フェイス・ブレイカー ~外見至上主義を裁く執行人~

江葉内斗

face.1-1 野々宮修司、又の名をネブラ

 「おいみやぁ! ちょっとこっち来い!」

 ったく、相変わらず無駄に声がデケえ上司だ。俺のとこから5mも離れてねえじゃねえかよ!

 「うーす」仕方ねえから俺は事務椅子からのらりと立ち上がり、くらりと課長の席まで向かう。  

 さっきの声からまったく声量を落とさず課長が喚いた。

 「なんだこの企画書は!! スペルミスが八か所もあるじゃないか!! おまけに内容自体もひどいもんだ! 何なんだスイカの種が世界征服するって!!」

 「ええっ!!? いいじゃないすか!! スイカの種かわいいでしょ!!」

 「いいか野々宮ぁ!! 今はただでさえ『顔』による評価が大きい時代なんだ!! スイカの種なんて地味なもん主人公にしたって誰が飛びつくんだ!!? もっとイケメン・美少女ばっかりのゲームを作れ!!」と、せっかく作った企画書を机にたたきつけやがった。

 「……ふぁーい……」クソッ、あのブス野郎……よくこんな世の中で課長まで出世したもんだ。



 オレの名前は野々宮しゅう

 新卒で晴れて東京の一流ゲーム企業「スターズ」に就職して三か月たったはいいが、まあ、見てのとおりひどいもんよ。

 上司がブラックなのは百歩譲って良しとして、自由なアイディアを出せねーんだよ! オレたちクリエイターの考えてることなんてこれっぽっちもどうでもいいみたいだ。


 西暦2040年、今日本では空前の整形ブームが巻き起こってやがる。

 いわゆる「外見至上主義」が進みまくった現在では、恋愛だけじゃなく、進学、就職が顔だけで有利不利が決まる。

 さらには日常の些細なトラブルもすべて美人に有利に傾くと来た。

 オレは顔面偏差値はまあまあだったから、学歴が評価されて就職できたが、同期で就活してたブス野郎は肉体労働の仕事しか就けなかったなぁ……あいつ体弱えーのに大丈夫か?

 ま、そんな世の中だから、どいつもこいつも整形したがるわけよ。

 だけどな? 整形手術の費用はいつまでたっても保険適用外なんだよ。

 だから金持ちとそうじゃない奴らで顔面偏差値はどんどん差がつくのさ。

 ブスで金もなきゃそれで人生ゲームオーバー。

 逆に美人か金持ちに生まれりゃ勝ち確ってやつだ。

 そうして生まれながらの「人生の負け犬」は、美人たちを恨む、呪う、敵視する……

 その結果、日本は今結構やべー敵と戦うことになった。

 え? 話した内容が十分やばいって?

 まあ見てなって。早速オレのスマホに通知が来た。

 さあーて、「副業」の時間だ。

 「すいません! 便所行ってきます!」

 「おう、さっさと行け!!」



 ま、便所はもちろん嘘だ。

 俺は今、駅前の繁華街にバイクで向かっているところよ。

 さあーて、今回の標的ターゲットは……

 お、いたいた!

 高さ10mはあるようなバケモノだ。やりがいがあるぜ。

 近くにバイクを止め、ヘルメットを脱ぐ。

 え? あのバケモノは何なんだって?

 今は答えてる場合じゃねえ! とっとと片づけるぞ!

 そこで登場しますのはこの真っ黒な楕円。

 お盆じゃねーぞ。こう見えても「仮面」だ。

 こっからオレの見せ場だからな!目ん玉見開いてよーく見てろ!

 「装着!!」とカッコよく言い、そして仮面装着!!

 「装着者・野々宮修司の生体データと一致、パーソナリティレスアーマー、転送」

 くぅぅ~~~!この美声システム音声がたまんねえ!

 俺の足元から光の環が出現し、徐々に上に登っていく。

 光輪が通過する部分から、オレの体が黒くてメタリックなかっこいいパワードスーツに覆われていくぜ!

 頭まで装着完了すると、ただの黒いお盆だった仮面に目と鼻の模様が出現するんだぜ! まあただの線だけどな!

 さあーて、この特殊パワードスーツ「パーソナリティレスアーマー」の性能を見せてやろう。

 まず俺が「アームブラスター、起動!」と言えば、左腕の機械がなんかこう……いい感じに動いて、手首の外側にかっこいいマシンガンタレットが出てくるだろ?

 あとはぶよぶよでデカいくせに結構機敏に動くあのバケモノを狙って……


 パシュシュシュシュシュシュ!!!


と、エネルギー弾を撃ちまくるのよ。

 黄色く光る弾はバケモノの体に見事全弾命中!!

 オイ聞こえるか? あのバケモノオボボボボボとか言ってやがる。

 おっと、バケモノの視線がこっちを向いたな。

 さあーて、今度はこいつだ!

