするの?」 「......どうしますかと言われても......」

正直迷っていました。確かにこのままこの部屋にいても何も出来ないですし何より外の世界を見てみたくなったので外に出るという案は賛成でしたが不安もありました。外に出てもし何かあったとしたら......そう思うと中々踏み出せませんでした 。

「まぁ怖いでしょうけど大丈夫よ、何があっても私がサポートするから」

「......わかりました。それじゃあ貰います」

そう言って彼女の手からキーカードを受け取る。すると彼女は安心したように笑顔になり私の頭を優しく撫でてくれた。それが心地よくて思わず頬が緩んでしまったのを覚えています。

「よし!じゃあ頑張ってね!あと、着替えとか置いとくから。」

そう言うと彼女は服がはいった袋を部屋において出ていきました。私は着替えると、受け取ったキーカードをポケットに入れ部屋の外へ出た。彼女が開けっ放しにしたドアから出ました。研究所は人はほとんどおらず、ロボット達がひたすら動いているだけでした。廊下にはいくつもの部屋がありそれぞれ研究室などがあるようだった。暫く廊下を歩いていると出口が見えてきたようで扉を開くとそこはどこかの街の中のようでした

「......ここは...」

見覚えの無い街で戸惑っていると背後から何か音が聞こえた気がして振り返るとそこには研究所で出会った女性がいました。

研究所での白衣とは違い、いわゆる典型的な女性の服装でした。

「...こんにちは」

私が挨拶をしながら近づいていくと彼女は笑顔で手を振りながら言った 。

「やっと出てきたわね!それじゃ行こっか!」

いきなり手を引っ張られて連れて行かれました 。

「え?!ちょ!どこに行くんですか?!」

慌てて聞いてみても彼女は何も言わずにただ笑顔で歩き続けるだけ。しばらく歩いて行くと大きなショッピングモールがあったようです。そこに入る前に彼女が止まり振り返った 。

