第79話 十二月十八日は東京駅完成記念日

 一九一四(大正三)年のこの日、東京駅の完成式が行われた。

 一九〇八年から工事が行われ、六年半かけて完成した。十二月二十日に開業し、東海道本線の起点が新橋駅から移された。



「ほら、見て、富士山が見える!」


 新幹線の窓から富士山が見え、みんな一斉に歓声を上げた。

 私たち中学校の同級生八人は修学旅行中で、新幹線に乗って東京駅に向かっている。修学旅行の行き先が東京の時点で分かるかも知れないけど、私たちが住んでいる場所はかなりの田舎だ。初めて東京に行く人も多い。だから東京が近付くに連れて、みんなのテンションも上がっていた。


「あとちょっとで東京駅ね。そこはもう東京! 夢にまで見た東京!」


 ミキちゃんが目を輝かせて窓の外を見る。


「私は絶対に東京の大学に行くの! で、東京の会社に就職して、ずっと東京に住むのよ」


 マリちゃんがそう言うと、他のみんなも「俺も」「私も」と同調する。

 そんな楽し気に盛り上がっている中、ユウちゃんが浮かない顔で立ち上がり、トイレの方に向かって通路を歩いて行った。私はユウちゃんの様子が気になり、後を追う。

 ユウちゃんはトイレに入ったようだ。私はどうするか迷ったが、出て来るのを待つことにした。


「あっ、ユキもトイレ?」


 トイレから出てきたユウちゃんは、私を見てそう言った。


「ううん、違うの。ユウちゃんの様子が気になったから……」


 実はみんなには内緒しているが、ユウちゃんから告白され、私たちは一か月前から付き合っている。私も幼い頃からユウちゃんが好きだったが、告白する勇気が無かった。告白されて両想いだと分かった瞬間は、飛び上がりそうなくらい嬉しかった。


「別に何でもないよ」


 ユウちゃんはぶっきらぼうにそう言う。でもそれは嘘だと思った。


「ユウちゃんは東京行くのが嫌なの?」


 私にはユウちゃんが沈んでいる原因に心当たりがあったので、そう聞いてみた。だが、ユウちゃんは何も答えない。


「ユキも東京で暮らしたいの?」


 しばらくの沈黙の後、ユウちゃんが口を開いた。

 やはり、ユウちゃんが沈んでいる原因はみんなが将来東京で暮らしたがっていることだったんだ。

 実はユウちゃんの家は古くから続く旅館を経営していて、ユウちゃんはその跡取りなんだ。だから、ユウちゃんはみんなみたいに、将来東京に出たいと思っていても、叶えられない。

 私も将来東京で暮らしたい気持ちはある。でもそれが絶対だとは思えなくて、気持ちは揺れている。


「私は……まだよく分からない。ユウちゃんは私にどうして欲しい?」


 私はズルい質問をした。自分の将来を決めることが出来ず、ユウちゃんに答えを求めているんだ。。


「最近旅館の仕事を手伝い始めたんだ。でもまだ半人前だから、何も出来なくて。無責任にユキにどうして欲しいか言えないよ」


 ユウちゃんはまだ中学生なのに、将来を真剣に考えている。だから私に安易なことを言わないのだろう。


「でも、あと三年待って欲しい。それまでには、旅館の後を継ぐ自信を付けるよ。その時には今の質問の返事をする」

「うん、私ももっと自分の将来のことを考えるよ」


 三年後、進路の選択を迫られた時、私とユウちゃんは同じ道を選ぶんだろうか? ずっとずっと将来まで一緒に暮らしていく未来を想像すると、気持ちが温かくなる。それが現実になれば良い、なるように頑張りたいと思った。

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