 ん? 「さあーて、」が多すぎるって? オレの口癖なんだ! ほっとけ!!

 「アベレージソード、起動!」

 今度は右腕からビームソードがビカーッと出てきたぜ!

 そこでオレは一気に踏み込んで大きく跳びあがり、バケモノが突っ込んでくるのをすれ違いざまに


 ズバシャアアアアアアア!!!


とぶった斬ってやったぜ!!

 バケモノの切り傷から緑色の汚い汁が噴出して、そのままズドーンと倒れちまったよ。

 そしてそのまま 大☆爆☆発

 いやー、図体デカいだけの間抜け野郎で拍子抜けだぜ。

 ところで、このアーマー脱ぐにはどうすれば良いかっつーと、簡単だ。

 仮面をとっちまえばいい。

 だが、今は解除しねぇ。

 この姿でもう一仕事、やらなきゃいけないことがある。

 俺はさっきまでバケモノに追われていたかわい子ちゃんのもとへ駆け寄った。

 あらあら、腰抜かしてやがるよ。くーっ、可愛いねえ。

 おっといけない、これは仕事なんだ。


 「大丈夫かい? かわい子ちゃん」「あ……ありがとうございます……あの、あなたは、いったい……?」

 「俺か? 俺は『フェイス・ブレイカー』の一人だ。聞いたことあるだろ?」

 そう、俺は総務省直属対異形戦闘集団「フェイス・ブレイカー」の一人。


 野々宮修司、またの名を団員名コードネーム「ネブラ」。

 それがオレのもう一つの姿だ。


 「あ、あの……」かわい子ちゃんがおれに話しかけてきたぞ。声かわいいなぁ。やばい惚れちまうじゃねーか! 気をしっかり持て!! オレ!!

 「ああ、あれはな、『アグリー』というバケモノだ」俺たちフェイス・ブレイカーの仕事は二つ。一つは日本各地に出現するアグリーをぶっ飛ばすこと。

 もう一つは……

 「アグリー!? これが!? なんで私なんか!?」

 「知ってるだろう? アグリーは現世で恨みを持った奴が、醜い異形にその身を変えた姿だ。なんか恨まれるようなことしたか?」

 「しっ……してないわよ!!」おーおー、白を切るつもりか。ならちゃーんと現実を見せてやらなきゃなぁ。

 「あのアグリーの生前の名前は、だかあき。大手週刊誌の社員だったが、生まれつき顔に大きな痣があったせいで激しいいじめを受け……」そこまでしゃべったところで「お、小高!!? あの醜いクソ野郎が!!?」と割り込んできやがった。

 ここまでムカつく態度だとさすがのオレもキレちゃうね。

 オレはかわい子の肩を掴んで怒鳴り付けてやった。

 「いいか!? かわい子ちゃん、あいつはな? お前のその傲慢な態度のせいで生き地獄を味わい続け、最終的に禁断の力にまで頼ってお前に復讐しようとしたんだぞ!!! お前には自責の念ってモンがねーのかぁ!!?」

 かわい子ちゃんはそれでもオレに食って掛かった。「知ったことじゃないわよ!! ブスをいじめて何が悪いの!!? 大体なんであんな奴があんな一流会社に就職できたわけ!!!?」

 あーあ、ここまでくるとさすがのオレも同情の余地はないな。

 「かわい子ちゃん、今から俺と一緒に来てもらう」そう言ってオレはその子の手に手錠をかけた。

 「は? 何すんのよ!! いったい何の権限があってそんなこと!!?」

 「十一時二十七分、『標的ターゲットはしもと逮捕っと……」なんかギャーギャー騒いでるが、まあ、何も聞こえねえ。

 フェイス・ブレイカーのもう一つの仕事。

 それは、アグリーの憎しみの対象である標的ターゲットの補導・逮捕だ。

 その場で自分の外見至上主義に関する認識を改めれば終了、改めなければ再教育収容所にドナドナされるってわけよ。

 収容所では人を外見やその他の要素で差別しないことを教えるが、それでも反省しない奴には「平均化手術」が執り行われる。つまり全く個性のない平凡すぎる顔にされちまうってわけだ。

 え? 厳しすぎやしないかって? 仕方ねーだろ、今や外見による差別被害は深刻なんだ。アグリーの出現含めてな。

 だから国のお偉いさん達はアグリーをの集団を作ったってわけだ。


 おっと、そろそろ戻らねえと課長にまた怒鳴られちまう。

 というわけでオレは会社に戻るぜ。その前にこの子を収容所まで送ってからな。

 「話せ!! この変態!! クソおやじ!!」「うるせー!! オレは二十三歳だ!!」

 じゃあなお前ら!

 みんなも黒い仮面持ってるやつには気をつけろよ!!



 1-2 橋下奈由香、美に囚われたその半生 に続く

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