「ここがこの街で一番大きいショッピングモールよ。ここには色んなお店があるからとりあえず見て回ろっか」

そう言ってまた私の手を引いて歩き出した彼女に連れられて中に入りました。

そこで見たものは今まで見たことがないようなものばかりでどれもとても新鮮味がありました 。

それから色々な場所を見て回り、ゲームセンターに行ったりファッション雑貨店だったり本屋だったりレストランだったりその他にも色々回っているうちに夕方になっていた 。

「...もう暗くなるわね...今日は最後にちょっと寄り道してこよっか」

そう言われて着いた場所は展望台のような所です。

「わぁ...!」

眼下には様々な建物や人々が行き交う様子が見えました。

「...綺麗ですね」

思ったことをそのまま口に出すと彼女がにっこりと笑って頷いていた。

「...そうね、私もここを気に入っちゃった」

そこから少しの間無言のまま景色を眺めていたが彼女がこちらを向く

「...さて、そろそろ暗くなってきちゃったし帰りましょうか」

そう言われ周りを見渡すと夕日に照らされているせいか街全体が茜色に染まっているように見えた

「...そうですね、それじゃあ戻りましょう」

私達は展望台を出るとそのまま来た道を戻って帰って行った。 次の日になると再びあの女性に呼び出されていた 。

「やっほー昨日ぶりだね、今日もよろしくね!」

元気よく挨拶する彼女を見ながら昨日のことを思い出す。(そう言えばこの女性って一体何者なんだろう...?)ふとそんなことを聞いてみることにした 。

「...えっと、貴女って何者なんですか?」

その言葉に驚いたような表情を浮かべる彼女だったがすぐに笑顔を浮かべて答えた 。

「...そっか...私自己紹介してなかったっけ?なら今しておくね。私の名前はサナって言うんだ!よろしくねっ♪」

その笑顔はとても眩しかった。

「どうして、私を連れ出してくれたんですか。私、運動神経が良いだけで他に得意なことなんてないですよ。」

そういうと一瞬キョトンとしたような表情をした彼女もすぐ笑顔に戻し言った

「確かに君の言う通りだけど...私は君のこと気に入ったんだよ。」

そう言われて思わずドキッとしてしまう。

「...な、なんでですか...?」

動揺を隠せないまま質問するとサナさんはふふっと笑った後にこう続けた 。

「...君が外の世界に興味を示したからだよ、君はずっと部屋の中に引きこもってるからさ...だから外の世界をもっと知って欲しいと思ったの、ただそれだけかな?」

それを聞いた私は何故か少しだけ嬉しくなった。

「...まぁ、それならいいんですけれど...」

それからしばらくの間雑談をしていると突然サナさんが立ち上がった。

「さてっと、今日の用事は終わった事だし私は帰るねーバイバーイ!」

そう言って走り去って行く彼女を見送りながら

「本当に不思議な人だったなぁ......」

と一人で呟いた。

それから、毎日のように彼女は私の部屋に来た。その度に楽しい会話をしたし時には外で遊ぶこともあった。でも...時間が経つに連れて少しずつ外に行くことが減り始めた。最初は外に出たいと思うこともあったが、最終的には彼女との会話の方が面白いように感じ始めた。

ある日、彼女が私の部屋に来なくなった。そのことを不思議に思いながらも次の日を待つ。しかしその日になっても来なかった

「おかしい...いつもならとっくに来てるのに...。」

そう思っている内に不安で胸が張り裂けそうになる。私は部屋から出て彼女を探すことにした。前に彼女に貰ったカードを使い私は外に出る 。外に出たのは久しぶりだった。少し走ると見慣れた場所に出る 。

「ここは...」

私は目の前の光景が信じられなかった。ロボットは動いておらず、照明もほとんどが消えている。まるで廃墟のような状態になっていたのだ。

「ど、どういうこと...?」

疑問になりながら辺りを見渡すと遠くの方で何かが動いたような気がした。

(まさか!)そう思い急いでそちらの方へ向かうとそこには彼女がいた。彼女は壁に寄りかかっていて、動いていなかった。

「あの、大丈夫ですか?」

彼女は何も答えない。よく見ると、壁から彼女のうなじに向かって太い電線がつながっている。

そこで私は気づいた。

「これは...もしかして...」

嫌な予感を感じつつも彼女に近づいていく

「ねぇ、これって...」

私が言いかけた瞬間

バチンッ!

電流が流れたような音がして彼女の身体がビクンと震えた。しばらくして彼女の腕がだらんと落ちたかと思うとそのまま地面に倒れた。関節は明らかにおかしく曲がっている。所々では、配線が見えている。彼女が人間ではなく、アンドロイドであるということは到底信じられかった。私は怖くなり逃げ出したくなる。

(怖い...怖いよ...)

そう思うものの足が動かない。

すると、机の上にある一枚の紙が目に留まった。何かの論文らしい。著者名には私の知らない名前と「x」という判が押されていた。私が初めて会話した彼のことだろう。論文をパラパラとめくると、この論文の趣旨が分かってきた。彼はこの研究所で造られた人造人間の観察をしていたこと。そして、その人造人間が一般社会に溶け込めるのか実験していたことだった。そのためにアンドロイドを使い、人造人間の人格形成をしているらしかった。そのアンドロイドがこの彼女なのだろう。(こんな研究があったんだ...なんで今になって......)そう思った直後、私は自分が置かれている立場を理解し恐怖した。私は所詮、実験対象だったんだ。そう考えただけで身震いする。その時、遠くから大きな物音がした。そういえば、なんでこんな状態になったんだ。少なくとも、私が前に外出した時はこんな状態ではなかった。私は研究所の外に出ることにした。廊下を歩いて、出口に着いた。カードを入れる機械は何も反応しなかったので、ドアを押してみるとすんなりと開いた。

外に出ると、そこはまさに地獄絵図だった。道には車の残骸から煙が上がっており、至る所で火災が起きていた。

「なにこれ......」

何が起きたのだろうか。彼女の足元に一枚の紙が風に乗って落ちてきた。彼女はそれを拾い上げた。黒く焦げてはいるが、新聞らしい。見出しには「A国がB国に宣戦布告。第3次世界大戦の開幕か。」と書かれていた。どちらの国も超大国で、資源関係で戦争に発展したらしい。この場所も、その被害を被ったのだろう。

私は彼女と初めて行った展望台のような場所に行くことにした。そこに着くと、眺めは絶望的だった。町はほとんど壊滅しており、建物も全て倒壊しているようだ。さらに、空を見上げれば戦闘機や戦車が乱舞している。

「これからどうなるんだろう...」

そう思いながら私は展望台を後にした。

私は研究所の部屋に戻った。もうどうでもいい。

初めの誰とも話さなかったときに戻っただけなのだ。

私はいつものように部屋で遊ぶことにした。

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